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インド・グジャラート州を巡る旅④ 〜カッチ地方の美しいハンドクラフト〜 (東海林美紀)

2001年にカッチ地方を震源とするマグニチュード7.9の大震災に見舞われたグジャラート州では2万人が死亡し、100万にのぼる家屋が倒壊するという甚大な被害を被り、最も被害を多く受けたのは震源地に近いブジだった。この辺りには少数民族の村が点在していて、その手工芸技術の高さは世界的に有名で村独自のオリジナルの作品を見ることができる。インドで最も刺繍職人が集中している場所でもあり、細かく割った鏡を刺繍で布に縫いつけていくミラー刺繍や、シルクやサテンの生地に細かいチェーンステッチを施すモチ刺繍など、そのバリエーションは幅広い。厳しい自然環境におかれているカッチ地方はこれまで度重なる自然災害に見舞われてこれらの手工芸は絶滅の危機にあったが、現在でもその技術は脈々と引き継がれ、世界中のテキスタイルファンを魅了している。

 

カッチ地方は半遊牧民の放牧民移住地域でもあり、ラバーリー族やアヒール族など、人々は色彩豊かな民族衣装を身にまとっている。ラバーリー族はラクダとともに生きてきた人々で、ラクダに家財道具を積みながら遊牧生活を送る人たちのラクダの背飾りにも刺繍が施されている。ラバーリーの刺繍の中で最もよく知られているミラー刺繍は、他の民族の刺繍でも取り入れられているが、ラバーリーのものはそのバリエーションの豊富さが特徴的で、丸い形をしたものや三角、菱形など、鏡の形に合わせて下絵を用いずに刺繍を施してゆく。ミラー刺繍の衣装はお祭りなどの特別な日に使われるが、観光客用にも作られている。

 

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アヒール族の刺繍は、大きなミラー刺繍と複雑な模様を特徴的だ。大きな装身具が目を引く。

 

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メグワル族のものは色彩豊かで大柄な刺繍が施されている。マハトマ・ガンディーは不可触民とされる人々に神の子という意味をもつ「ハリジャン」と名付けたが、このハリジャンはメグワル族に与えられた名前だと言われている。

 

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ムトワ族はパキスタンとの国境沿いに住むムスリムで、目の細かい刺繍が特徴的だ。

 

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カッチ地方はアジュラクとよばれる木版画(ブロック・プリント)の生産地でもある。アジュラクプリントには、植物、ハーブ、糖蜜、鉄錆やその他のミネラルなどから抽出した天然染料が伝統的に使用されている。

 

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カッチ地方の刺繍をはじめ、膨大なアンティークのテキスタイルやキャリコ(更紗)が展示されているのが、アーメダバード市内にあるキャリコ博物館だ。かつてのマハラジャ邸宅を改築して作られており、博物館ガイドが同行するツアーに参加することでのみ入場することができ、午前と午後にそれぞれ一回約二時間のツアーがある。

 

(文・写真:東海林美紀)