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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (172)パラ水泳世界選手権代表に、22選手が内定。2020年への第一歩!

リオパラリンピックから半年、すでに新たな戦いが始まっています。たとえば、パラ水泳では今年9月末にメキシコシティで開催予定の「2017 世界パラ水泳選手権大会」の代表選考会を兼ねた「2017春季パラ水泳記録会」が3月5日、静岡県富士水泳場で行われました。この日、派遣標準記録を突破した、22選手(男子12名、女子10名)が代表に内定しました。うち、身体障害者選手は13名(男子4名、女子9名)、知的障害者選手は9名(男子8名、女子1名)です(内定選手のリストは文末)。

「2017 世界パラ水泳選手権大会」の代表選考会を兼ね、3月5日に静岡県富士水泳場で開催された「2017春季パラ水泳記録会」 (撮影:星野恭子)

パラ水泳の世界選手権は2年に一度開催されており、4年ごとに開催されるパラリンピックに次いで大きな規模で権威ある大会です。今年はパラリンピックの翌年ということで、海外ではベテランの引退や休養に当てる選手もいるようですが、日本勢は2020年に地元でのパラリンピックを控えることもあり、重要なステップとして位置づけています。この日の記録会には、リオ代表選手たちも顔を揃え、またリオを逃した期待の若手選手たちも力強い泳ぎを見せてくれました。

なお、代表が最終的に決定されるのは5月以降になる見込みです。というのは、今年の世界選手権大会が標高約2250mのメキシコシティという高地で行われるため、選手個々の高地への適性を見極める必要があるからです。体に障害のある選手たちですし、一口に障害といっても選手それぞれで状態も異なりますし、もしかしたら想定外の支障があることも考えられます。そこで4月にJISSの低酸素室での合宿や5月にアメリカ・フラッグスタッフでの高地合宿を行って適応力も見た上で慎重な判断をするということでした。パラアスリートということで、健常の選手とは異なる配慮も必要なのだと改めて気づかされました。

気づかされたことと言えば、今回内定が決まった選手たちのインタビューからもいろいろな気づきがありました。まず、リオパラリンピックで4つのメダル(銀2、銅2)を獲得した木村敬一選手(全盲/東京ガス)。リオ後は約1ヵ月半休養して練習再開。今記録会はリオ以来初の公式レースであり、「いいスタートを切りたい」と臨み、無事に内定を得ました。が、3年後の東京パラリンピックについて問われると、「出たい気持ちはあるが、地元大会だからこそ、今までより上(の成績)を狙わなければならないし、もっときついこと(練習)をやらなければならいないと思うと・・・。もう少し考えたい」と決め兼ねている様子でした。出場すれば、東京は4大会目になりますが、パラリンピックは相当な覚悟をもって臨まなければならない大舞台なのだと、木村選手の言葉で改めて感じました。

一方、大舞台を経験し、東京での活躍を期待させる選手もみられました。たとえば、リオで初めてのパラリンピックを経験した一ノ瀬メイ選手(先天性右前腕欠損/近畿大学)は今回、出場3種目すべてでベストを更新し、200m個人メドレーで派遣標準1も突破して代表内定となりました。一ノ瀬選手はオリンピアンを多数輩出している名門近畿大学の水泳部にも所属する若手のホープとして、リオ大会前にかなり注目を浴びた選手の一人です。報道はもちろん、CMや講演会などにもひっぱりだこでしたが、「注目を浴び、声をかけてもらうのは嬉しい反面、競技力が伴っていないことが悔しく、素直に応援を受け止められないこともあった」と明かすなど、本人には複雑な気持ちもあったようです。

でも、リオ大会を経て一ノ瀬選手本人も大舞台で実力を発揮するには、「絶対的な実力が必要」と学んだといい、今後については、「応援してくれる人がすごく増えた分、タイムを出したときに喜んでくれる人も増えたということ。これから、結果で返していきたい。2020年で活躍するには、19年までに世界のトップレベルに実力を伸ばしておくこと」と意気込みを語っていました。有言実行を応援したいです。

逆にリオを逃して、大きく成長を見せた選手もいました。小池さくら選手(下肢まひ/峰村PSS東京)は、昨年のリオ選考大会では参加標準記録を切れず、その直後の大会で記録を突破し、「あと少し速く切れていれば」と悔しい思いをした選手です。がっかりした気持ちを奮い立たせ、「勉強になるから」とリオ大会はテレビで観戦し、強い気持ちで練習を継続し、この日は出場4種目すべてで自己ベストを更新し、初めての世界選手権代表に内定。着実な成長ぶりを見せています。

もう一つ興味深かったのはリオ大会前後に比べ、体ががっしりと大きくなった選手が多かったことです。パラ水泳日本代表の峰村史世ヘッドコーチによれば、昨年4月頃から強化指定選手を対象に、週2回のウェイトトレーニングの機会を設けるようなり、継続して参加している選手たちにはその成果が現れてきているとのことでした。パラアスリートは障害もあり、健常の選手と全く同じようなトレーニングは難しい面もあるし、また障害を考慮した専門的なトレーニングを受けられる練習環境もまだ不足しています。だからこそ、やりかたによってはまだ伸びしろが大きいだろうと思われます。

たとえば、森下友紀選手(昭和女子大)は、リオ代表に決まってから、本格的にウェイトトレーニングを教わり、体づくりを始めたといいます。実際、外から見て上半身がたくましくなっていましたが、増強した筋力を「まだ泳ぎにはつなげられておらず、コントロールしきれていない」と話していましたが、健常のアスリートには当たり前のウェイトトレーニングは未経験のパラアスリートも多く、その分、新たな可能性を感じさせてくれました。 このほか、知的障害の内定選手にも若手選手や女子選手も選考されるなど広がりが見られました。2020年東京大会に向けても重要なステップとなる、パラ水泳世界選手権は9月末の開催。あと半年でさらに成長し、よい結果につながることを大いに期待したいと思います。

<メキシコシティ 2017世界パラ水泳選手権大会>
日程:2017年9 月 30 日~10 月 6 日
開催地:メキシコ・メキシコシティ
内定選手(3月6日時点): 計22名(男子12名、女子10名)
・身体障がい者選手計13名:男子4名(木村敬一、鈴木孝幸、中村智太郎、山田拓朗)/女子9名(池愛里、一ノ瀬メイ、宇津木美都、小野智華子、加藤作子、小池さくら、成田真由美、西田杏、森下友紀)

・知的障がい者選手 計9名:男子8名(鴨弘之、坂倉航季、津川拓也、出口瑛瑚、東海林大、中島啓智、宮崎哲、三好将典)/女子1名(木下萌実)

(文:星野恭子)