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パキスタン、イスラム過激派から中国の労働者守るために軍特殊部隊1万人派遣 中パ首脳会談で合意

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)創設で、中国によるアジアのインフラ開発の本格化が予想されるなか、中国とパキスタンの関係がますます密接になっているようだ。

 

 まずは、文頭に掲載している両国の蜜月関係を如実に示す写真をご覧いただこう。

 

 この写真は中国の習近平国家主席が4月20日、パキスタンを訪れた際、習氏の専用機に従うように、8機の戦闘機が専用機を護衛している図だ。

 

 戦闘機はパキスタン空軍に所属する中国産の「殲10型機(J-10)」であり、習氏が乗る専用機が無事に飛行できるように、追尾しつつ、不審機が近づかないか、あるいは地上からロケットで狙われていないかをチェックしているのだ。

 

 パキスタンと中国国境付近は新疆ウイグル自治区やアフガニスタンなどの国境付近であり、イスラム過激派の拠点となっており、極めて危険な区域だけに、パキスタン軍が気を利かせて、中国主席専用機を護衛したのだ。

 

 もう1枚の写真は、パキスタン空軍のファラジ准将が、この模様を撮影しているときのもの。

 

護衛する空軍機などを影する空軍のカメラマン

 

 これらは中国共産主義青年団(共青団)機関紙「中国青年報」が同准将に取材し入手したもので、同紙ホームページに掲載されており、それが微博(ウェイボ)に拡散。いまやだれでも見ることができるが、中国のナショナルフラッグである中国民航(チャイナエアー)の旅客機に付き従うような写真は、まるで現在の中国とパキスタンの〝主従関係〟を表しているようで、極めて象徴的だ。

 

 習氏は2日間のパキスタン滞在中、同国のシャリフ首相やフセイン大統領と会談し、中国によるパキスタンの水力発電ダムなどのインフラ整備を目的とした大型投資で合意。さらに、その際、同国で建設工事に従事する中国人労働者を守るために、パキスタン側が軍特殊部隊1万人を派遣することで一致するなど、パキスタンは、ここでも中国に恭順の意を示したことになる。

 

 2カ国の首脳会談で、他の国民を保護するために、軍が常時、警備に当たるのは極めて珍しい。米政府系ラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」が報じたもので、ネット上では「それだけ、中国人が嫌われている証拠」との辛辣な書き込みがみられる。

 

 中パ首脳会談では同自治区内の中国北西部とパキスタン南西部を結ぶ「中パ経済回廊」の沿線開発に中国が450億ドル(約5兆4千億円)を投融資することで合意。中国はアジアと欧州を結ぶ経済圏「シルクロード構想」を掲げており、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を主導しており、すでに創設メンバーとして57カ国が認定されている。

 

 このようななか、習氏が今年初めての外遊先としてパキスタンを選んだのは、インフラ整備を進めたいパキスタンとの関係を強固にすることで、南アジアで一層、影響力を強化するとの思惑が働いている。

 

 中パ経済回廊の工期は2030年までで、中国の新疆ウイグル自治区南部のカシュガルからパキスタンの首都イスラマバードからラホールを経てアラビア海沿岸部のカラチからクワダルに至る全長3000kmに及ぶ。この間の高速道路建設や高速鉄道(新幹線)網の整備、発電所や港湾建設などが加わる。

 

 しかし、それには解決しなければならない懸念材料がある。それは、中国から派遣される労働者の安全確保だ。最近、海外で中国人労働者が襲撃されるケースが増えているからだ。

 

 それ以上に、パキスタンは中国からの独立をめざすウイグル族の一部勢力が多数居住し、テロ活動が活発化している新疆ウイグル自治区と接しているほか、パキスタン国内にも中国と敵対するイスラム過激派が多数存在している。

 

 このため、中国の最高指導者である習氏が直接、フセイン大統領らパキスタン首脳にパキスタン軍特殊部隊の派遣を要請した。これに対して、パキスタン側は少将級の軍幹部を総司令官とする特殊部隊1万人で常時、中国の労働者を保護する体制をとることを約束した。これは国際慣例上、極めて異例な措置だ。

 

 これについて、ネット上では「中国とパキスタンの友好関係を誇示する狙いもあるだろうが、イスラム過激派に限らず、中国が嫌われている証拠で、多数の中国人の血が流れるのが怖い」などとの書き込みがみられる。

 

(相馬勝)