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『【自主避難者から住まいを奪うな】密室から放たれた「自立」の矢~福島県が打ち切り発表』(鈴木博喜)

涙ながらの訴えは無視された。数万もの署名も、ハンガーストライキも一蹴された─。福島県は15日、県外自主避難者への住宅無償提供を2017年3月末で打ち切ることを正式に発表した。当事者の声を聴くことなく、密室から放たれた「自立」という名の鋭い矢。「避難者の皆さんに寄り添いますよ」と心にも無い言葉を吐きながら、避難者の心を貫く。放射線から逃れるために行動した人々は、原発事故からわずか6年で見捨てられることになった。

 

 

【無視され続けた避難者の声】

 

 「多くの避難者が落胆しています。今後の生活の見通しが立てられない怖さから、話すことさえできない状態です」

 

 福島市から東京都内に避難した30代の母親は、突然の打ち切り発表に「想定内ではあった」としながらも、自分たちの声を無視された悔しさを押し殺すように話した。5月下旬、参議院会館で開かれた院内集会。母親は、出席した内閣府や福島県東京事務所の職員に向かって「どうやって自立したら良いんですか」と問い質したが、答えは無かった。

 

 これまで何人もの避難者が、何度も声をぶつけてきた。仕事を休み、交通費をかけて何回も上京し、時には福島県庁にも足を運んで無償提供の延長や内堀雅雄福島県知事との直接対話を求めてきた。「私の給料どうなりますか?延長するって言ってください」と泣きながら訴えた母親もいた。しかし、福島県避難者支援課の職員は「皆様の要望は上にあげさせていただく」とくり返すばかり。いわき市から都内に避難中の40代の母親は言う。「国って自治体って何なのでしょうね。『民』あっての国のはずなのに、決して『民』を見ない」。当事者の声を聴いてから決めて欲しい、という避難者の声は本当に「上」にあがったのか。

 

 「結局、避難者の声なんて、初めから聴く気なんか無かったわけですよ」。やはり福島市から京都府に移り住んだ40代の母親は怒りを込めて話す。「私たちの話を直接聴いてほしいとあれほど要望したのに…。福島県庁は国と闘う気持ちがゼロ。内堀知事は国の代理人と言わざるを得ないです」。

 

 そして、こんな表現で怒りをぶつけた。

 

 「自立?切り捨てでしょ」。

 

 

【あまりにも軽い「寄り添う」】

 

 自主避難者たちの声は、常にかき消されてきたと言っていい。

 

 「人生設計を立てる上でも長期的な住宅支援を」との要望にもかかわらず、無償提供は1年間ずつ延長されてきた。「死刑宣告を1年ずつ先送りされているようなものだ」と表現した避難者がいた。2017年3月末までに自立しろという一方的な線引きは、まさに死活問題。家賃負担が重くのしかかる。

 

 福島県が今月、国に提出した「ふくしまの復興・創生に向けた提案・要望」でも、「避難指示が継続している区域の避難者等が、恒久的な住宅へ円滑に移行し居住の安定が確保されるまで、災害救助法による供与期間の適切な延長を行うこと」と求めているが、明確に自主避難者の住宅支援に触れた文言は無い。

 

 5月17日に朝日新聞が一面トップで打ち切りを報じると、参議院の「復興及び原子力問題特別委員会」で山本太郎議員が山谷えり子大臣に避難者との面会を求めた。しかし、「被災者の心に寄り添う」、「不安な皆様の声をていねいに聴きながら」とは言うものの、直接対話は拒否。「現時点では具体的なことには答えられない」という官僚答弁に終始した。棒読みで重みのない「寄り添う」という言葉は結局、実行されなかった。

 

 山本議員はさらに、昨年7月に福島県庁で開催された内閣府と福島県との極秘会合にも言及。「この時点で打ち切りが決まっていたのではないか」と黒塗りで公開された議事録の全面公開を求めたが、山谷大臣はこれも拒んだ。このやり取りから打ち切り発表まで、わずか2週間。今月9日に参議院会館で開かれた院内集会では、自民党の森雅子参院議員が「福島県の態度がはっきりしない。皆様の悲痛な訴えを関係者に届けたい」と避難者の前で話したが、これから6日後の発表。果たして避難者の切実な叫びは安倍晋三首相ら「関係者」の耳に届いたのか。大いに疑問が残る。

 

 

【請願に冷淡な福島県議会】

 

 「あきらめる?とんでもない。むしろ、これからますます声をあげていかなければいけないと思っています。今回のことを機に全国に避難した方々と横のつながりも出来ましたから」

 

 福島市から京都府に避難した女性は強調した。福島県の大阪事務所にも住宅支援を打ち切らないよう要請に出向いたが、ここでも「国と協議中」の一点張り。具体的な回答が何一つ無いまま、一方的に打ち切りが発表された。「本当にやり方が酷い」と憤る。

 

 16日からは福島県議会が始まる。南相馬市から京都府に避難している女性の名前で、長期間の住宅支援を求める請願が提出される。「うつくしま☆ふくしまi n京都」代表の奥森祥陽さん(57)は、女性とともに県議会の会派を回り、議員らに理解を求めた。だが反応は芳しくなかったという。オール与党の県議会には、自主避難者向け支援を是々非々で議論する気概は薄い。「感触は厳しい。自立ムードばかりで、『無償』の文字が入ると駄目だという声すらあった。そもそも応急仮設住宅は無償なのに…。災害救助法を根拠に住宅支援を行っていること自体に無理があるわけで、こうやって福島県の方針が示された以上、改めて、帰還する人も避難を続ける人もどちらも長期間の支援を受けられるように求めていきたい」と話す。

 

 「やっぱりまたやられた、という無力感はありますよ」。郡山市から静岡県に避難した父親はしかし、こうも語った。「子どもの頭に放射能まいた奴らは、ただでは済まさない。親父の気概です」。

 

 100世帯ほどが加入している避難者団体「ひなん生活を守る会」(鴨下裕也代表)は15日、さっそく「打ち切り方針が撤回されるまで、徹底的に闘う」とする声明を発表した。元双葉町長・井戸川克隆さんの言う「必要に迫られて動いた人々」の闘いは、まだまだ終わらない。


〈文・写真:鈴木博喜〉