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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(207) パラスポーツゆく年くる年2017~2018

2017年もいよいよ最終号となりました。今年42個目のテーマは、2017年の締めくくりと2018年1月から2月の主な大会情報をお届けします。

ということで、まず、2017年は嬉しいニュースで締めくくれそうです。12月17日(日)、山口県防府市で開催され、川内優輝選手の快走に沸いた「第48回防府読売マラソン」において、「日本視覚障がい女子マラソン選手権」も併催され、昨年のリオパラリンピック銀メダリスト、道下美里選手が優勝。しかも、2時間56分14秒をマークして、T12クラス(重度弱視)の世界新記録を樹立したのです。

世界記録に向け、ラストスパートする道下美里選手(中央)と伴走する志田淳さん(右) (撮影:星野恭子)

「20kmまではすごく苦しかった。少しずつ自分のペースを取り戻し、30km過ぎてから『絶対に気持ちを切らさずに行こう』と走った。声援を全部、力に変えた。3年分の思いがあるので、すごく嬉しいです」

快挙達成後、涙まじりで感想を話した道下選手。実は、2014年の同じ大会で当時の世界最高記録となる2時間59分21秒を出しました。でも、翌2015年のロンドンマラソンで、ロシアのエレナ・ポウトヴァ選手に2時間58分23秒のタイムで塗り替えられました。その後、何度も記録更新に挑戦したものの届かず、昨年の大会では世界新ペースを刻んでいたものの、フィニッシュまで約1km地点で伴走者の体調不良により失速。涙をのんだ経験もあったのです。

「旧姓の『中野さん!』という声援も聞こえました。地元の応援は温かった。この大会で新記録を出せて本当によかった」とトレードマークの笑顔もこぼれた道下選手。現在、福岡市在住ですが、出身は山口県下関市。地元からの声援も後押しになったようです。

レース後の会見で笑顔を見せる道下美里選手 (撮影:星野恭子)

また、右目は失明、左目もほとんど見えない状態の道下選手は伴走者と走ります。今大会では前半を青山由佳さん、後半を志田淳さんが務めました。二人の的確なアシストを感謝した道下さんはさらに、二人以外にも日常的に支える大勢の伴走者にも感謝。「みんなで獲った世界記録!」と胸を張りました。

でも、ただ満足しているだけではありません。表彰式後の会見で改めて世界記録の感想を聞かれ、「(練習通り)普通に走れば、世界記録は絶対にいけると思っていた。できれば、2時間55分切りくらいで走りたかったので、まだまだ」と振り返った道下選手。2020年東京パラリンピックでの金メダルを目指し、2時間50分切りを狙って練習を積み上げたいと、今後の目標を口にしていました。さらなる進化が楽しみです。

20km地点で道下美里選手(中央)の伴走者が青山由佳さん(右)から志田淳さんへと交代。伴走者のリレーは交代者が後方から近づいて伴走ロープを握り、受け渡す。3人が一瞬だけつながる瞬間を、道下選手は「大好き」と話すが、混雑するレースでは緊張の場面でもある(撮影: 星野恭子)

さて、防府読売マラソンは国際パラリンピック委員会(IPC)公認大会でもあり、道下選手以外にも日本ブラインドマラソン協会(JBMA)強化指定選手として女子7名、同男子12名も出走していたのですが、健闘が光りました。当日のスタート前は冷たい北風が吹き小雪も舞うほどの肌寒さで、12時2分のスタート時は晴れてはいたものの、気温5度、北西の風、3.9メートルの厳しいコンディションでした。そのためか、全体の完走率は男子(出走2,334名)が78%、女子(同261名)が72%だったなか、IPC登録選手の完走率は男子が83%、女子は100%。さらに、男子は3名が、女子は5名が自己ベストを更新する快走を見せたのです。(気象コンディション、完走率は主催者発表)

これは、JBMAが伴走者養成も含め、ほぼ毎月、合宿を開くなど、「チームジャパン」として強化を図ってきた一つの成果だと思います。IPC男子の部を制した熊谷豊選手は、2週間前の福岡国際マラソンで2時間27分35秒の自己ベストを出したばかりの中、この日も2時間32分12秒とまとめるなどリオ代表組に追いつき追い越す勢いです。選手だけでなく、伴走者間の切磋琢磨もはかりながら、「チーム」としてのレベルアップを、来年以降も大いに期待したいと思います。


年末年始の大会情報

つづいては、2018年1月から2月にかけての主な大会情報です。年末年始なので数は少ないですが、国際大会も増えていて、見ごたえたっぷりなものばかり。来年3月にピョンチャンパラリンピックを控え、冬季競技もいろいろあります。代表選手を先にチェックしませんか?

