ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

佐野稔の4回転トーク 17~18シーズン Vol.⑮ 宇野と、ふたりのOAR女子 ~「平昌五輪・団体戦」を振り返って

男子総崩れのなか、ひとり気を吐いた宇野昌磨

 1日目が終了した時点では「このままいけば、銅メダルの可能性も」と期待の膨らんだ日本チームでしたが、フリー(FS)ではペア、男女のシングル、アイスダンスと、4種目すべてが5チーム中5位。得点を伸ばすことができずに、前回のソチ五輪と同じ5位で団体戦を終えました。

チームの合計得点はソチ大会の51点に対して、今回が50点。メダル圏である3位チームとはソチのときが9点差で、今大会は12点差と、ほぼ横這いの成績だったのですが、大半の選手が初めての五輪で、しかも最大の得点源になったはずの羽生結弦が不在のなか、この順位を維持できたのですから、それはそれで良しとすべきかもしれません。

 開会式に先立って行われた男子のショート・プログラム(SP)では、ネーサン・チェン(アメリカ)、ミハイル・コリャダ(OAR)、パトリック・チャン(カナダ)といった有力選手たちが、枕を並べて次々転倒。やはりフィギュアでは異例な午前開催の影響があるのか…とも思ったのですが、1日空いての女子SPになると、そんなことは感じさせない演技が続きました。単に男子全体の出来が低調だったようです。

 そのなかにあって、唯一しっかりとした内容で100点超えしたのが宇野昌磨でした。冒頭の4回転フリップこそ体重がやや左側に乗っていたため、着氷で手を付いてしまいましたが、それ以外は宇野自身「全日本選手権のほうが緊張した」と話したくらい。さすが金メダル候補といった安定感のある滑りでした。

 このところ続けて失敗していた「4回転トゥ・ループ-3回転トゥ・ループ」のコンビネーション・ジャンプに成功。1月の「四大陸選手権」ではレベル2止まりだったステップ・シークエンスでレベル3を獲得と、懸念材料を払拭できたことも収穫です。前回のソチ五輪では、団体戦のSPで1位となった羽生がそのまま、個人戦の金メダルを獲得しました。同じように宇野も王者への道を歩むのか。期待は高まります。


厳格な判定に、宮原の得点は伸び悩む

 宮原知子はまたしてもジャンプの回転不足に泣かされる結果となりました。SPの演技を終えると、珍しく氷上でガッツポーズをしたほど。本人は納得の内容で、まさか「3回転ルッツ+3回転トゥ・ループ」の両方が回転不足になるとは思ってもいなかったのでしょう。「68.95点」とスコアが発表された瞬間の「えっ」とした表情に、その困惑が表れていました。

とはいえ、宮原だけが‘狙い撃ち’されたワケではありません。宮原より順位が上だったカロリーナ・コストナー(イタリア)やケイトリン・オズモンド(カナダ)も、コンビネーション・ジャンプ後半の3回転トゥ・ループが回転不足と判定されました。テクニカル・パネルがより厳格に採点にのぞんでいたことが、痛手となりました。

 宮原の動きそのものにはキレがあり、演技全体の流れも良かったと思います。ジャンプの回転不足以外は、素晴らしい滑りでした。前回のコラムのくり返しになりますが、課題は明白なのです。個人戦の女子シングルが始まる21日まで、どう克服していくのか。これまで幾度の困難を乗り越えてきた努力の人、宮原知子の真骨頂を見せて欲しいと思います。


重圧に飲み込まれた田中、ミスから立ち直った坂本

 男子はSPに続きFSも、あまり高いレベルの戦いにはなりませんでした。最終5番目の滑走者だった田中刑事の演技が始まる段階で、1位パトリック・チャンのスコアが179.75点、2位のミハイル・コリャダが173.57点。田中の「全日本選手権」のときのFSが175.81点でしたから、「これは十分勝負になる。日本チームの躍進もあるぞ」と胸を躍らせていたのですが、いきなり4回転サルコゥが2回転になる失敗。あとはミスがミスを呼ぶ悪循環。あまりに力が入り過ぎていました。結果は「全日本」に遠く及ばない148.36点と、完全に重圧に飲み込まれてしまいました。

 田中刑事と同様、女子FSに出場した坂本花織も相当緊張していたのか。ジャンプに持ち前の高さがなく、冒頭に予定していた「3回転+3回転」のコンビネーションが単独になってしまいました。ところが、そこで彼女は自分を見失うことなく、立ち直りをみせました。演技が進むにつれ、むしろジャンプの高さが増したほどです。

後半の「3回転+2回転」のコンビネーションを「3回転+3回転」に変更して冒頭のミスを取り返し、ダブル・アクセルからの3連続ジャンプが2連続になると、すぐさま最後のダブル・アクセルを3連続にしてリカバーしたあたりも、たいしたものです。順位は5位でしたが、個人戦に向けて良い感触も得たことでしょう。


羽生がいよいよ平昌入り。女子はザギトワ有利か?

 パトリック・チャンとミハイル・コリャダのFSには、大きく崩れたSPのイメージを引きずった感がありました。ネーサン・チェンはここに来て、苦手なトリプル・アクセルでの失敗が続いています。中国チームがFSに進めなかったため、金博洋(ボーヤン・ジン)の団体戦での出番はありませんでした。

もちろん最大の関心事は、この大舞台が3ヶ月ぶりの実戦となる羽生結弦の状態です。平昌に来て最初の氷上練習を見る限り、右足首の不安はなさそうなのですが…。団体戦が終わって、いま視界良好と言えるのは宇野昌磨くらいです。

 女子については、自身の持つSPの世界最高得点を更新してみせたエフゲニア・メドベージェワと、20点以上の大差をつけてFSで1位になったアリーナ・ザギトワ(いずれもOAR)。金メダル争いは、この同門のふたりの一騎打ちで、まず間違いないでしょう。

 両選手のプログラムを比較すると、女子で最高難度のコンビネーションである「3回転ルッツ+3回転ループ」を、SPとFSのどちらにも組み込んでいるザギトワのほうが、メドベージェワよりジャンプの基礎点が5.42点も高い構成になっています。ですが、ザギトワが優勝した今年1月の欧州選手権のときも、演技構成点ではメドベージェワがSP、FSともにザギトワを上回っていました。

 ただし女子の場合、演技構成点がSPで最高40点、FSは80点と、男子より低く上限が設定されているため、得点全体のなかで演技構成点の占める割合がどうしても小さくなります。その分、際限なく積み重ねることができる技術点で勝負するザギトワのほうが有利かもしれません。いずれにせよ、勝ったほうが世界歴代最高得点―。そんなハイレベルな決着になったとしても、不思議ではありません。