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佐野稔の4回転トーク 17~18シーズン Vol.⑭ 宮原の乱れ、坂本の急成長。驚きのなか 日本女子が表彰台独占~「四大陸選手権」を振り返って

驚かされた宮原知子の大きな乱れ

 2013年大会の浅田真央、鈴木明子、村上佳菜子以来の表彰台独占となった日本女子ですが、今回私が最も驚かされたのは、宮原知子の大きな乱れでした。3回転ルッツの回転不足がありながら、ショート・プログラム(SP)は首位スタート。さすが日本のエースと思わせましたが、フリー(FS)ではまたしても3回転ルッツが回転不足になり、後半の3回転サルコゥで転倒。試合後に悔し涙を流す宮原の姿を見るのは、久々な気がします。

 ケガからの復活劇のほうがあまりに鮮やかだったため、さほど目立っていなかったのですが、今シーズンの宮原には3回転ルッツに対する苦手意識があるようです。今回も6分間練習の段階から安定感に欠けていて、強引に跳びに行っているように見受けられました。復帰戦となった昨年11月の「NHK杯」以降、出場した5つの大会で、3回転ルッツがSP、FSのどちらも回転不足にならなかったのは、優勝した「スケートアメリカ」だけなのです。そのことは本人も自覚しており、今回はスケート靴のエッジのつま先ではなく、中ほどの部分で着氷することを意識したそうですが、ただちに結果にはつながりませんでした。

じつはジュニア時代から宮原には、回転不足に悩まされる傾向がありました。彼女のジャンプは、高さが出るタイプではありません。踏み切ってから着氷するまでの時間が短いため、回転不足に陥りやすいのです。ただ、昨シーズンのケガをする前などは、その悪い癖をキチンと克服していました。ところが、ケガの影響で追い込む練習ができないからなのか。今シーズンは、その前の状態に戻ってしまったかのようです。

 ほとんどのスピンやステップがレベル4だったように、ほかに問題はありません。課題は明白です。幸い平昌(ピョンチャン)五輪の女子シングルは大会13日目(2月21日)から行われる予定で、まだ少し時間に余裕があります。この間に一度、ジャンプに重点を置いて見直してもいいかもしれません。


まさに伸び盛り。試合のたびに上手くなっている坂本花織

 今回さらに驚かされたのは、坂本花織の急成長ぶりです。五輪の出場権が懸かった昨年末の「全日本選手権」では、さすがに不安げな様子を見せる瞬間があったのですが、今回はそうした場面がひとつもありませんでした。坂本自身「3大会続けて(総合)210点を超えられたら、本物だと思える」と話していましたが、「スケートアメリカ」「全日本」、そしてこの「四大陸」で、その言葉を見事体現してみせました。試合を重ねるたびに上手くなっています。五輪に向けた世界のジャッジに対するアピールの点でも、良い優勝になりました。

 あれだけ大きさのあるダイナミックなジャンプを、目の前でバンバン跳ばれたら、審判だってついつい加点しちゃいますよ(笑)。それはともかく、4分間あるFSの最初から最後までジャンプの力強さがまったく衰えないのは、坂本の大きな魅力です。タイプとしてはパワー系。バンクーバー五輪銅メダリストのジョアニー・ロシェットや、ケイトリン・オズモンド、ガブリエル・デールマンといったカナダの女子選手を彷彿させる、観ていて気持ちの良い演技をしてくれます。

 平昌の金メダル候補であるエフゲニア・メドベージェワやアリーナ・ザギトワ(いずれもロシア)とは、まだまだ表現面に差があります。表現力というのは、2~3週間の短い期間で簡単に高まるものではありません。が、それでもいまの坂本には、伸び盛りならではの勢いがあります。五輪本番でも何かしらのインパクトを残してくれるのではないか。そんな楽しみがある選手です。


ショートとフリーを見事に演じ分けた三原舞依

 総合2位となった三原舞依も素晴らしかった。昨シーズンの優勝がフロックではなかったことを証明してみせました。FSの滑走順で日本女子3選手が連続したのは、三原にとってマイナスだったかもしれません。というのは、直前に滑った坂本花織に、身体の大きさやジャンプの迫力といった面では、どうしても敵わないところがあります。それでいて同じ日本人選手ということで、ことさらに比較されてしまう可能性があったからです。ですが、三原は自分の滑りに徹して、ほぼノーミスでSP、FSを揃えてみせました。

 ずっと納得のいかなかったSPの「リベルタンゴ」から逃げることなく、シーズンの最後にしっかり滑り切りました。「リベルタンゴ」では情熱的な女性を、そしてFSの「ガブリエルのオーボエ」では天使という、大きく色合いの異なるプログラムをしっかりと演じ分けた懐の深さも、高く評価できます。五輪出場はなりませんでしたが、世界レベルの表彰台を争える実力の持ち主です。

 最後にISU(国際スケート連盟)の選手権大会において、日本勢で初めてアイスダンスのメダルを獲得した村元哉中、クリス・リード組の活躍にも触れておきます。欧米のフィギュア先進国と日本とでは、カップル競技を取り巻く環境や普及、競技人口など…、あらゆる面で大きな開きがあります。そんななか、ふたりが新しい歴史をつくってくれました。引き続き平昌五輪でのさらなる躍進と団体戦での貢献を、大いに期待しています。