佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.⑫ 2016全日本選手権を振り返って~女子編
「3回転-3回転」新時代と言えそうな女子フィギュア
表彰台に昇った選手は、すべて10代。とりわけ中学生、高校生年代の選手たちが上位にズラリと顔を並べたことで、女子については「世代交代」が進んでいることを強く感じさせる今回の全日本選手権となりました。この世代の特徴は、より高度な「3回転-3回転」の連続ジャンプを跳べることです。「3回転トゥ・ループ-3回転トゥ・ループ」で満足することなく、「3回転ルッツ-3回転トゥ・ループ」あるいは「3回転フリップ-3回転トゥ・ループ」連続ジャンプを、揃って自分のモノにしているのです。現在の男子フィギュアは、2種類以上の4回転ジャンプを跳ぶことが求められる「4回転新時代」と言われていますが、女子についてはどれだけ高難度の3回転の連続ジャンプが跳べるのかが問われる「3回転-3回転新時代」と言えそうです。
風格あふれる「女王」宮原知子
そんな流れる時代のなかで、宮原知子が2位に15点近い大差をつけて大会3連覇を飾りました。今シーズンの彼女は「風格」めいた雰囲気を醸し出しています。昨シーズンまでも、もちろん全日本チャンピオンではあったのですが、どこかまだ「王女(プリンセス)」の面影が強く、「女王(クィーン)」と呼ぶのは躊躇われる雰囲気がありました。ですが、今シーズンの宮原には「フィギュアスケートはこんな風に滑るものなんだ」「美しく滑るというのはこういうことなんだ」と、教えてくれるような説得力があります。演技が本当に綺麗になっています。NHK杯、GPファイナル、そして全日本選手権と、1週おきに3大会をこなすハードスケジュールをモノともせず。女子の全日本3連覇は、浅田真央(4連覇)以来、史上9人目だそうですが、歴代の名スケーターたちとまったく遜色ない、歴史に名を刻む素晴らしい「女王」となりました。
この3連覇中の総合得点を見較べても、一昨年が195.60点、去年が212.83点。そして今年が214.87点と、年々向上しています。SP(ショート・プログラム)の後半に持っていった「3回転ルッツ-3回転トゥ・ループ」も、今回は完璧に決めてみせました。FS(フリー・スケーティング)ではジャンプに若干乱れがありましたが、そうしたミスをなくして、来年3月の世界選手権では、エフゲニア・メドベジュワ(ロシア)の牙城を崩して、今度こそ「世界女王」の座を掴んでくれることを期待しています。
集中が課題の樋口、健闘を称えたい三原
一昨年の全日本選手権で13歳にして表彰台に昇り、一躍その名を知らしめた樋口新葉は、これで3年連続の全日本表彰台となりました。シニアGPシリーズデビューとなった今シーズンの前半は、ポロッ、ポロッと点数を取りこぼすようなシーンがありましたが、この大会はひとつミスしたあとも集中を切らすことなく、持てる力を出し切った印象です。SP、FSと最初から最後まで集中力を維持したまま滑り通すことができれば、シニアの世界大会であっても、もう一段階高いレベルの争いができるポテンシャルの持ち主のはずです。やはりシニア参戦1年目の三原舞依は、ひじょうによく頑張っていると思います。全身の関節が痛む病気のため、去年の全日本選手権は病院のベッドの上で観ていたそうですが、今シーズン開幕前の注目度はけっして高いものではありませんでした。それがGPシリーズ初出場のアメリカ大会で、いきなりの3位。氷上に立てる喜びにあふれているからなのか、ひとつひとつの演技がとても丁寧なのです。だからミスが少ない。苦労の末に掴んだ全日本3位です。四大陸選手権、世界選手権の舞台で、次のシンデレラ・ストーリーを紡いで欲しいと思います。
トリプル・アクセル挑戦を、浅田の次なるスタートに
14度目となる全日本選手権で、浅田真央は自身ワーストの12位に終わってしまいました。SP、FSで挑戦したトリプル・アクセルはそれぞれ1回転半、転倒と、残念な結果に終わりましたが、プログラムにトリプル・アクセルを入れられるくらいにまで、ケガを抱えていえる左ヒザの状態が良くなってきたということ。そのこと自体を、まずは一歩前進と捉えるべきでしょう。FSでは冒頭のトリプル・アクセル以外に、もともと苦手な3回転サルコゥでも転倒してしまいましたが、そのほか左足で踏み切る3回転フリップ、ルッツはしっかり回って着氷してみせましたし、全体的な動きは悪くありませんでした。
今回出た失敗や課題の多くは、練習不足が要因です。ですので、世界選手権出場は逃してしまいましたが、それはそれで良しとして。まずはしっかり時間をとって左足を完治させ、どんな練習にも耐えられるだけの身体に戻すこと。平昌五輪で勝ちに行くには、その上でトリプル・アクセルの調子を戻しつつ、3回転-3回転の連続ジャンプをつくり直すことです。
大会後、来シーズンも選手生活を続ける意向を明らかにしたようですが、 FSの演技が終わった直後の、心底悔しそうな表情からは、まだまだ勝負の世界に立ち続けようとする気概が伝わってきました。今回のトリプル・アクセル挑戦を、再出発のスタートにしてくれることを願っています。
〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