なお、試合日程等、変更の可能性もありますので、参考URLで大会情報をチェックしてからお出かけくださるようお願いします。

・12/24(日)
【ブラインドサッカー】東日本リーグ2017 第7節(最終節)
茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県のチームを主な対象とするブラインドサッカーの東日本リーグの最終節。全4試合実施予定。観戦無料。
会場:福生市営福生野球場(東京都)
参考:http://www.b-soccer.jp/

・1/6(土)~8(月・祝)
【ゴールボール】ジャパンゴールボールトーナメント
男子日本代表が海外から強豪4カ国を招いて挑む、国際強化大会。入場無料。
会場: 佐倉市民体育館(千葉県佐倉市)
参考:http://www.jgba.jp/

・1/8(月・祝)
【水泳】第1回日本知的障害者新春水泳競技大会
知的障がいクラスのみで行う大会。国際大会メダリストらも多数出場。
会場: 千葉県国際総合水泳場(千葉県習志野市)
参考:http://jsfpid.com/

・1/8(月・祝)~1/13(土)
【パラアイスホッケー】2018 ジャパン パラアイスホッケーチャンピオンシップ
平昌パラリンピック本番の予選リーグで日本と対戦する韓国とノルウェーに、強豪のチェコが来日。4カ国で10試合を実施予定。また、13日(土)の決勝戦後、会場にて平昌パラリンピック日本代表メンバーも発表予定。入場無料。
会場: 長野市若里多目的スポーツアリーナ(長野市)
参考:http://sledgejapan.org/

・2/4(金)~2/6(日)
【アルペンスキー】2017ジャパンパラアルペンスキー競技大会
平昌パラリンピックでメダルの期待がかかるトップ選手たちも出場予定。
会場:菅平パインビークスキー場(長野県上田市)
参考:http://www.jsad.or.jp/japanpara/

・2/15(木)~2/17(土)
【車いすバスケットボール】国際親善女子車椅子バスケットボール大阪大会
日本代表が、世界トップクラスのオーストリア、イギリス、オランダと対戦。
会場 : 大阪市中央体育館(大阪市港区)
参考:http://osakacup.org/

・2/17(土)~2/18(日)
【スノーボード】第4回全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ
世界で活躍するトップ選手も出場する、スノーボードの日本選手権大会。実施種目はスノーボードクロス。
会場: 白馬乗鞍温泉スキー場(長野県北安曇郡)
参考:http://www.sajd.com/

・2/24(土)
【ブラインドサッカー】ノーマライゼーションカップ
女子日本代表がアルゼンチン選抜チームと対戦する。今年5月に初開催された国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)主催の国際大会「IBSA女子ブラインドサッカートーナメント2017(オーストリア・ウィーン)」で優勝した日本女子代表を間近で応援するチャンス! 入場無料
会場: サイデン化学アリーナ(さいたま市記念総合体育館)
参考:  http://www.b-soccer.jp/10837/news/pr171141jyoshitaisei.html

・2/25(日)
【陸上競技】東京マラソン2018
フルマラソン車いす男女の部には、国内外から世界トップランカーたちも多数参戦。10kmの部には車いすのほか、視覚障害、知的障害、移植者の部も各男女別に実施。観戦無料。
会場: スタート(東京都庁前)~フィニッシュ(東京駅前)
参考:http://www.marathon.tokyo/

ということで、今年も1年、ご愛読ありがとうございました。来年は1月15日号からスタートの予定です。来年もまた、パラスポーツのあれこれをたくさんお届けできるよう頑張ります。冬季オリンピック・パラリンピックイヤーの2018年が皆さまにとって素晴らしい年となりますように!

(文・写真: 星野恭子)