「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(188) オリ・パラ”だけじゃない! アスリートが目指す、世界最高峰の舞台のあれこれ!
前号で、“もうひとつの世界陸上”として7月14日に開幕する、障害のあるアスリートの祭典、「世界パラ陸上競技選手権大会」についてご紹介しましたが、実はこの7月、他にもあいついで世界最高峰の大会が開幕します。
ひとつは、聴覚障害のあるアスリートを対象とした4年に一度の国際スポーツ大会、「デフリンピック」で、7月18日から30日までトルコの都市、サムスンで開催されます。聞こえない、または、聞こえにくい選手たち約5、000人が80の国・地域から集まり、21競技で世界の頂点に挑みます。
日本代表選手は108名(男子74、女子34)で、11競技(陸上競技、バドミントン、テニス、卓球、水泳、自転車、空手、ビーチバレー、サッカー男子、バレー男子、バレー女子)に出場します。「世界一の高みをめざして、夢咲かせよう」をスローガンに、金5個、銀10個、銅10個以上のメダル獲得を目指します。
ちなみに、日本チームは前回2013年ブルガリア大会で21個(金2、銀10、銅9)のメダルを、前々回、2009年台北大会では20個(金5、銀6、銅9)のメダルを獲得しています。
基本的に競技はオリンピック競技が中心となり、ルールもほぼオリンピックに準じています。ただし、デフリンピックの試合中は補聴器の使用などは認められず、それぞれの聴力で戦います。そこで、陸上競技などのスタートは光で合図したり、サッカーのような球技では審判は笛だけでなく手旗も併用するなどルールがアレンジされています。
競技にもよりますが、選手は音声に頼れない分、頻繁に頭を動かして目で情報を集め、安全を確保し、周囲の選手の動きを予測するなどして競技を行います。チーム競技では声かけによるコミュニケーションは難しいので、アイコンタクトや手話、練習で培った阿吽(あうん)の呼吸などでチーム一丸となって戦います。
ところで、このデフリンピック、あまり聞きなれない方も多いかもしれません。国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催し、オリンピックなどと同様、夏季大会と冬季大会があり、夏季は1924年のフランス大会から、冬季は1949年オーストリア大会から始まりました。パラリンピックは1960年ローマ大会が第1回とされ、さらにその前身であるストーク・マンデビル大会も1948年からなので、デフリンピックのほうが長い歴史をもっています。
とはいえ、オリンピックと同年開催のパラリンピックに比べると、デフリンピックは認知度が低いのが現状です。ただ、盛り上げていこうという動きも少しずつ見られます。たとえば、今年6月12日には、超党派の「障がい者スポーツ・パラリンピック推進議員連盟」が、デフリンピック支援のためのワーキングチームを立ち上げたり、同28日にはトルコ大会に出場する日本選手団壮行会が参議院議員会館で開かれています。こうした壮行会はデフリンピックとしては史上初めてのことでした。
2020年東京大会への準備が進むなか、パラリンピック競技への注目は高まっていますが、障害のあるアスリートはまだ大勢います。デフリンピックが注目されることはパラスポーツ全体の普及にも大切です。聴覚障害アスリートの挑戦も、ぜひ応援をお願いします。
<第23回デフリンピック夏季大会>
日程: 7月18日~30日
場所: トルコ・サムスン
大会概要・結果速報など: http://www.jfd.or.jp/sc/samsun2017/
日本代表選手団リスト: https://www.jfd.or.jp/sc/samsun2017/teamjapan/members
第2のオリンピック”も!
つづいては、7月20日に開幕する、「ワールドゲームズ」です。オリンピックに採用されていない競技や種目を対象とし、“第2のオリンピック”ともいわれる国際総合競技大会です。こちらも4年に一度、夏季オリンピックの翌年に行なわれています。初開催の1981年から数えて、今年は節目となる10回目の記念大会。7月30日までの11日間、ポーランド共和国ヴロツワフ市で開催されます。第10回ワールドゲームズ大会日本代表選手壮行会より。撮影:星野恭子=7月5日/日本スポーツマンクラブ(岸記念体育会館)
主催するのは国際ワールドゲームズ協会(IWGA)で、現在の加盟競技団体は37団体ですが、今年実施されるのは全31競技(公式競技27、公開競技4)。111の国と地域から4,100名以上(公式3,500、公開600)の選手が参加予定です。
日本からは16競技(アーチェリー・フィールド、ビリヤード、ボウリング、ダンススポーツ、フライングディスク、体操・エアロビック、柔術、空手道、ラクロス、ライフセービング、パワーリフティング、スポーツクライミング、スカッシュ、相撲、水中スポーツ・フィンスイミング、水上スキー)に、公開競技のローイング、エキシビション競技で日本発祥のスポーツチャンバラなども含め、過去最多となる約100選手が出場予定です。
ワールドゲームズは、既存の競技会場の使用を原則とするなど低予算で開催される国際大会としても知られています。たとえば、2001年秋田大会は22億円で実施され、また、これまで適当な会場がなかったということで、サーフィン競技は一度も実施されたことがないそうです。
また、オリンピックとの結びつきも強く、ワールドゲームズでの実施競技や種目がオリンピックに採用されたり、あるいはオリンピックから除外された競技の受け皿にもなるそうです。実際、昨年8月に発表された2020年東京オリンピックの追加競技の5つ(ソフトボール、空手道、サーフィン、スポーツクライミング、ローラースポーツ・スケートボード)はすべてワールドゲームズ競技です。
さて、7月5日には東京・渋谷区日本スポーツマンクラブ(岸記念体育会館)で日本代表選手団の壮行会が開かれ、スポーツ庁の鈴木大地長官や日本オリンピック委員会の竹田恒和会長らが選手を激励しました。
空手道で2連覇を目指す、染谷香予選手。「プレッシャーはあるが、いまの自分でもう一度、挑戦者としてメダルを目指したいです」 撮影:星野恭子=7月5日/日本スポーツマンクラブ(岸記念体育会館)
そして、選手を代表し、前回大会(2013年)で金メダルを獲得している、空手道の染谷香予選手が、「選手はそれぞれの競技に人生をかけてやっています。その思いとともに、4年に一度の大舞台に全力で望みます。競技を通してスポーツの素晴らしさや感動などを伝えたいです」と意気込みを語りました。
<第10回ワールドゲームズ ヴロツワフ大会>
日程: 7月20日~30日
場所: ポーランド共和国ヴロツワフ
大会概要など: http://www.jwga.jp/about_meet/10th_wroclaw.html
ということで、デフリンピック、ワールドゲームズと7月は大きな大会がつづきます。多様なスポーツに取り組む、多様なアスリートたちが目指せる国際舞台がこうして用意されていることは素晴らしいことです。選手の皆さんには大いに楽しみ、存分に戦ってほしいですし、活躍を応援したいと思います。
(文・写真:星野恭子)