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国民に熟慮の時間がある英総選挙、総理が不意打ち解散、短期間で投票に持ち込む日本の総選挙とは全く異なる

イギリスでは5月7日の投票日を目指し総選挙戦が続く。今回はキャメロン首相が“再選されれば、EUからの離脱の是非を問う国民投票を2017年までに行う”と言ったため、内外の関心もひと際高い。

15日は放送局主催の第二回の各党首の公開討論会が開かれた。連立与党の保守党首のキャメロン首相と自民党クレイグ党首は不参加、野党5党党首だけの討論会となった。

今回キャメロン首相が3月31日議会を解散、4月9日立候補締め切り、4月20日有権者登録締め切り。21日不在者投票申請締め切り、そして28日代理投票申請締め切りと投票日まで順を追って日程が決まっている。

 

 日本の議会制度は議会民主主義発祥の国イギリスの制度を参考に作られたが、イギリスの総選挙と日本の総選挙、その間には随分違いがあるのが判る。

 

Ⅰ)今回の総選挙は、地方政党も含め7党が争う混戦。イギリスが二大政党の時代から多党時代に入ったのを象徴する選挙と言われる。

過半数の議席を得る党は無く「宙ぶらりん議会hung parliament」になると予測される大混戦。

当初から放送局主催の政党党首テレビ討論会を二大政党だけにするか、何回開催するか、全てに参加するかなど開催方法まで各党間で異なる意見が出された。

 

 第一回の各党首テレビ討論会は民放ITVで4月2日行われ、7つの政党党首が揃った。保守党、労働党、自民党の大政党だけでなく議員一人の緑の党、スコットランドとウェールズの2つの地方党、それにEUからの離脱を唱える英国独立党の党首が互い誰もが誰もを攻撃し合うバトル・ロワイヤルのような論戦となった。

 

二回目のテレビ討論会は16日BBCで行われ、キャメロン首相は7党首揃った討論で現職首相の自分が各党から集中的に攻撃されたのに懲りたのかやはり参加しなかった。連立政権に参加後、支持者の期待とは逆の行動をして支持率急落に悩む自民党のクレッグ党首も不参加を決めた。

 

 日本なら、与党党首の参加拒否となれば御用マスコミが、“選挙報道の不公平”、など主張し、放送局首脳の責任問題などにすり変わるだろう。

しかし各党首討論会の主催はテレビ局、各党に平等に参加を呼び掛けている。応じるか否かは各党の問題で、放送局側の問題では無い。

キャメンロン首相もテレビ局側の対応を批判するような馬鹿なことはしない。そんなことをすれば世論の逆襲、返り血を浴びるのは明々白々だからだ。

 

 投票日1週間前の4月30日には民放のチャンネル4とスカイ・ニューズで三回目の各党党首テレビ討論会が予定されている。

テレビ局での党首討論会は都合3回行われ、有権者の多くが、この討論会を視聴して投票行動を決定すると言われている。

 

 日本ではマスコミ各社で作る「日本記者クラブ」が各政党党首を招く記者会見をするが、テレビが全中継する訳でもなく、新聞各社がきちんと詳細を報道することもなく、一般有権者が内容を詳しく知ることができる訳ではない。

立会演説会もなくなり、有権者の投票意欲を高める努力も殆ど行われない。

 

Ⅱ)イギリスでは首相に議会の解散権があるが、解散出来る条件が日本に比べて遥かに厳しい。

首相が国民を無視して自分勝手な都合や党利党略に走ることが無いようにし、イギリスが抱える諸問題に任期中、真摯に取り組むよう政府・各政党を促すためだ。

首相が過剰に解散権を濫用するのは悪弊でしかないのをイギリス国民は歴史から学んでいる。

 

2011年成立の議会会期固定法で、総選挙は5年ごと、5月の第一木曜日(今年は5月7日)に行うことが決められている。

会期より前に議会が早期解散される条件としては議員定数650の3分の2(434)以上の賛成で早期総選挙を行う動議が可決された場合だ。

(2010年の議論では任期5年は長すぎ政治が弾力性や緊張感を失う、とか、4年に短縮すべきとの修正案も出され、今後4年になることは勿論考えられるが、首相に自由な解散権を持たせれば政府・与党に圧倒的に有利になるので、首相が自由に解散できる日本のようにはならないだろう。兎に角、政府や政党に責任を意識させるための法と言える)

 

Ⅲ)従ってイギリスでは何カ月も前から政党も国民も総選挙を意識し始める。今回も2月に早くも大手世論調査会社(日本のようにテレビ局や新聞社が世論調査をするのではない)が各党の獲得議席の予想を発表している。

 それを受けてマスコミ各社も総選挙を意識した報道が始まった。BBCなどは投票まで8週間前からの選挙ムードなどと言っていた。

 

今回は3月30日、キャメンロン首相が女王に解散を報告

4月9日、立候補者登録締め切り、に始まり、有権者登録受付、不在者投票申請、などが続き、この合間に3回の各党首のテレビ討論会が開かれ、その都度詳しく報道される。

 

日本では昨年、圧倒的多数の安倍自民・公明連立政権が任期2年で消費税率引き上げの是非を問う?などの理由で突然国会を解散。解散から僅か23日間、1983年総選挙の20日に次ぐ短い期間になった。

しかも解散前日の11月20日付で与党自民党はNHKを含めた在京テレビ局各社に「公平中立な報道を要請」との文書を渡した。出演者の発言回数や時間、出演者の選定、討論テーマの選定などから街のインタビューの使い方にまで条件を付ける「報道圧力」と見なされるのは当然で、この結果、日本のマスコミの総選挙報道が低調な自粛的な報道になった事が指摘されている。

 

イギリスではいかなる大政党であっても、こんなことをすればマスコミが鋭い批判報道を展開し、国民が怒り、選挙で大敗を喫することは必至だ。政党消滅の危機に陥りかねないくらいだ。

 

〈写真:英・キャメロン首相 By Zasitu (Own work) [CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons〉