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武雄市が公立小中校に導入したICT利用教育の破綻した実態③〜現場で噴出する不満の声〜(今西憲之)

前回の記事はこちら→武雄市が公立小中校に導入したICT利用教育の破綻した実態②〜「大人の事情」で採用されたAndroid〜

 

佐賀県武雄市が、2014年春からすべての小中学生にタブレット型端末を配布したICT教育、スマイル学習をスタートさせた。だが、これまでにも書いてきたように、自慢のタブレット型端末は不良、故障ばかり。いったい、現場の先生、そして子供たちはどう感じているのか、生の声をご紹介する。

 

〈武雄市の小学校の先生〉

ズバリ言いまして、タブレット型端末は邪魔です、何のメリットもない、使えないシロモノです。

 

先生というものは、子供の指導に集中すべきです。しかし、タブレット型端末を使うようになり、その不良、故障が多くて、そのたびにかかりっきりになります。支援員がいても手が足りないのです。中には、充電すらできないもの、充電器を差し込むに、引き抜くと、中の基盤まで出てきてしまうものもありました。

 

なんとか、起動ができても、ネットワークに接続できるかという、次の関門にひっかかる。

 

きちんと作動できない、タブレット型端末を使って、どうすればいいのでしょうか。タブレット型端末の不具合に対応するのは、先生の仕事ですか?子供たちにきちんと教えるのが、われわれの仕事ですよ。

 

そして、タブレット型端末を使った授業についてですが、急に導入が決まり研修も十分、ありません。いきなり、使ってくださいというばかり。手さぐりではじめました。使っている動画もお粗末で、他の先生が制作したので、自分の教え方と違って、やりづらい。子供たちも、家では親のスマホやパソコンでもっと充実した動画を見ているから、お粗末なものには、興味を持ってくれないのです。

 

iPadなら、まだ先行導入していた経緯があり、こうすればというノウハウは少しありました。しかし、iPadは埃をかぶったままで、使うことができません。

 

子供たちのために、声をあげて文句を言いたいのですが、言えば「報復人事」とウワサされており、何も言えない「恐怖政治」が続いています。

 

これが、先生に1年、2年くらいかけて研修して、タブレット型端末もネットワークも整備されていれば、いい結果になったかもしれない。しかし、タブレット型端末を導入するのがゴールみたいなやり方では、とうていうまくいくわけありません。それに、成績がアップする保証はないし、アップしたと確認できるすべもありません。

 

 

〈武雄市の小学校高学年の児童〉

ママのスマホを使っていると、学校のタブレット型端末はぜんぜん、ダメ。

 

動かんけん。毎日、誰かのタブレット型端末が止まっている。今日も、タブレット型端末の置き場に、起動しない黒い画面のものが、置かれていた。タブレット型端末を使い始める授業の最後の方は、よくストップする。先生も、支援員も、教室を走り回っていて、騒がしい。

 

親戚が中学校にいるけど、もっと故障が多いと話していた。

タブレット型端末を使った授業、動かんけん、もう飽きてきた。ママのスマホのように動けば、楽しいけどね。それに、動画もゆっくりで、面白くない。

 

予習しろっていわれるけど、学校でネットワークにつながりにくいし、動画も面白くないから、やる気がしない。

 

学校のアンケートでは、なんとなくわかりにくいって書きにくいから、わかるって答えているけど、先生が黒板で書いて、プリントを配ってくれる方がずっといい。どうして、タブレット型端末を使っているのか、わからない。

 

 

〈武雄市の小学生高学年の父兄〉

タブレット型端末の故障が多いことには、びっくりですよ。家で子供が起動させようとして、5回に一度は、できない感じでしょうか。これで、予習しようって気になりません。私のスマートホンで、起動できないようなことはゼロ。

 

すっかり、子供もあきらめています。こんなものに、どうして何億円もの税金を使ったのか、お話にならないですね。スマートホン、タブレット型端末、けっこう、機種が古くなったりで家庭で余っているところ、ありますよね。

 

iPhoneなど古い4とか、5とか。それを再利用するとか、手法はいろいろありますよ。どうして、お金使うことばかりが優先されるのか。

 

授業参観でも、起動しないとか、アプリが使えずフリーズとか、タブレット型端末はひどいものでした。先生が、タブレット型端末を使いこなさなきゃいけない。それが、不良、故障の対応で追われるのです。授業に集中できず、質が落ちていると遠巻きに認めていた。

 

先生、児童、父兄らの厳しい声に対して、武雄市教育委員会スマイル学習は私が週刊朝日の取材した聞いた際、こう回答している。

 

「戸惑いは想定していたが、学校から『使えない』『使いにくい』などの声はあがっていない」

「タブレット型端末は精密機械であるので、トラブルのリスクは学校に話している。迅速な対応を心掛けている」

「タブレット型端末の不具合による授業への支障があるという報告はない。そのような声があがれば、協議したい」

「iPadがよいと話し合われていたとのことですが、ICT教育推進協議会の答申を受け、選定委員会の審査で決定した。iPadの1機種が前提で導入を進めていた事実はありません」

 

だが、私が取材した、5月28日の公開授業で、タブレット型端末が複数、不具合を起こし、先生、支援員が対応していた現場に武雄市教育委員会の関係者、学校の関係者は複数いた。先にも書いたが、東川登小学校の真子和久教務主任は、タブレット型端末に問題があることを明確に認めている。支援員や先生からも同様の話を聞いている。

 

武雄市教育委員会は、学校からそのような声がないとしている。

いったい、どこを見ているのだろうか。

 

ICT教育は非常に重要だ。今後、大きく広がってゆくはずだ。

だが、ICT教育を広げるには、まず教える先生が時間をかけてきちんとした指導法を確立。それにかかる、タブレット型端末やアプリ、ソフト、ネットワークの選定と整備。

 

それがあって、はじめて有効的に活用され、効果が出るはず。

「大人の目線」ばかりが先行する、武雄市のICT教育。

その犠牲者は、児童、生徒だ。

 

(終)

 

〈文・写真:今西憲之(ジャーナリスト)〉