ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (174) 知的障害のある人たちのスポーツの祭典、「スペシャルオリンピックス世界大会」が閉幕。

2020年東京大会開催に向け、パラリンピックに注目が集まっていますが、今回はこちらの大会をご紹介したいと思います。知的障害のある人たちのスポーツの祭典で、3月18日から24日までオーストリアを舞台に開催されていた「2017年スペシャルオリンピックス冬季世界大会」です。

大会には107カ国から約2700名の選手が全8競技(アルペンスキー、クロスカントリースキー、スノーボード、スノーシューイング、ショートトラックスピードスケート、フィギュアスケート、フロアホッケー、フロアボール)に参加。日本からは54名の選手がフロアボール以外の7競技に出場しました。

「2017年スペシャルオリンピックス冬季世界大会」の日本選手団とサポーターら。3月13日の選手団壮行会で撮影

日本選手はクロスカントリースキーやスノーボードなどで金メダルを獲得したり、自己ベストを大きく更新した選手もいたりと、それぞれが持てる力を発揮。大会は閉幕し、日本選手団もすでに無事に帰国しています。詳しい競技結果については、大会公式サイト(http://www.austria2017.org/en/games-2017/the-results)で確認できるようです。

実は私、スペシャルオリンピックス(SO)についての取材経験は、今大会開催前に日本選手団の結団式・壮行会を取材したのがほぼ初めて。まだ勉強中というところなのですが、SOはスポーツの大会ではありますが、「他者と競い合っての結果」についてはあまり強調されていないようです。実際、今大会の日本選手団のテーマは「勝利」だったのですが、その意図は「それぞれの潜在能力を出し切る」ということで、選手団全員がその「勝利」をつかむことを日本チームの目標として掲げられていました。

私の友人のなかに、以前からSOの国内外の大会も撮影しているスポーツ・カメラマンがいるのですが、彼によれば、SOのアスリートたちは本当に“フォトジェニック”なのだそうです。純粋にスポーツを楽しみ、精一杯の力を尽くした末に見せる笑顔やガッツポーズは生き生きと輝いていて、「ファインダーを通して、いつも心洗われる思いがする」のだそうです。たしかに私も、結団式を取材していて、応援の声にはすぐに反応して笑顔で手を振ったり、名前を呼ばれれば誇らしげに立ち上がったり、癒される場面をたくさん見た気がします。

大会の主催者は、「スペシャルオリンピックス」という、スポーツを通じて知的障害者の自立と社会参加を応援する国際的な団体です。年間を通して、日常的にさまざまなスポーツトレーニングの機会をつくり、その成果の発表の場として「世界大会」や「各国内大会」といった競技会を開催しています。SOではこうしたスポーツ活動に参加する知的障害のある人たちを、選手でなく、「アスリート」と呼んでいるそうです。

SOの特徴の一つに、名称がオリンピック“ス”と複数形になっている点があります。4年に一度行われる、いわゆる「オリンピック」のような単一の大会とは異なり、日常の練習から世界大会までさまざまなスポーツ活動が毎日世界各地で行われている、ということを意味しているので複数形なのだそうです。

現在の参加規模としては、世界170カ国以上で470万人のアスリートと100万人以上が参加し、29競技(夏季21競技、冬季8競技)を実施しています。そのうち、日本では、「スペシャルオリンピックス日本(SON)」とう国内組織のもと、全47都道府県に地区組織があり、約7800人のアスリートと11000人を超えるボランティア、約4500人のコーチが活動し、24競技(夏季17競技、冬季7競技)に取り組んでいます。

SOは元々、アメリカで設立されています(現本部ワシントンDC)。始まりは1962年に故ケネディ大統領の妹ユニス・ケネディ・シュライバー夫人が自宅の庭で開いたデイ・キャンプです。彼女の姉ローズマリーには知的障害があったそうで、同様の障害のためにスポーツの機会がない人たちに、その機会を提供したいと思ったことがきっかけだそうです。その後、1968年に、「スペシャルオリンピックス」として組織化され、しだいに全米から世界へと拡がっていきます。日本のSONは1994年に任意団体として設立され、2001年にNPO法人として認証されています。

SON理事長は有森裕子さんが務めているほか、コーチやボランティアとしてオリンピアンらも多数関わっています。今回の世界大会ではテクニカルアドバイザーとしてノルディック複合金メダリストの阿部雅司さんが参加されていました。また、ドリームサポーターとして、フィギュアスケートのオリンピアン、安藤美姫さんや小塚崇彦さんなどがオーストリアの大会会場にも駆けつけ、熱いエールでアスリートの活躍を後押ししたようです。

大会のドリームサポーター。左から、小塚崇彦さん(フィギュアスケーター)、安藤美姫さん(プロフィギュアスケーター)、森理世さん(2007年ミスユニバース世界大会優勝)、北澤豪さん(元サッカー日本代表)

さて、SO世界大会はオリンピック・パラリンピックと同じく4年に一度開催されています。パラリンピックが注目され、「共生社会の実現」といったことも声高に叫ばれている今だからこそ、さまざまな障害に目を向け、理解するいいタイミングだと思います。私もパラリンピックを中心としながらも、広い視野で折にふれご紹介できたらと思いますので、多くの皆さんにも考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。SOは日常的にも活動し、ボランティアやサポーターなども随時募集していますし、今年7月には聴覚障害者を対象とした、「デフリンピック」もトルコでの開催が予定されています。こちらもまたリポートできればと思っています。

(文・写真:星野恭子)