スペイン2大都市で既成政党でない社会運動活動家の女性市長誕生(大貫康雄)
スペインでは金融危機後、財政赤字解消のため緊縮政策が続く一方貧富の格差拡大と失業率悪化が続いている。
これに国民が反発、5月25日行われた統一地方選挙では与党国民党が大幅に議席を減らした。代わって緊縮政策反対、政治腐敗の撲滅などを掲げる新興左派政党が保守系メディアの中傷攻撃を受けながら全国で躍進。
その象徴が6月6日マドリッド、バルセロナの2大都市。ここでいずれも少数会派の連立が成立、左派社会活動家の女性市長が誕生した。
スペインでは他の都市でも国民党が議席を大幅に減らし、社会労働党も議席を失うなど既成二大政党が後退。
スペインでは今年秋から来年初めに総選挙が予定されており、右派・保守系主体のスペイン政治が、既成政党では無い新興左派主導に大きく転換する可能性が出ている。
首都マドリッドの新しい市長に就任したのは元判事で左派社会活動家、新興会派「アオラ・マドリッド(マドリッドよ、今だ!)Ahora Madrid」のマヌエラ・カルメナManuela Carmenaj氏(71歳)が反緊縮政策を掲げる新興左派政党「ポデモス(我々は出来る)Podemos」や社会労働党の協力を取り付け、市議会議員57人の内過半数ギリギリの29人の支持を得て選ばれた。
カルメナ氏の支持者たちは所謂「義憤Indignadosの運動」を続け4年前には各地自治体の広場を占拠し、腐敗の撲滅、医療・介護や教育政策の充実、などを訴えてきた。
就任演説でカルメナ新市長は腐敗の撲滅、貧困家庭支援促進と共に市長報酬を現在の半額以下の4万5000ユーロ(5万1000ドル)にすると公約、また住宅立退き強制執行の停止、貧困者への空き部屋や空き家斡旋を推進する方針だ。
与党国民党は24年間マドリッド市政を牛耳り、利権をほしいままにして世論の強い反発あい、議席を大幅に減らし野党に転落した。
またカタルニアの首都バルセロナでは、住宅立退き強制執行反対の活動家、草の根市民運動Plataforma Afectado por Hipotacaのアダ・コラウAda Colau氏が新興の独立左派政党、社会労働党とポデモスの支持を背景に、国民党などを除く議員3分の2の支持を得て市長に就任。バルセロナ初の女性市長が誕生した。
バルセロナは長期政権を担った社会労働党の腐敗に付け込んだカタルニア民族主義右派政党CiUが、カタルニア独立を掲げ4年間市政を担ったものの、独立運動はそっちのけでCiU政治家の汚職、公金横領が相次ぎ市民の信頼を失った。
コラウ新市長は貧富の腐敗政治の一掃、格差解消に尽くすと公約し、住宅立退き強制執行の廃止、電気料金などエネルギー価格の引き下げや月600ユーロの最低所得保障政策を進める方針だ。
更にF1グランプリの経費、年間4百万ユーロの負担を見直し、その分貧困家庭の子供支援に回す考えを示している。
コラウ市長はまた市長の月額報酬を現在の1万4000ユーロから2200ユーロに引き下げる意向を示している。
今回はスペイン17の自治州の内13の州と8000余りの市町村議会の選挙が行われた。
世論調査で明らかになった既成政党への反発を反映するように、マドリッド、バルセロナだけでなく第3の都市バレンシアでも新興左派連合の活動家の市長が誕生した。
特に長年スペイン政界で政権の座にあった右派・国民党の退潮が著しく、しかしまた左派・社会労働党も多くの支持者を失った。
代わって格差解消、貧困者対策教育福祉の充実などを主張する、既成政党では無い、社会運動から生まれた新興左派政党・会派が市民に育てられる形で台頭した。
スペイン政界は一つの転換点に来ている。
〈文:大貫康雄(公益社団法人自由報道協会代表)写真:By Pedro A. Gracia Fajardo, escudo de Manual de Imagen Institucional de la Administración General del Estado [CC0], via Wikimedia Commons〉