現憲法は“押し付け憲法”ではない! 安倍自民党はじめ改憲を唱える政党の主張は本当に正しいのか? 日本社会、国民に良いことなのか? 具体的検証が必要 ~ドイツ憲法には、個人の基本的権利は絶対に変えられない“永遠条項”がある~
毎年5月3日が近付くと憲法改正の是非を問う集会などが報道されるが、今や自民党の動きが活発になりマスコミも頻繁に取り上げるようになった。それも改憲を唱える政党の主張を具体的に検証することなく分厚く報道、偏向が際立つ。
“フランス、ドイツは何回も憲法を改正”、など具体的な改正の中身を言わず表面的な事実だけを取り上げる議員もいる。
“アメリカによる押し付け憲法”でなく“今こそ自主憲法を!“などと自主憲法の方が良い社会に内容になるかのような印象を打ち出している。本当だろうか?
1)「押し付け憲法?」
現憲法制定までの歴史を見ると“押し付け”どころか、日本の学者・知識人の「憲法研究会」が45年10月26日発表した「憲法草案要綱」がGHQに強い影響を及ぼし、それを元に具体案が練られていったことが判る。
この憲法草案要綱の新聞報道をGHQはすぐさま英語に翻訳、詳細に検証。ラウエル法規課長らが、“民主主義的で賛成できる“と評価、この要綱を基本に、欠けている原則を追加して「憲法草案に関する所見」、いわゆるラウエル文書を提出した。
これが現・日本国憲法への基となったことは歴史学者・憲法学者達の研究で明らかだ。
一方で時の日本政府代表の草案は“女性の政治参加”などの諸権利は否定された内容になっていてGHQ側を呆れさせている。
そんな日本政府代表の“憲法案”が認められていたら、女性の政治参加は今も実現せず、日本は今も後進国の社会になっていたかもしれない。
2)「ドイツの改憲は“運用”の部分で、絶対変えられない”永遠条項“がある」
日本と同じく第二次大戦で無条件降伏したドイツ。教育・文化、宗教などを州の権限とするなど連邦制としたのは全体主義化再発を防ぐアメリカの主張だった。
しかしアメリカの主張と同じ、“連邦と州で判断が分かれるのを認める、二元分離”の連邦制ではなく、“連邦と州の間で意見の相違を調整”する連邦制を採用した。
確かにドイツは基本法Grundgesetz(憲法)を60回以上改正している。
主な改正例:
1956年、冷戦体制下で再軍備、NATO統制下の連邦軍の創設と国民皆兵、
一方で基本法に謳う個人の基本権を守るため、兵役拒否の権利を明記、兵士の自由・人権を擁護するオンブスマン制度も併設している。
連邦軍兵士の週末帰宅や家族の基地内訪問も出来、市民としての兵士の基本権を擁護する具体的措置も伴っている。
(メルケル政権下で国民皆兵ではなく、志願兵制度に改正。国民には、国民皆兵の方が軍が国民の監視下、民主的体質を維持できるとの意見が多かった)
1968年、緊急事態対処法
1969年、連邦政府と州政府間の税配分法
冷戦体制終了と統一後の90年代は、女性の権利推進の改善優遇措置(アファーマティヴ・アクション)や、環境保護、鉄道や郵便事業の民営化、などが改憲条項として加えられている。
2009年、自然災害や深刻な経済不況の場合を除いて政府の構造的な赤字をGDPの0,35%如何にする、などと改正。
このほかEUの統合が進むに連れ、EU法と連邦法との整合性を確保するための改憲もしている。
3)非民主的な改憲を防ぐためドイツ基本法には、所謂「永遠条項」がある。
人権(個人の尊厳)、男女・宗教などの平等、学問、集会、兵役拒否などの自由、教育・養育を受ける子どもの権利(義務教育などの学校制度)など「個人の基本権」を保障した19の条項(1条~19条)
これらは、誰であっても、如何なる理由があっても変えることが出来ない普遍の条項として規定されている。(永遠条項Ewigkeitsklausel)
主権は国民にあり、これらの条項に反することは議会であれ、政府であれ、また裁判所であれ禁止されている。
*)安倍自民党が国民投票法で過半数が得られれば改憲への道が出来る、などと考えているが、勝手にすることはドイツでは禁止されている。
安倍自民党は憲法上疑義がある法を充分な審議も経ないで成立させては「法治国家」とか「法の支配」などと正当化させようとしている。
*)ドイツ基本法のいう「法の支配」とはあくまでも憲法に合致した法による政治、
議会も政府も裁判所も、憲法に基づかない者は無効、とされる。その判断のため憲法裁判所が設置されている(Rechtsstaat, Rule of Law)
自民党の改憲草案を読んでみると、“公の利益”を個人の基本的権利より上位に置いている。
こんな憲法を認めれば全体主義化が進み、個人の基本的権利を侵害・圧殺する社会いになりかねない。
自民党の改憲草案などドイツでは基本法違反として誰も相手にしないだろう。
ドイツでは如何なる理由をつけようと、民主主義や個人の基本的権利(人権、個人の尊厳)、自由などを後退させるような改憲は一度たりとも行われていない。
またドイツの憲法は「闘う民主主義」を民主主義擁護の理念としており、政治家であれ誰であれ、国民に、“民主主義憲法擁護”の義務を課している(基本法5条3項)
政府が憲法と国民の権利に背いて、他の救済手段が無い場合、国民は抵抗権を行使でき
る(20条4項)
人間の尊厳、人権の保障、自由、民主主義などの根幹原則を破壊する(自己否定)の改憲を認めない、とも謳っている(79条3項)。
ドイツと比較するだけでも、自民党が改憲草案を反省し撤回しない限り、自民党の改憲論議が国民一人一人のためになるとは思えないことが判る。
〈写真:安倍首相(官邸ホームページより)〉