香港の民主化が正念場!〜行政長官の選挙法案で揺れる香港〜(相馬勝)
香港の立法会(議会に相当)では17日、政府が提出した選挙制度改革法案の審議が始まる。法案は昨年8月に中国が示した原則に基づいており、1人1票による「普通選挙」を認めるものの、親中派しか事実上立候補できない仕組みだ。これに反対して、民主派は14日、「ニセの普通選挙は要らない」などと訴え香港中心部でデモを行ったが、主催者発表で参加者は予想を大幅に下回る約3500人にとどまった。
筆者はこれに先立ち、取材で香港に行ってきた。すでに立法会前の歩道には昨年と同じように、赤や黄色、青など色とりどりの多くのテントが並び、学生や青年男女が座り込みを続けていた。実はこの前日、香港は1時間に70㍉もの激しい雨が降り、1日で3300回の雷鳴が轟き、15便の航空便が欠航するという、ここ数年来で最大の嵐に見舞われた。それでも彼らはテントで一夜を明かしたのだ。
そのうちの1人、呉瑋霖氏(24)は「われわれは香港の未来に責任があり、それを見届ける必要がある。行政長官を決める選挙法案の採決がどのような結果になろうとも、私は運動がこのまま終わりを告げることはないと思うし、再び盛り上がることを確信している」と話す。
民主化運動は厳しい経済状況の裏返しでもある。ある邦人企業の支店長が解説する。
「マンション価格は60平方㍍で1億円。80平方㍍で2億円。100平方㍍では3億円だ。だが、いまの香港の賃金では15年働いても、3000万円貯めるのがやっと。家を買えるのは金持ちの親のもとに生まれた者だけ。香港は二極分化し、多くの若者に不満が鬱積している」
「香港の良心」といわれる陳方安生・元香港政庁政務長官も若者世代の気持ちを次のように代弁する。
「若い世代は自分たちの将来に希望がもてない状況だ。追い討ちをかけるように、香港の最大の魅力である民主主義も中国に奪われようとしている。怒らない方がどうかしている」
香港ではこれまで1200人の各界の代表で構成される選挙委員会が長官を選んできた。過半数の601票以上を獲得すれば当選だが、同委は親中派色が強く、民主派候補が当選することは事実不可能だ。
これに対して、新たな選挙法案は市民約350万人に選挙権が与えられる「自由選挙」との建前だ。しかし、行政長官に立候補するためには、やはり「選挙委員会」改め「指名委員会」委員の過半数の推薦を獲得しなければならない。
つまり、立候補するには親中派の支持を得なければならず、民主派グループは「ニセ選挙」と呼んで、このような選挙法案を押し付けている習近平指導部を激しく批判している。
法案の可決には香港の立法会(議会)議員70人中、3分の2の47人の賛成が必要。だが、民主派議員が27人を占めている。順当にいけば、法案は否決されるはずだが、中国側が民主派議員の切り崩しにかかっているといわれ、4人が賛成に回れば、親中派の逆転もあり得る。
とはいえ、法案が否決されても、選挙方法は現状のまま。法案が可決されても、長官には親中派候補が選ばれるのは確実なだけに、香港では今後も両派の対立が続くのは間違いない。
香港の中国系テレビ局幹部は「来年は立法会選挙が、17年には長官選挙が行われるだけに政治的混乱は避けられそうもない。これが経済にも影響することが予想されるだけ、香港経済は最悪の場合、今後10年間、低迷することも考えられる」と悲観的な見通しを明らかにした。
これに対して、民主化を支持する「リンゴ日報」の創設者、黎智英(ジミー・ライ)氏は「すでに、昨年の雨傘運動によって香港の問題点が明らかになっており、これを解決しなければ、再び若者が決起し、香港は統治不能になるだろう」と予測しており、香港は昨年同様、再び大きな混乱状態に陥りそうな気配が濃厚だ。
〈文・写真:相馬勝〉