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佐野稔の4回転トーク 17~18シーズン Vol.⑧ 女子の平昌五輪代表争いは、ますます混沌 ~ グランプリ・シリーズ第5戦「フランス杯」を振り返って

ショート・プログラムの不安定さは、三原の伸びしろ

ショート・プログラム(SP)で出遅れながら、フリー(FS)では100%に近い演技で巻き返しての総合4位。三原舞依の「フランス杯」は、第3戦の「中国杯」のときと、同じような展開をなぞってしまいました。前回はSP直前の6分間練習で、ほかの選手とぶつかってしまうアクシデントに襲われ、今回はSP冒頭の3回転ルッツ-3回転トゥ・ループでバランスを崩し、リンクの壁に両手が接触してしまいました。

三原本人は「いつもと違うコースで(ジャンプに)入ってしまった。滑りやすいリンクだった分、同じ歩幅でも壁に行ってしまう」と振り返っていましたが、「中国杯」でSP冒頭の連続ジャンプが回転不足になっていたために、ふと嫌なイメージが頭をよぎったのか、跳ぶことばかりに意識が傾いていたのか。いずれにせよ女子選手では珍しいパターンのミスでした。FSではすべてのジャンプで加点を導くほどの演技をしただけに、なおさら惜しまれます。

今シーズンの三原はSPで、これまでとは違った自分を表現しようとしています。昨シーズンのFSで演じた「シンデレラ」に象徴される可憐なイメージから変身して、情熱的な大人の「リベルタンゴ」に挑戦しています。ひじょうに濃密な構成になっていますから、完成すれば間違いなく高く評価されるプログラムです。まだ安定感に欠けていますが、それはシニアのフィギュア・スケーターとして必要な成長過程だと言えます。いまの段階での不安定さは、そのまま伸びしろになります。平昌(ピョンチャン)五輪の代表枠はわずか2つしかありませんが、12月の「全日本選手権」で三原がこのSPを完璧に演じ切ることができたならば…。そう思わせる期待感があります。


白岩の最後に現れた「ジュニア」と「シニア」の差

2週連続のGPシリーズ出場になった白岩優奈ですが、先週の「NHK杯」が本格的なシニアデビュー戦。それも会場が日本とあって、やはり特別な緊張感があったのでしょう。今回の「フランス杯」では見違えたように、のびのびと滑っていました。スピンのレベルについて、田村岳斗コーチから厳しく叱責されたようですが、順位は「NHK杯」の総合8位から6位にアップ。総合で自己ベストとなる193.18点をマークしてみせました。この2週間で多くの刺激を受けたことでしょう。ただ、FS最後の3回転ループで転倒してしまったのは、ひじょうにもったいないミスでした。

シニアのFSは、ジュニアのときより演技時間が30秒間長くなり、盛り込まなくてはいけないエレメンツ(技術要素)の数がひとつ増えます。白岩のジャンプには高さとシャープさがあり、確実性も備わっていたのですが、この2試合を見る限り、やや軽やかさに欠ける印象を受けました。シニアで何年も戦っている選手たちと較べれば、どうしても筋肉量で劣ります。体型の変化もあります。そのため、ジャンプひとつ、スピンひとつのたびに疲労が蓄積されてしまい、終盤になるとつい堪え切れなくなってしまう。選手によって、特にシニアに転向したばかりだと、そういったケースがあるのです。たかが30秒、わずかひとつのエレメンツと思われるかもしれませんが、この差はけっして小さくありません。

今回の「フランス杯」で表彰台に昇ったアリーナ・ザギトワ、マリア・ソツコワ(いずれもロシア)、ケイトリン・オズモンド(カナダ)の3選手が、それぞれ「グランプリ・ファイナル」出場を決めました。これで女子シングルに出場できる6人のうち5人が決定。日本勢では2戦合計24ポイントを獲得している樋口新葉に唯一6人目となる可能性が残されていますが、グランプリ・シリーズ最終戦となる次の「スケート・アメリカ」の結果によっては、じつに17シーズンぶりに日本選手のいない「グランプリ・ファイナル」女子シングルになるかもしれません。そうなった場合、平昌五輪の代表争いはますます混沌の度合いを増します。約1か月後に控えた「全日本選手権」ほぼ一発勝負の様相を呈することになります。