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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(196) 世界クラスのパフォーマンスで、パラスポーツをもっと知り、もっと好きになろう!

東京パラリンピック開催まであと3年を切り、さまざまな準備が加速するなか、「国際大会」の日本での開催も増えています。それは、競技力の強化とともに、大会運営力の向上なども目的もあります。そうした国際大会のなかから、今号では8月から9月にかけて行われた、2つの大会に注目します。

緻密な戦略にもとづく、スピーディーな展開が魅力の車いすバスケ

8月31日から3日間、東京体育館で行われた、車いすバスケットボール男子の国際大会「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2017」は、東京パラリンピックでメダル獲得を目指す日本代表が海外強豪国と切磋琢磨し、強化を図ることを目的に今年新設され、2020年まで3年間、継続開催の予定です。

初年度の今年は、2014年世界選手権覇者のオーストラリア、リオパラリンピック銅メダリストのイギリス、2017ヨーロッパ選手権優勝のトルコを迎えた4カ国での対抗戦でした。日本は初戦のオーストラリア戦を69対70で惜しくも敗戦。トルコには65対49で快勝するも、イギリスに65対72で敗れて予選リーグは1勝2敗。最終日に3位決定戦でトルコと再戦すると、75対39で圧勝し、3位で大会を終えました。なお、決勝戦ではオーストラリアがイギリスを56対50で退け、優勝を果たしています。

車いすバスケットボール男子の国際大会「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2017」より。日本は初戦のオーストラリア戦で健闘。69対70の1点差で惜敗。

さて、日本は昨年のリオパラリンピックを9位で終えて以降、チームを再結成して臨んだ国際大会でした。大会は3位で終えたものの、収穫の多い大会だったと思います。一つはリオ代表のベテラン勢に、U23(23歳以下)世界選手権代表から加わった若手選手たちも加わった新チームでしたが、うまく融合しチームとしての厚みが増し、今後の成長を大いに期待できる内容だったと思います。

たとえば、日本代表チームが掲げる戦術は堅い守備からすばやい切り返しで速い攻撃につなげる、「トランジションバスケ」。体格では海外チームに劣る日本が豊富な運動量と持ち前の機動力で対抗するという戦い方ですが、今大会でも圧倒的体格差のあるオーストラリアに1点差に詰め寄るなど手応えが見られました。今後、さらにシュートの精度をあげ、走り切る体力を増し、チームとして成熟していくことで、さらなる強さとなっていくことでしょう。

イギリス戦で、相手シュートのリバウンドから、速攻を試みる日本チーム(赤)

大会開催の収穫としてもう一つは、今大会は運営面での仕掛けとして一部の客席の有料化で開催したことです。国内外問わず、パラスポーツの大会は今、無料開催が一般的ですが、3年後の東京パラリンピックはどの競技も全席有料で開催されます。「お金を払って観戦する」ことに慣れ、さらには車いすバスケットボールを「お金を払ってでも観たい」競技へと変えていこうという意思で一部有料化に踏み切ったそうです。

果たして、3日間で約1,800席分のチケットを売上げ、また全試合無料開放だった2階席も含め、のべ7,600人以上が観戦したそうです。選手たちも、「応援が力になった」「いいプレッシャーとして励みになった」と感謝しており、初の試みとしてはまずまずの結果だったのでしょうか。

実際、観客を増やす仕掛けもいろいろなされていました。JR山手線車内で大会PR動画が流されたり、最寄り駅にはポスターが掲示されたり。また、大会期間中も、車いすバスケ体験会やポケットサイズの選手名鑑の配布などで、競技やファンの魅力を伝える試みもあり、訪れた人たちからは好評だったようです。

東京2020大会から正式競技に!パラバドミントン

もう一つの注目大会は、3年後に迫る東京大会からパラリンピックの正式競技に加わるパラバドミントンの国際大会で、「ヒューリック・ダイハツJAPANパラバドミントン国際大会2017」です。世界ランキングポイントも獲得できる世界シリーズ10戦のうちの一戦で、日本での開催は初めてでした。9月7日から10日までの4日間、東京都町田市で開催され、参加選手数は29ヵ国・地域から188名と、世界バドミントン連盟(BWF)公認の国際パラ大会では史上最多の規模で行われました。

ちなみにパラバドミントンは一般のバドミントンとほぼ同じルールで行われますが、大きくは車いす部門と立位部門があり、さらに障害の内容や程度に応じて全6クラスに分かれます。今大会はクラス別に男女シングルやダブルス、ミックスダブルスなど全22種目が行われたなか、日本は金メダル3個、銀1個、銅12個を獲得。開催国としての存在感も示しました。

パラバドミントンの車いす部門ミックスダブルス(手前)の様子。右は日本の山崎悠麻選手と長島理選手ペア

パラバドミントンは世界的にバドミントン強豪国でもあるアジア勢が強く、特に中国、マレーシア、韓国などの選手が各クラスで頂点に立っています。実は、日本もランキング上位に食い込む選手たちもいて、健闘しています。

さて、今大会で誕生した日本の金メダリストは、まず、SU5クラス(上肢障害)女子シングルスを制した鈴木亜弥子選手です。右手に機能障がいがあるなか、俊敏な動きと正確性のあるショットが魅力。パラの世界選手権を制した経験もあります。

SU5クラス(上肢障害)女子シングルス金メダリスト鈴木亜弥子選手。

決勝では、昨年秋にストレート負けを喫した中国選手と対戦し、最終第3セットまでもつれる接戦となったものの、見事振り切って優勝を果たしました。
また、WH2クラス(車いす)の山崎悠麻選手も女子シングルスをフルセットの末、勝ち切りました。車いす生活になる前からバドミントン選手として活躍した技術と経験を武器に、見事、トップをとりました。3人目の金メダリストもフルセットの熱戦を繰り広げた藤原大輔選手で、SL3クラス(立位・下肢障がい)の男子シングルスを制しました。

左脚大腿義足の藤原選手は第1セットを落としたものの、得意技のジャンピングスマッシュを武器に、逆転で勝利を収めました。試合後、藤原選手は「会場の声援が力になった」と観客への感謝を口にしていたそうです。

立位クラスのミックスダブルス戦に出場した、日本の藤原大輔選手(右)と豊田まみ子選手(左手の先天性切断)ペア。

パラバドミントンはまだあまり馴染みのないパラスポーツかと思いますが、このように、日本人選手の活躍もあり、大会は盛り上がりを見せたようです。最終日の大会閉幕後には、一般のバドミントン界から世界トップ5名のオリンピアンを招いて技術指導を行うシリーズ、「レジェンドビジョン」も日本で初開催されたのですが、パラバドミントン観戦への大きな呼び水となり、最終日には約2,200人の観客動員に成功。パラバドミントンや選手をPRする貴重な機会となりました。

パラバドミントンには、他競技では珍しいSS6クラス(低身長)もある。東京2020大会での実施も決まっている。

パラスポーツの大会は元々開催される絶対数が少なく、まして、国際大会が日本国内で開催されることは、これまでは一握りでした。でも、2020年大会を控え、今後もさまざまな競技で増えていく見込みです。世界レベルのパフォーマンスを目の当たりにできる大チャンス。こちらのコラムでもご紹介していきましので、ぜひお見逃しなく!

(文・写真:星野恭子)