佐野稔の4回転トーク 17~18シーズン Vol.⑦ インフルエンザに苦しみながら、宇野が表現力の向上を証明 ~ グランプリ・シリーズ第5戦「フランス杯」を振り返って
感覚も体力も、本調子からは程遠かった宇野昌磨
ショート・プログラム(SP)冒頭の4回転フリップは、大きく軸が曲がって転倒。得意なはずのトリプル・アクセルも着氷こそしたものの、GOE(出来栄え点)はマイナス評価。あんなにバタバタする宇野昌磨を初めて見ました。フリー(FS)も後半のジャンプで2度転倒して、順位はハビエル・フェルナンデス(スペイン)に及ばず2位。総合得点は273.32点と、5大会続けてきた300点台が途切れてしまいました。やはり10月末の「スケート・カナダ」から帰国したあとに見舞われたというインフルエンザが、演技に大きな影を落としました。
私も現役時代に体調不良で長期間リンクを離れたことがあったのですが、しばらく振りにいざ氷の上に立つと、なんとなく身体が浮いたような感じがしたことを覚えています。なかなか自分のイメージした通りの動きができませんでした。感覚は簡単に戻りません。聞くところによると39度近い高熱が出て4日間寝込み、体重も2kg近く減ったそうですが、体力も相当奪われたはずです。
「スケート・カナダ」で優勝したあとの宇野が、体力強化を一番の課題にあげていましたが、ただでさえ今シーズン挑んでいるFSの「トゥーランドット」は、後半に4回転フリップ、4回転トゥ・ループを2本、トリプル・アクセルからの3連続ジャンプと、大技連発のプログラムです。なのにインフルエンザでは、体力は強化どころか減退です。FSの演技を終えた直後、宇野が肩で大きく息をして、スケート靴の甲のところに手のひらを乗せたまま、しばらく上体を起こせずにいましたが、それほど消耗していたのでしょう。いくら気持ちでカバーしようにも、インフルエンザに勝てる人はいません。
それでも磨きをかけた表現力で、地元名古屋でのファイナル進出
感覚も体力も本来の状態から程遠く、本人が「ジャンプを何回失敗したか覚えていない」と言うほどの内容でありながら、それでも「グランプリ・ファイナル」出場を勝ち取ってみせた要因は、表現力の向上です。ジュニア時代から表現力に定評のあった宇野ですが、以前にも指摘したように今シーズンは、微妙なエッジワーク、技と技とのつなぎ、指先まで意識の行き届いた振り付け…といったスケート全体の質がさらに高まっています。シニア3シーズン目を迎え、これまで積み重ねてきた実績やイメージが、世界じゅうに浸透してきたこともプラスに働いているでしょう。
今回の演技構成点はSPが46.01、FSが91.20。これは優勝した「スケート・カナダ」のとき(SPが46.50、FSが91.16)と遜色ありませんでした。現在世界最高の表現力を持つ羽生結弦にあと一歩のところまで、肉薄するレベルに来ています。シーズンオフから意図して取り組んできたことが、着実に形になっています。
12月の「グランプリ・ファイナル」は4年ぶりの日本開催、会場は宇野昌磨の地元・名古屋です。しかもケガのために羽生が離脱中。女子シングルは日本人選手不在になる可能性もあります。プレッシャーは分散することなく、宇野ひとりの肩に圧し掛かることでしょう。ですが、この先待ち受ける本番の平昌(ピョンチャン)五輪では、否応なく日本中の期待が集まるのです。よい予行練習かもしれません。過去2度の「グランプリ・ファイナル」は、いずれも3位でした。ぜひ重圧を乗り越え、初優勝のタイトルで、お世話になってきた地元の人たちに、恩返ししてくれることを願っています。