「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (169) 車椅子バスケットボール日本女子、4カ国対抗の親善大会で3位。「東京2020」へ、一つひとつが大きな経験
日本とイギリスはともに総当り戦による予選リーグでは1勝2敗でしたが、予選2試合目の直接対決では日本が42-65と大差で敗れていました。しかも、初戦のオランダ戦はメダリスト相手に延長戦まで粘り、69-68と歓喜の勝利を挙げたにもかかわらず、予選3戦目のオーストラリア戦も57-70と、イギリス戦につづいて敗戦を喫していました。 でも、嫌なムードで終わった2日目から一夜明け、日本は底力を見せます。第1Qで19-8と流れをつかむと、第2Qも25-18とリードしたまま前半を終了。第3Qはイギリスの猛攻で一時26-27と逆転を許すも、残り5分を切ってから再び流れを引き寄せ、すぐに追いつくと35-28と逆にリード。第4Qは両チームとも点の取り合いになりましたが、日本がリードを保ち、逃げ切りました。 日本女子代表チームの歴史を少し紐解くと、2000年シドニーパラリンピックで銅メダルを獲得し、04年アテネ、08年北京と連続出場を果たしましたが、12年ロンドンは予選敗退。つづいて15年秋に千葉市で行われたリオ大会の予選でも敗退し、2大会連続でパラリンピック出場を逃しました。 20年東京大会は開催国枠で出場が決定しているので、そこにピークを合わせ再びメダルを獲得すべく、再始動。その第一歩だった昨年の大阪カップではイギリス、ドイツ、オーストラリアと戦って全敗し、第4位に終わり、悔しい思いをしました。それから数度の強化合宿を経て選抜された新生日本代表にとって、最初の国際戦がこの大阪カップでした。 13年からヘッドコーチ(HC)として日本女子代表を指揮する橘香織HCによれば、海外勢に比べ、どうしても体格で劣る日本チームは、「機動力を活かした全員バスケ」を目指しているといいます。その体格差を逆手に取ったしつこいディフェンスで強いプレッシャーをかけ、ボールを奪ったら速攻に持ち込むという「走るバスケ」と、誰もがチャンスとみればシュートを狙いにいきディフェンスを引きつけ、アウトシュート力に定評あるキャプテン藤井郁美選手などポイントゲッターを楽にする、「ほんとうの意味での全員バスケ」を目指しているそうです。 その完成度はまだ道半ばですが、その上で橘HCは今年の大阪カップに、これからのキープレイヤーとして期待する選手たちに国際経験を積ませ、自信をつけさせるという目標も掲げていました。その筆頭が北田千尋(クラス4.5)選手で、これまでは、「シックスマン(6番手の控え選手)」という位置づけでしたが、長年、代表のエースとして活躍し、昨年9月からドイツリーグで“武者修行”中のなか参戦した網本麻里(同4.5)選手に代わり、今大会は北田選手がスタメンとして起用されていました。実際、「何かを掴んでほしい」という橘HCの期待に応えるべく、誰よりも大きな声を出し、チームを自分を鼓舞し、ゴール下での強さを発揮し得点を重ねていました。 もう一人、ゲームメーカーを担う、萩野真世(同1.5)選手は、ポジションやクラス的に「替えのきかかない、オンリーワンの選手」。攻守ともに大きな期待をかけているということで、全4試合にほぼ出ずっぱりでコートに立たせていました。期待が高い分、橘HCが大きな声で叱咤する場面もありましたが、最終的に今大会のベスト5選手に選出される活躍でした。 オーストラリアの大型選手に囲まれながら、果敢にシュートを狙う、萩野真世選手(白)
また、国際経験の少ない若手である、財満いずみ(同1.0)選手や柳本あまね(同2.5)選手には、「海外の大型選手を相手にしてもパスやシュートを繰り出せる自信をつけさせたい」と、要所要所で起用し、動きを試していました。 エースの網本選手はほぼ一年ぶりの日本でのプレイとなったため、予選リーグでは特に他選手とのコンビネーションなどに少しずれが見られましたが、それでも定評ある得点力はあいかわらず高く、チームワークも少しずつ噛み合い出すという対応力の高さも垣間見えました。これまでは、切れ味あるカットインプレイなど個人技が際立つ選手でしたが、ドイツでの経験により、網本選手は「視野が広がり、周囲を活かす意識が高まった」と言います。今後、チームでの練習機会が増え、コンビネーションが磨かれたとき、個人技とチーム力という攻撃の幅が広がり、日本の大きな武器になるのではないでしょうか。 ドイツリーグでプレイ中の網本麻里選手(左)もチームに合流し、随所で活躍。さらなる成長に期待
日本女子チームは3年後に向けて、まだ成長途中です。今大会では、藤井選手や北田選手といったポイントゲッターに対し相手が強いプレッシャーをかけたときに周りの選手のヘルプや得点力がまだ弱かったり、リズムが悪い局面ではイージーショットの成功率が落ちてしまったり、あるいはチームプレイに徹するあまり、自らのシュートチャンスよりパスを優先させてしまうような消極性など、課題はいくつか見られました。 でも、初戦を延長の末に競り勝つという好スタートを切りながら、2日目は2連敗を喫したのち、一晩で気持ちを入れ替え、大敗したイギリスから3位をもぎとった最終戦にはこれまでの強化の手応えと、これからのさらなる成長が感じられます。橘HCも今大会を通して、「克服できる課題が見え、いろいろな情報が獲れた」と手応えを語っていました さて、「東京2020」での躍進を目指す日本女子チームにとって、次の大きな挑戦は来年開催予定の世界選手権の出場権をかけた予選大会になります。ひきつづき、注目していきたいと思います。
パラスポーツの魅力を地道に伝えてきた歴史ある大会
「国際親善女子車椅子バスケットボール大阪大会」は元々、2003年に男子の大会としてスタートし、07年から国内唯一の女子の国際大会となり、今年で15回目を迎えました。日本国内で行われるパラスポーツの国際大会はそれほど多くなく、現在のようにパラスポーツへの関心が高まる以前から、世界レベルのプレイが観られる貴重な機会として、地元では「大阪カップ」として親しまれてきました。 観客もバルーンを手に、ともに楽しみ、大会を盛り上げた、応援ダンスその陰には、大会実行委員会の創意工夫の努力があります。大会前に参加国が近隣の学校などを訪問する「地域親善交流会」や大会期間中には会場で車椅子バスケットボールの体験会を開催し、地元の子どもや市民たちが競技や選手をより身近に感じ、パラスポーツへの理解を深める機会を設けてきました。今年は特に、肢体不自由のある小学生から高校生などを対象に、各国トップ選手と交流しながら車椅子バスケットボールに親しむ機会を提供することでパラスポーツの振興をはかる「フレンドシップジュニアレッスン」も実施されました。 また、大阪カップには例年、近隣の学校から多くの子どもたちも観戦に訪れているのですが、スポーツ観戦の醍醐味である会場一体となって応援する楽しみも味わってもらおうと、応援パフォーマンスにも力を入れています。今年は、最近ブームとなったテレビドラマの主題歌を使った、オリジナルの応援ダンスがつくられ、リーダーの声掛けのもと皆で踊り、選手たちを盛り上げていました。このように大阪カップは、車椅子バスケットボールの競技としての魅力とともに国際交流やパラスポーツ観戦の楽しみを伝える機会として大きな役割を担っています。こうした大会がどんどん増え、全国各地でパラスポーツが浸透していくことを願います。 (文・写真:星野恭子)