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佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.⑭ ~2017四大陸選手権を振り返って ~ パート②

平昌五輪に向けて収穫も、反省点も多く見つかった宇野

 現地入りする前から、この大会で4回転ループに公式戦で初挑戦することを公言。それでいて、GOE(出来栄え点)が2.43も付く見事なジャンプで成功してしまう。普通では考えられないことです。宇野昌磨の持つ豊かな才能、非凡なセンスを、再認識させられました。

 ショート・プログラム(SP)では目標にしていた100点に到達、優勝に手が届く位置にありながら、事前の宣言通りに4回転ループに果敢に挑んでいったのは、目先の勝利ではなく、来年の平昌(ピョンチャン)五輪を見据えてのことでしょう。これで4回転ジャンプが3種類と、羽生結弦に肩を並べました。しかも宇野の場合は、フリップ、ループ、トゥ・ループの3種類。ループ、サルコゥ、トゥ・ループの羽生先輩を、基礎点では上回ってみせたワケです。

 ただ、得意にしているはずのトリプル・アクセルを、フリー(FS)で2度も失敗しているようでは、トップに立つのは難しい。実戦で初めて4回転ループを組み込んだことで、もちろん体力的には消耗したでしょうが、後半も滑りにはスピードがありました。それがアクセル失敗の原因だとは考えにくい。前半の4回転ループとフリップという難しいハードルを、良過ぎるほどの出来で越えたために、得意のトリプル・アクセルになったとき、心の隙が生まれたのかもしれません。

 SP冒頭の4回転フリップにしても、何とかこらえて、採点上は減点付きで認められましたが、私から言わせてもらえば、あれは失敗ジャンプです。あそこでキチンと着氷できていれば、違った戦いになっていたでしょう。ネイサン・チェンと同じく、まだまだ伸び代のある選手です。宇野にとっては、収穫も反省点も多く見つかった有意義な四大陸選手権になりました。

 すぐに来週、宇野には札幌でのアジア大会が待っています。韓国から日本と移動距離が短いとはいえ、フィギュア選手にとって2週続けての試合出場というのは、かなりハードなことです。ただ、今回の四大陸で出た反省点の修正を、緊張感のある公式戦のなかで、すぐに実践できるのは、悪い話ではありません。アジア大会をうまく活用して、来月の世界選手権(3月29日~。ヘルシンキ)では、年下のチェンに先を越された300点超え、さらには表彰台の真ん中を狙いにいって欲しいと思います。


ひとりやるべきことをやった三原に、フィギュアの神様が微笑んだ

 シニアデビュー戦となったGP(グランプリ)シリーズのスケート・アメリカで、いきなりの3位。去年12月の全日本選手権でも銅メダルと、今シーズンの三原舞依が、コンスタントに良いパフォーマンスを続けていたことは間違いありません。ですが、四大陸選手権の大舞台で、自己ベストを10点近く更新しての200点超え。まさか初優勝してみせるとは。三原本人でさえ予想していなかったのではないでしょうか。本当にすごいことをやってのけました。大きな拍手を送りたい。

 まだシニアでの実績に乏しく、審判からすれば、あまり強い印象のない選手です。そのためSPではノーミスで終えながらも、細かなミスがあったガブリエル・デールマンやケイトリン・オズモンド(いずれもカナダ)に較べて、思ったほど得点が伸びずに4位止まり。それがFSになると、上位にいた名だたる選手たちがミスを連発して次々と脱落していくなか、三原ひとりだけがSPに続いて、マイナスの要素がない素晴らしい演技を揃えてみせた。それがこの競技の妙味と言うか本質なのでしょうが、やはりSP、FSとミスなく自分のやるべきことをシッカリとやった選手に、フィギュアの神様は味方するものなのです。

 いまの三原舞依は高いレベルで安定していて、ジャンプでの失敗がありません。特に「3回転ルッツ+3回転トゥ・ループ」を、いつでもキチンと跳ぶことができる。男子のネイサン・チェンの「4回転ルッツ+3回転トゥ・ループ」同様、こうした高難度のコンビネーションを完全に自分のモノにしていることは、大きな武器です。

 この結果によって、三原舞依の名前を世界中のフィギュア関係者が知ることになりました。しかも四大陸をノーミスで優勝したプラスのイメージと一緒にです。三原自身、来年の平昌五輪で再び江稜(カンヌン)アイスアリーナのリンクに立ったときには、きっと素晴らしい記憶がよみがえってくることでしょう。

日本の女子フィギュア界全体にとっても、この優勝はひじょうに明るいニュースと言えます。左股関節の疲労骨折のため、宮原知子が今大会を欠場しました。来月の世界選手権の結果には、平昌五輪の出場権が懸かっています。はたして宮原がベストな状態で臨めるのか。現時点では不確定なこともあり、今回は最大3枠の五輪出場権を確保するのは厳しい。そうした声が多くあったなかでの、快挙だったからです。

 今後はプログラムをさらに磨くことが必要になります。表現力を成熟させて、観客を魅了するストーリーを氷上に描いていくことができれば、宮原知子やエフゲニー・メドベージェワ(ロシア)たちと、世界女王の座を争うトップ・スケーターに躍り出るはず。大いに期待しています。

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