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日本は静かだがヨーロッパでは各地でTTIP(ヨーロッパ版TPP)反対の抗議行動相次ぐ

 日本では19日夜からTPPの日米の閣僚級協議が始まった。

TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ、Transatlantic Trade and Investment Partnership)はアメリカとEUとの間のFTA・自由貿易協定だ。

13年2月、締結交渉の内部手続きを開始。以来欧米間で交渉が続けられ、20日(月)に9回目の交渉がニューヨークで開催された。

その前の18日(土)はTTIP反対の統一行動日、各国で交渉反対の統一抗議行動が繰り広げられ、中でもドイツでは全土20カ所余りの都市や町村で大勢の人たちが参加した。

TTIPの目的・内容は日本政府も参加を表明し、先週末閣僚級交渉が始まったTPP・環太平洋戦略的経済連携協定(環太平洋パートナーシップとも言う)と似たような交渉となっている。

 

TPPもTTIPと同じように経済・産業の全分野に及ぶ交渉の筈なのに、まとまるまで秘密とされ、一体何を交渉しているのか判らない。秘密交渉であること自体が問題なのに、日本で抗議の声を挙げる人々は何故か少ない。

日本のマスコミは交渉が始まると報道するが、内容は乏しい。何故か、米の輸入枠の拡大と対米輸出自動車の関税引き下げだけが残る問題のように報道されている。

 

世論調査や土曜日の抗議行動への参加者を見るとヨーロッパの人々が、特に環境意識の高いドイツ人が如何に強い懸念を抱いているかが判る。

 

ドイツでは、TTIPは国民のためにならないとして43%が反対なのに対し、賛成は30%。フランスやイタリアなどよりも反対の意見が多い。

また土曜日の参加者はミュンヘンでは1万5000人が参加したのをはじめ、ハンブルク、ベルリン、フランクフルトなどの大都市から町や村まで200カ所で抗議デモ、参加者は総勢170万人に達した。フランスの10倍、イタリアの50倍に上っている。

 

緑の党は当初からTTIPに反対しているが、ここに来て世論に押されるかのように、連立政権のガブリエル経済相(SPD)も国民に不利な交渉は防ぐと言っている。

 

ヨーロッパの人々は何に懸念しているのか、主な理由を挙げてみる。

 

*EUとアメリカ政府の官僚間での秘密交渉は基本的に民主主義国家の原則に背くもの、

 選挙で選ばれた人々の代表が参加するものであるべきだ

 

*TTIPでEUの厳しい安全基準に達しない添加物や農薬を使ったアメリカ産の食料品、遺伝子組み換え食品・作物が輸入されるようになり、人々の健康に悪影響が及ぶのではないか

 

*TTIP成立後、特に大企業が政府の政策が損失・不利益を損害を被った場合、その国の国内法を無視して世界銀行の下にある国際投資紛争解決センターに訴えることが出来るという(ISDS条項)。こんな制度は一私企業による主権の侵害であり、憲法違反ではないか

 

*この制度はまた、大企業が、民主的に選出された議員で作る政府の法・規制を無視するもので、基本的に重大な問題で、自由貿易の名のもとに、人々が主人公の民主主義国家の根幹を揺るがしかねない

 

*一度でも条件が自由化や規制緩和されると、その国に如何なる不利益が生じても、その条件を取り消すことはできない、という。国民の不利益になる間違いを一度でも決めてしまうと訂正できない、こんな硬直した取り決めは危険だ

 

*医療分野や保険分野なので人々の健康や生活は二の次、企業だけに自由な活動を許すだけでは

 

  日本のテレビではTPP担当・甘利経済再生大臣の、最後のチャンス、とか、全力を挙げて国益を守る、などの発言が報じられるが、TTIPでヨーロッパの市民が懸念する問題はTPPにも同じようにある筈で、協議されるのは米と自動車だけでは無く、もっと重要な基本的取り決めのはずだ。

 

TPPは中国の経済力の急伸を前にアメリカの利益のため、特にアメリカ企業のための交渉と言われ、アメリカの上下両院議員には交渉内容が知らされ、交渉に反対の議員も多いと言われる。

ワシントンに駐在記者を置くマスコミ各社は、少なくともアメリカ議会を取材していれば、アメリカでは何が焦点になっているかが判り、鏡のように日本政府の交渉経緯が具体的に判るはずだが、これまで殆ど報道されることは無い。

 

そんな状況からなのか、日本では交渉を懸念する声は報じられない。国会議員さえ十分知らされていないのに、何ら問題と思っていないようだ。

  これでは政府が如何に貧弱な交渉をしても責任は問われない。この交渉でも無責任政治が続くことになる。

 

〈写真:TIIPに抗議活動する市民(By greensefa [CC BY 2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons)〉