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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (180)見どころ盛りだくさんだった車椅子バスケットボールの日本選手権。来年はぜひ会場で!

日本のパラスポーツのなかでは歴史も長く、競技人口も多い車椅子バスケットボール。そのクラブチーム日本一を決める大会、「内閣総理大臣杯争奪第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会」が連休中の5月3日から5日まで、東京体育館(渋谷区)で開催されました。

大会前のいちばんの注目は地区予選上位など全16チームが揃うなか、日本代表を多数抱える王者、宮城MAXが前人未到の9連覇を達成するのか、あるいは新チャンピオンが誕生するのかという、優勝杯の行方でした。

そして、迎えた決勝戦は危なげなく駒を進めた宮城MAXと初優勝を目指したNO EXCUSE(千葉)の顔合わせとなりました。大接戦の末、55対52でMAXが9連覇の偉業を成し遂げたのですが、両チームとも序盤からエンジン全開。一進一退の熱い攻防は見応えたっぷりで、過去大会を振り返っても、MAXがここまで追い詰められた決勝戦はなかったように思います。会場には5000人を超える観客が詰めかけました。国内のパラスポーツ大会としてはかなりの盛り上がりぶりですが、1点を争う大熱戦に車椅子バスケの魅力を多いに堪能できたのではないでしょうか。

スポーツイベントはやはり、試合の面白さがいちばん重要ですが、この大会では他にもいろいろ見どころがありました。まず、車椅子バスケという競技は、さまざまな障がいの選手に公平に出場機会が与えられるよう、選手それぞれが障がいの程度や運動機能に応じて、「持ち点」が与えられているのが特徴です。持ち点は障がいの重いほうから1.0点~4.5点まで、さらに、コート上の5人の持ち点を14.0点以内に編成するというルールがあります。

実はこの日本選手権はこれまで男子限定だったのですが、今年から女子選手の出場が2人まで認められるようになり、持ち点も、女子1人につき1.5点プラス、つまり、最大で17点までとなりました。女子を加えることで障がいが軽く持ち点の高い選手(ハイポインター)を多く投入できるなど幅広いチーム編成が可能となり、また、これまで男子だけではメンバーが足りなかったチームも参加できるようになりました。

パラリンピックや世界選手権は男女別に実施されますが、男女混成チームはヨーロッパなど車椅子バスケの盛んな地域の国内リーグでもよく行われている方法だそうです。そして、日本が今年から採用したのは女子選手の強化・育成も目的のひとつだったようです。2020年東京パラリンピックでは日本は開催国枠で男女とも出場権がありますが、女子はロンドン、リオとパラリンピック出場を逃していることもあり、体格差のある男子に混じってプレイすることは海外勢対策にもなります。

実際、女子選手を起用したチームはいくつかありましたが、なかでも優勝した宮城MAXでは女子日本代表主将の藤井郁美選手が持ち前のシュート力で大活躍。今大会のベスト5にも選ばれ、「男子選手とのマッチアップは海外の大型選手と戦う上でのいいシミュレーションになった。女子の日本代表チームでも経験を活かしたい」と話していました。

ベスト5にも選ばれた、藤井郁美選手(左)。宮城MAXの9連覇に大きく貢献。女子の日本代表主将でもあり、女子の実力も大いにアピールした。

ファン獲得へ、観客サービスも充実

今大会は競技をより楽しむための観客サービスもたくさん用意されていました。まずひとつは、昨年大会から導入された、コートを取り囲む「アリーナ席」が今年も設置され、しかも3.6倍の1000席になったことです。選手の息遣いやキュキュッと鳴る車椅子の車輪の摩擦音など臨場感あふれる迫力のプレイを間近に見ることができ、好評でした。他にも、車椅子ユーザーの観客席には介助者席も用意されるなどの工夫も見られました。

また、選手の持ち点を示す、「持ち点表示ゼッケン」を車いすの背に掲示するようにしたことも新たな取り組みでした。車椅子バスケでは一般的に、障がいが軽いハイポインターが攻撃型、障がいの重いローポインターは守備型といった役割があります。サイコロに似たこのゼッケンによって、選手の大まかな役割が想像しやすく、チームの戦術なども分かりやすくなりました。

車椅子の背に掲示された「持ち点表示ゼッケン」。左から、紫(4点、4.5点)、赤(1点、1.5点)、緑(2点、2.5点)で、この他、青(3点、3.5点)がある。

会場では他に、車椅子バスケの試合を選手の視点で体感できる、バーチャルリアリティ(VR)動画の体験ブースもありました。このVR動画は、実在の日本代表選手らによる試合の模様を撮影したもので、専用のヘッドセットを装着することで迫力ある3D動画が目の前に広がり、自分もバスケ用車椅子に乗って試合に参加しているような体験ができるというもの。私も体験してみましたが、車椅子に座って見上げるゴールの高さや、ボールや他選手の動きのスピード感、衝突しそうなほど勢いある車椅子操作などに驚きました。

今年は初めて、体育館外の広場で、日本障がい者スポーツ協会主催の「共生スポーツまつり」も同時開催されました。さまざまなパラスポーツ体験会やトークショー、世界の食が楽しめる屋台などが催され、車椅子バスケ観戦とともに楽しむことができ、相乗効果での集客にもつながったようです。

車椅子バスケの日本選手権は来年もまた同時期に開催される予定ですから、今年見逃した方もぜひ一度。また、他のパラスポーツ大会も、2020年東京パラリンピックに向け、さまざまな工夫や会場サービスを駆使してファン獲得に努めています。こちらのコラムでも随時紹介していきますので、ぜひ会場においでください!

(文・写真:星野恭子)