「サウジアラビアの大富豪、全資産を慈善事業に寄付」(大貫康雄)
中東の産油国には巨億の富を有する大富豪が数多くいる。フランス国営放送F2は、そうしたアラブの富豪の中でも一番の大富豪と言われるサウジアラビアのアル・ワリドAl Walid王子が320億ドル、日本円にして4兆円ほどの資産全部を慈善事業に寄付する、と発表した、と報道。
富豪が資産の一部を慈善活動に寄付する例は多いが、巨額の資産を全部寄付するのは他に聞いたことが無い。
アル・ワリド王子は昨年亡くなったサウジアラビアのアブドラ前国王の甥で、アメリカ留学後、土地と株への投資で巨額の資産を築き上げる。国王以上に豪華な宮殿に住み、勿論自家用航空機も所有、メッカに高さ303メートルの超高層「ビルキングダムセンター」の所有者として知られる。
アル・ワリド王子は、寄付は分野を問わず、人種や宗教、性などを問わず困っている人たちのために使われる、と言う。
F2は、そのため王子が所有する、パリの豪華ホテル「ジョルジュ・サンク」やフランスにある「ユーロ・ディズニー」の株を売却する、という。
イスラムには貧しい人々を助けよとの教えがある。王子はこの教えを忠実に実行しようとしたのかもしれない。
欧米にはnoblesse oblige(フランス語で“高貴さ・特権を備えた者は、それに応じた義務がある”、などの意味)、成功者や特権のある者は社会に貢献する、という考えがある。
19世紀後半から20世紀初頭にかけ巨万の富を築いた所謂「泥棒男爵」と呼ばれた大資産家たち、ジョン・ロックフェラーやアンドリュー・カーネギー、マイヤー・グッゲンハイム、コーネリアス・ヴァンダービルトも、人生後半は膨大な資産の相当部分を教育、文化、貧困救済などに寄付した。
アメリカには彼らの名を冠した美術館や、大学、図書館、研究機関、コンサートホールなどがあるのはその表れ。
マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏は泥棒男爵などではないが、やはり成功した者の美徳を実行する文化・慣習に倣ったようだ。
2006年、資産の半分を慈善活動に寄付し、氏自身企業経営から身を退き慈善活動に専念すると発表。
具体的にはゲイツ氏夫妻の名を冠した「ビル&メリンダ・ゲイツ・B&MGF財団」を設立、途上国のエイズやマラリアなどの撲滅、貧困対策、教育、保健衛生の向上などに尽力している。ゲイツ夫妻は、夫妻の死後50年以内に財団の資産を使いきって活動を終える、という。
ゲイツ氏と並んで世界有数の大富豪ウォレン・バフェット氏も同じ2006年6月、自身の資産の85%を5つの慈善財団に寄付する、その内310億ドルはゲイツ氏の財団に寄付すると発表。
ゲイツ氏は他の大富豪にも、資産の半分を自分が大切と思う文化や慈善事業に寄付するよう呼び掛けた。
これに対し元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏、CNN創始者テッド・ターナー氏、デイヴィド・ロックフェラー氏など40人が応じ誓約書に署名、慈善事業に向けられる総額は2300億ドルに上っている。
F2はリポートを、“ゲイツ氏らの呼びかけに応じたフランスの大富豪はゼロ”、との指摘で終えている。
雑誌フォーブズの世界の長者番付では、日本人富豪としてはユニクロの楊井正氏が41位、ソフトバンクの孫正義氏が第75位になっている。
この内孫氏は2011年の東日本大震災の被災者の様々な救済活動に対し、総額100億円の寄付をしている。
また自然エネルギー財団の資金提供者となっている。
(文:大貫康雄、写真:By N/A (Kingdom Holding Company) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)