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中国の反腐敗闘争、江沢民周辺にも波及

 中国では全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議(政協)という二つの会議である「両会」が終われば、そろそろ春も間近で、人々は例年、華やいだ気分になるのだが、北京の知人は電話で「今年はくつろいで、華やいだような気分にはなれない。むしろ、政治的に緊張しているくらいだ」と話していた。その最大の理由が「江沢民・元主席の腹心中の腹心が捕まった」からだという。

(写真上:上海市内=いよいよ江沢民の牙城である上海にも腐敗追及の手が及んできた=筆者撮影)

 

 中国では昨年1年間で696人もの幹部が腐敗問題で「落馬(失脚)」しているが、「習近平主席による反腐敗運動もいよいよ佳境を迎え、江沢民閥の本陣に迫っている」とこの知人は語る。

 

 捕まったのは江氏の秘書を30年以上も務める賈廷安・中国人民解放軍総政治部副主任。階級は上将で、軍トップ34人のなかに入る最高幹部の1人だ。

 

 賈氏は62歳。河南省の高校を卒業後、第四機械工業省傘下の工場に入り、持ち前の勤勉さと文筆の才を認められ事務職に移り職場の計らいで大学に入学。卒業後、同省秘書部に配属され、82年に同省の筆頭次官として赴任してきた江氏との出会いがその後の人生を決めた。

 

 賈氏の有能さを見込んだ江氏が自身の秘書に抜擢。江氏は85年に上海市長として転任するが、賈氏を手放さず市長秘書に任命。1989年の天安門事件で、江氏が党総書記に抜擢されると、賈氏も北京で党中央総書記弁公室主任(党総書記事務所長)になった。江氏が中央軍事委主席に就任するや、賈氏は軍歴がないにもかかわらず中央軍事委弁公室主任を皮切りに軍総政治部副主任や党中央委員とトントン拍子に出世。

 

 まさに「江沢民の分身」と称されるほどの賈氏が党員の不正を追及する党中央規律検査委に身柄を拘束されたのだから、北京・中南海には衝撃が走った。

 

 逮捕の舞台装置が振るっている。2月23日、北京市内の八宝山革命公墓。張万年・元軍事委副主席の告別式を終えた賈氏が会場を後にしようとした際、出口で待ち構えていた規律検査委の係官数人が賈氏を取り囲むようにして近づき、「賈廷安同志。われわれに同行していただきたい」と声をかけると、そのまま車に乗せて走り去ったという。この一瞬の逮捕劇は参列者の習氏や他の党政治局常務委員らが見守る中で実行された。

 

 賈氏には以前から軍内の汚職に絡む黒いうわさが飛び交っていたが、その裏には江氏が関わっているとされ、「当局の狙いが江沢民ファミリーにあるのは間違いない」と知人は興奮気味に語る。

 

 それにしても、「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」を地でいくような逮捕劇。この図式は日本でもおなじみだが、まさに「秘書は辛いよ」というところだろうか。

 上海博物館

(上海博物館の様子。江沢民の揮毫がある=いよいよ巡視隊が本丸に突入か=筆者撮影)

 

 このようななか、両会を終えた直後、「規律検査委の巡視隊が上海に入り関係各所の捜査を開始した」と中国メディアは伝えており、いよいよ腐敗追及の手が江沢民閥の本丸中枢に及んでいるようだ。

 

(相馬勝/文と写真)