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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(205) 「観戦率アップ」が課題。東京パラリンピックまで1000日の記念イベントが都内で開催

11月29日は2020年の東京パラリンピック大会開会式まで、ちょうど「1000日」となり、都内各地で記念イベントが開催されました。私はそのうち、東京スカイツリータウン(東京都墨田区)で行われた「みんなのTokyo 2020  1000 Days to Go!」を取材しました。

「1000日」という時間は皆さんにとって長いでしょうか? 短いでしょうか?

当日はブラインドサッカーや陸上競技用車いす(レーサー)などの体験会をはじめ、パラリンピックの認知、普及を広め、東京大会への機運醸成を高めるさまざまなイベントが行われました。メインイベントは、夕方から行われたセレモニーで、2020年大会で活躍が期待されるアスリート5名に加え、小池百合子東京都知事や鈴木俊一東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣らが顔を揃えたほか、ミュージシャンのX JAPANのリーダー、YOSHIKIさんもサプライズゲストで登場しました。  セレモニーのトークセッションに参加したゲスト。左から、高桑早生(さき)選手(陸上)、正木健人選手(柔道)、豊田まみ子選手(バドミントン)、YOSHIKIさん(ミュージシャン)、古澤拓也選手(車いすバスケットボール)、一ノ瀬メイ選手(パラ水泳)。(撮影:星野恭子)

5選手はそれぞれ、1000日後の自分について宣言し、大会をアピールしました。水泳の一ノ瀬メイ選手は「表彰台」と宣言したほか、「パラ選手は体にいろいろな特徴を持ち、それを生かして自分なりのパフォーマンスを披露している。そういう姿を見てくれた方それぞれも、自分の強みや個性を知り、活かしていこうと考えたり、一歩を踏み出す社会になったらいい」と東京大会開催に期待を寄せていました。

陸上の高桑早生(さき)選手は、「すべての人へ感動という東京土産を。私も感動を与えられる選手になりたい」と話し、バドミントンの豊田まみ子選手も、「世界中の人々に勇気と感動を! 私も出場してメダルを目指したい」と意気込んでいました。また、車いすバスケットボールの古澤拓也選手は、「最高の舞台で最高のプレーを魅せる!」、柔道の正木健人選手も、「優勝してパラ柔道の魅力を伝えたい!!」とそれぞれ目標を披露しました。

クライマックスは、1000日前を記念した東京スカイツリーのライトアップです。赤、青、緑に染まったのですが、これはパラリンピックのシンボルマーク「スリーアギトス」の色になります。「アギト」とはラテン語で「私は動く」という意味で、躍動感ある赤、青、緑のラインをモチーフにしたパラリンピックマークは、「困難なことがあっても諦めずに、限界に挑戦するパラリンピアン」を表現しています。ちなみに、3色は、世界の国旗で最も多用されている色として選ばれています。


パラリンピックマークカラーに染まったスカイツリーを「1」に見立て、山車の「0」「0」「0」と合わせ、「1000」を表現。(写真提供: ©Tokyo 2020)

会場観戦を訴え

セレモニーの前には、長野パラリンピック金メダリストのマセソン美季さんが地元墨田区の小学生120名に向け、国際パラリンピック委員会(IPC)公認教材、「I’m Possible」を使った特別授業を行いました。

ゲストには、パラ水泳の選手で、リオパラリンピックでは計4個(銀2個、銅2個)のメダルを獲得した木村敬一選手が登場。幼い頃に失明した木村選手は、10歳から水泳を始めて、2008年北京パラリンピックに初出場。ロンドン、リオで連続してメダルを獲得しています。

「見えないなかで水泳をしてパラリンピックにも行けたし、この場に立てています。いろいろな出会いがあったことが喜びです。東京大会では最高のパフォーマンスをして、目が見えなくても、脚がなくてもこんなにできるってことを、スポーツを通して皆さんに見せたいです。ぜひ会場に足を運んでください」とアピールしていました。

子どもたちと交流する全盲のスイマー、木村敬一選手(右)とマセソン美季さん。マセソンが手にするのは、全盲の木村選手にとっては競技に欠かせないタッピング棒。プールの壁が近づいたことを知らせるためにコーチが選手の頭を叩く道具。(撮影:星野恭子)

イベント参加後、取材に応じた木村選手はこうしたイベントを通して、「パラリンピックを少しでも身近に感じてほしいし、競技会場に直接足を運んでくれる人たちが増えてくれるといい」と強調。「1000日」という節目については、「(日数を)数えることには意味があるが、選手としては、1000日はけっこう長いと感じる。やれることはいっぱいある。目の前のことを一つひとつこなし、1000日後は選手として最高の状態で迎えたいし、パラリンピックに対して日本中が楽しみにしてくれている状態で迎えたい」と期待を寄せていました。

木村選手だけでなく、選手や関係者の口からは「会場観戦」を呼びかける言葉が繰り返されました。パラリンピックへの関心は少しずつ高まってはいるのですが、その起爆剤となるのは、やはり選手たちのパフォーマンスだと思います。
柔道のデモンストレーションを行った正木健人選手(中央)。視覚障がい者を対象とし、最初から組み合った状態で始める以外はオリンピックの柔道と同じルールで行われる。(写真提供: ©Tokyo 2020)

東京大会が近づき、日本国内で開催される国際大会も増え、「ハイレベルなパフォーマンス」に触れる機会も増えています。11月に都内で行われたボッチャの国際大会でも、2日間で約1000人が集まり、観客の多くはその「妙技」を堪能し、「もっと見たい」というファン獲得に大きく貢献していたと思います。

また、私自身、最近、新潟県のある中学校で、「パラリンピックを楽しもう」というテーマでお話しする機会があったのですが、動画や写真なども使って選手や競技の魅力について紹介したところ、後日、生徒さんから、「今まで興味がなかったけど、初めて選手のがんばってる姿を見て、応援したくなった」「障がいがあって、『かわいそう』と思っていたけど、『かっこいいな』と思った」という嬉しいお便りをいただきました。

やはり、見慣れないパラスポーツについては、「百聞は一見にしかず」なのだと思います。あと1000日を切った今、もう待ったなし。とにかく「観てください!」と訴えるしかありませんが、来年も続々、興味深い大会の開催が控えています。こちらでもどんどん紹介していきますので、どうぞ会場に足を運んで、「かっこよさ」を目の当たりにしてください。よろしくお願いします。

(文:星野恭子)