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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(213) パラスポーツの世界で存在感を増す、女子選手にも注目を!

昨日、2月25日で閉幕した平昌オリンピックで、日本は史上最多となる13個のメダルを獲得。うち8個は女子の種目でした。団体種目も2つあったのと、大会後半に向かって女子のメダリストが一気に増えたこともあり、強く印象づけられました。もちろん、男子も素晴らしいパフォーマンスでしたが!

競技にもよりますが、一般的にみれば、スポーツの世界は男子のほうが多いものです。パラスポーツも同様で、もしかしたらより顕著かもしれません。でも近年、国際パラリンピック委員会(IPC)では、女子の参加枠を増やし、「参加率の男女公平化」を進めています。

例えば、IPCは2020年の東京パラリンピックでは22競技537種目を実施し、選手数の上限は4400名と発表していますが、そのうち女子の選手枠としては少なくとも1756名分が確保されていて、約39.9%となっています。

まだ、男子優勢ではありますが、過去の大会と比べてみると、少しずつながら女子の人数は増しています。前回リオ大会では全4328名中、女子は1671名で38.6%。前々回のロンドン大会では全4237名中、女子1501名、35.4%とたしかに増加傾向です。東京大会では男女混合種目も294枠あるので、女子の数がもう少し増え、4割を超えてくる可能性もあります。

パラアスリートの絶対数が少ないこともあり、もともと男女混合の競技もあります。例えば、車いす同士の激しいタックルが魅力のウィルチェアーラグビーはその一つ。コート上の4選手の持ち点の合計は8.0点までですが、女子選手が出場する場合は1名につき持ち点の合計から0.5点がマイナスされるルールがあり、女子の投入により選手起用の幅が広がります。イギリス代表など女子選手を擁してパラリンピックに出場経験のある国もいくつかありますし、現日本代表でも女子選手が活躍しています。女子のさらなる普及と強化を目的に、昨年12月には世界から女子選手を集め、合宿と試合が行われ、日本からも3選手が参加しています。

また、スレッジと呼ばれる専用そりに乗って行うパラアイスホッケーも混合競技ですが、女子の参加促進のため、間近に迫る平昌パラリンピックでは、女子1名を含む場合は18選手まで登録可能という特別ルールが採用されています。例えば、平昌大会出場国の中ではノルウェー代表に女子選手がいます。大舞台での活躍も楽しみです。


▼フィジカルの不利を、機動力や俊敏性で克服
パラスポーツでも女子選手への注目と期待が高まるなか、今月は女子選手だけの国際大会があいついで開かれました。まずは、2月15日から17日に大阪市中央体育館で行われた、「2018国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会(大阪カップ)」です。車いすバスケットボールは他の競技に比べると、女子の競技者数が多いほうだと思います。この大阪カップも2003年に男子の大会として創設され、2007年からは国内唯一となる女子車いすバスケットボール国際大会として歴史を刻んでいます。

今年は日本、オランダ、イギリス、オーストラリアの4カ国が参加。総当たりの予選リーグ戦を経て、日本は3位決定戦でオーストラリアに46-61で敗れ、4位で今大会を終えました。決勝戦ではオランダが接戦の末、イギリスを50-45で下して優勝しています。

実は、日本は昨秋のアジア・オセアニア選手権で4カ国中3位となり、この夏開催予定の世界選手権出場権を逃し、今年1月には北京パラリンピックでも女子代表を率いた岩佐義明ヘッドコーチ(HC)が就任。2020年に向けて新体制で始動したばかりの「岩佐ジャパン」にとって、今大会は強豪国相手に現状を知る貴重なチャンスでした。

車いすバスケットボールはジャンプができない分、元々の身長が大きくものをいいます。世界に比べ、圧倒的に小柄な日本は機動力や持久力を活かしたスピーディーなプレイや精度の高いシュート力で活路を見出そうとしています。

今大会は最下位に終わりましたが、日本の戦いぶりを振り返ると、優勝したオランダは12年ロンドンパラリンピックと16年リオ大会の銅メダルを手にしており、日本は38-71と大差で敗れたものの、シドニー大会から3大会銀メダルのオーストラリアには予選で55-74、今大会準優勝のイギリスには48-56と粘りを見せました。開催国として3大会ぶりのパラリンピックとなる2020年東京大会に向け、さらなる強化に期待です。


