【パラスポーツ】「アスリート」をデザインの視点で紐解く、「アスリート展」が開幕。自分のなかの「アスリート性」と出会えるかも!
為末さんによれば、企画展を構成するにあたり、「そもそもアスリートをどう定義するか」から議論を重ねたそうです。その結果、「誰のなかにも『アスリート性』はある。その延長線上にアスリートがいる」という気づきにつながったと言います。つまり、100mを9秒台で走ったり、3回宙返りは誰もができるわけではないけれど、私たちが日常生活のなかで階段を昇り降りしたり、薄いガラスのコップは力を加減してそっと持ち上げたりなど、無意識に行っている動作も、実はすごいこと。無意識に動ける能力をベースに日々鍛錬を重ね、より高いパフォーマンスを意識的にできる人たちが、「アスリート」というわけです。 また、菅俊一さんは、本展覧会の目的は競技そのものの体験ではなく、アスリートのパフォーマンスから動きの本質を取り出し、それをデザインや表現の力で楽しさや面白さに変え、体験してもらうことであり、自分の心や身体と向き合い、新しい発見をしたりしながら、「自分の中にあるポテンシャルを感じてもらえたら」と話します。 実際、東京ミッドタウン内にある21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)の会場は多様な構成となっていて、前半はアスリートの動きの美しさやダイナミズムが映像や写真で紹介されています。たとえば、100m走や走り高跳びなど「世界記録のすごさ」を映像や立体模型によって体感できます。後半はインタラクティブな体験型の展示が並び、バランスや身体のコントロール力、プレッシャーへの対応力などを測定することで、自らの身体を知ることができるようになっていました。 ところで、さまざまな活動にチャレンジされている為末さんはここ数年、国産の競技用義足の開発やパラアスリートへの技術指導にも携わるなどパラスポーツにも活動範囲を広げています。為末さんに義足開発などの活動を踏まえ、展覧会のディレクションを通して感じたことを尋ねたところ、「身体性を探っていくことで、オリンピアンとパラリンピアンの境目がどんどん曖昧になっている気がする」といい、たとえば、パラリンピアンの身体の使い方がオリンピアンのヒントになる面もあるだろうと話していました。 そんな知見が活かされたような展示もいくつか見られました。たとえば、「声で見る」という展示は、視覚障害者を対象に音が出る特殊なボールを使って行うブラインドサッカーがテーマ。ヘッドフォンを着けると試合中のピッチで聴こえる音声が流れるので、目をつぶれば選手気分が味わえます。一方で、選手に指示を与えるキーパーやガイドの声、ボールの音や仲間からの呼びかけなど音声の洪水から重要な情報を聞き分けてゴールを狙う選手の“すごさ”も体感できるはずです。 他にも、コーチングに活かせそうなオノマトペや比喩表現の展示があったり、さまざまな競技道具を集めた作品に「身体拡張のギア」というタイトルがつけられていたり、「なるほど!」と思う展示がいろいろありました。 スポーツ用義足は、「身体拡張のギア」の代表的なひとつ。他に、競技用車いす「レーサー」や、アルペンスキー用のチェアスキーなども展示
見応えたっぷりの会場を出たら、無性に体を動かしたくなり、いつもより元気に両手を振って歩いていました。そして今、こうして原稿を書きながらパソコンを打つ指や眼の動き、さらには脳細胞にまで思いをはせている私がいます。 「アスリート展」は6月4日(日)まで開催中。あなたのなかの「アスリート性」を見つけに、ぜひ行ってみてください。 <アスリート展>
会期: 2017年2月17日(金)~6月4日(日)
会場: 21_21DESIGN SIGHT (03-3475-2121)
開館時間: 10:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日: 火曜日(5月2日は特別開館)
入場料: 一般1,100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
(障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料。その他各種割引はご利用案内をご覧ください。
公式サイト: http://www.2121designsight.jp/ (文・写真: 星野恭子)