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土地の無断使用で村民に訴えられた鮫川村長~棚倉警察署が村長選挙を前に告訴状受理(鈴木博喜)

福島県鮫川村で稼働中の仮設焼却炉を巡り、地権者である村民が大楽勝弘村長を不動産侵奪罪で訴えていた問題で、福島県警棚倉警察署は9日、告訴状を正式に受理した。原発事故に伴う除染で生じた汚染廃棄物を燃やすための同焼却炉設置に関してはこれまで、環境省や同村による強引で違法な手法が次々と明らかになっているが、現職村長が刑事告訴される事態に発展した。大楽村長は来月、無投票での四選が有力視されているが、訴えた地権者は「村長はやりたい放題」と警察の捜査に期待を寄せる。

 

 

【存在しない土地貸借契約書】

 大楽村長を訴えているのは、仮設焼却炉が設置された農地の共有地権者の一人、堀川宗則さん(59)。

 

 この日受理された告訴状で堀川さんは、鮫川村が2012年5月25日から8月31日にかけて、農事組合法人「青生野協業和牛組合」が管理する農地の中に除染で生じた土壌を埋めるための搬入路を建設。その際、18人いる共有地権者の誰とも土地の賃貸契約書を交わしていなかったとして、刑法235条に定められた「不動産侵奪罪」に当たると主張している。仮設焼却炉は今も放射性物質に汚染された廃棄物を燃やし続けており、搬入路も使用が続いている。

 

 2014年9月、村役場が共有地権者らと交わしたはずの土地貸借契約書について情報開示を求めたところ、「契約書を交わしていないため開示できない」旨の回答が村役場からあったという。そのため、堀川さんは搬入路建設が開始された2012年5月25日の時点で不動産侵奪罪が成立していると判断。村の最高責任者である大楽村長が「契約書を交わしていないことを知りながら、搬入路建設工事を主体的に主導した」と処罰を求めている。

 

 堀川さんの代理人を務める坂本博之弁護士によると、昨年10月に告訴状を郵送。同12月に改めて持参して提出していた。今年6月に入り、棚倉警察署が「告訴状を受理することになった」と伝えてきたという。今後、堀川さんの調書が作成された後、大楽村長の事情聴取が行われる見通しだ。

 

 

【「大楽村長はやりたい放題」】

 白河市役所内の記者クラブで会見した堀川さんは「大楽村長はやりたい放題だ」と怒りを口にした。当初から共有農地内への仮設焼却炉設置には反対していたが「村から相談も何も無かった。全然分からないうちに話が進んでしまっていた」と振り返る。大楽村長に対しては「任期を重ねるうちに、村会議員を自分の子分のように扱うようになった。議員の側も、村長に逆らえば次の選挙で落とされてしまう。こんな状態が続けば村が崩壊してしまう。村が少しでも変われば、問題提起をした意味があると思う」と話す。

 

 坂本弁護士も「非常にずさんな土地の占有だ」と大楽村長を批判。「環境省のための露払いをした」、「太鼓持ちのような動きをした」、「国の事業のお先棒かつぎ」などと厳しい表現を繰り返した。「今日は告訴状が受理されたというだけで、不起訴になる可能性も十分にある。棚倉署は厳正に捜査を進めて欲しい。警察のあり方が問われる」と、しがらみにとらわれない捜査を求めた。

 

 大楽村長は2003年8月に無投票で初当選。2007年、2011年の村長選挙も対立候補がなく、全て無投票で当選を果たしてきた。8月23に予定されている村長選挙にも出馬を表明しているが、今のところ他に立候補予定者は無し。無投票での四選が有力視されている。坂本弁護士は「四選を果たしたとしても、起訴されれば辞職せざるを得ない事態もあり得るだろう」と語る。

 

 

【強引・違法な手続きで焼却開始】

 2013年8月20日から鮫川村で稼働中の仮設焼却炉を巡っては、操業の差し止めを求める仮処分を堀川さんが2014年7月に申し立てた。環境省を相手取った審尋は6月24日に結審している。その過程で、他人が堀川さんになりすまして署名・押印した偽造同意書の存在が発覚。契約書なき搬入路建設の問題と共に、仮設焼却炉稼働を急いだ環境省や村の強引で違法な手法が次々と表面化している。

 

 操業開始後、間もなくに発生した爆発事故に関しても、地元消防が報告書で「爆発」と明記しているにも関わらず、環境省はいまだに「破損事故」として爆発であるとは認めていない。そもそも、バグフィルターでは焼却による放射性セシウムの拡散を防げないとの研究論文もある。除染によって生じた汚染廃棄物の減容を目的とした仮設焼却炉が福島県内で建設・稼働しているが、第一号である鮫川村の仮設焼却炉には、隠蔽体質や違法性を示す事例に事欠かない状態なのだ。

 

 現職村長が刑事告訴されたことを受け、鮫川村の地域整備課長は電話取材に対し「今年4月に定年退職した前任者から何も引き継いでおらず、何も分からない。上(大楽村長)からの指示も無い」と答えた。

 

〈文・写真:鈴木博喜〉