▼1000人の観客が、どよめいた! 
視覚障がい者を対象にしたブラインドサッカーでも徐々に女子の存在感が増しています。パラリンピックではまだ男子選手のみが対象ですが、いずれは世界選手権やパラリンピックにおいて女子の部の創設へと発展する可能性もある競技の一つです。

日本でも10年ほど前から女子選手が参加しはじめ、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)主催の国内リーグなどでは女子選手の参加も認められています。ただ体格や運動能力に差異のある男子に混じってのプレイでは難しいものがあり、2014年からは本格的に女子選手単独の普及・強化を開始。2017年4月1日、正式に女子日本代表チームが発足しました。

世界的にも女子選手は増えており、国際視覚障がい者スポーツ連盟(IBSA)が昨年5月、オーストリア・ウィーンで史上初めて開催した女子の選手や審判らを対象にした合同合宿には世界16カ国から75名(うち、女性60名)が集まっています。最終日に行われた女子だけの初の国際大会「IBSA女子ブラインドサッカートーナメント2017」では日本代表がイングランド・ギリシャ選抜、ロシア・カナダ選抜、IBSA選抜(日本、イングランド、ギリシャ、ロシア、カナダの選手を除いたメンバーで構成)と対戦し、4戦全勝で優勝。長年の強化が実った形となりました。

そして、先週末2月26日(土)には国内初開催となるブラインドサッカー女子の国際親善試合、「さいたま市ブラインドサッカーノーマライゼーションカップ 2018」がサイデン化学アリーナ(さいたま市)で行われ、「世界女王」日本代表がアルゼンチン選抜に7-3で快勝。接触もいとわないアグレッシブさ、巧みなドリブルで敵陣に切り込んでからの迫力あるシュートなど、約1000人の観客を驚かせました。

アルゼンチンのエース、ショアナ・アギラ―ル選手(左)からボールを奪おうとする日本の菊島宙(そら)選手。二人合わせて、9得点! (撮影:吉村もと)

アルゼンチン選抜は同国内で活動するクラブチームで、7年前に世界初の女子チームとして結成された歴史ある強豪チームです。試合は開始早々4分にアルゼンチン選抜のエース、ショアナ・アギラ―ル選手が切れのある動きで先制し、5分にも追加点を挙げリードを広げたものの、途中から投入された菊島宙(そら)選手が前半9分、自陣で奪ったボールを前に蹴りだす高速ドリブルであっという間に敵陣に持ち込み、1点を返します。主導権を取り返した日本は、18分、19分にも菊島選手が加点し、3-2で前半を終えます。

来日したアルゼンチン選抜は、7年前に創設された世界初の女子だけのブラインドサッカーのクラブチーム (撮影:星野恭子)

後半も日本ペースのまま、3分、6分に菊島選手が2点を加え、10分には斎藤舞香選手が代表初得点と畳みかけます。アルゼンチンも12分にアギラ―ル選手が1点を返してハットトリックを達成するも、19分には菊島選手がダメ押し点を挙げました。大会MVPには菊島選手、MIPにはアギラ―ル選手がそれぞれ選出されました。

ブラインドサッカー選手には珍しい、前に蹴りだすドリブルで突破し、右足を気持ちよく振り切って6点を挙げた菊島宙(そら)選手 (提供:日本ブラインドサッカー協会)

自身初となるダブルハットトリックの偉業を達成した菊島選手は、「チームみんなの支えのおかげで獲ることができた点。もっとうまくなって日本チームを支える存在になりたい」とコメント。また、日本女子の先駆者のひとりでもある斎藤選手は、「競技を始めた10年前には国際試合が日本で開かれるなんて想像もできなかったので、感動している。女子選手をもっと増やし、応援されるチームになりたい」と、それぞれ目標を話してくれました。

さらなる躍進が期待される、ブラインドサッカー日本女子代表 (撮影:星野恭子)

このように、パラスポーツにおける女子選手の普及・強化が積極的に進められ、活躍が伝えられることで、障がいのある女性たちを励ますことにもなるでしょう。また、「私もやってみたい」と夢や目標を与えることにもなるはずです。まだまだ国際大会も少なく、男子に混じってプレイする選手も多いですが、パラスポーツ観戦の際はひたむきにスポーツに取り組む女子選手たちにもぜひ注目し、大きな声援をお願いします。

(文・取材:星野恭子)