ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

「専門家の話を真に受けていた」~原発ゼロ訴えるも、在任中の原発推進は詫びぬ小泉純一郎元首相

 巧みな話術は健在。「専門家の言葉は嘘だった」と聴衆をする元首相はしかし、在任中の原発推進に関して最後まで詫びなかった─。東日本大震災から丸4年となる11日、小泉純一郎元首相(73)が福島県喜多方市内で講演し、「原発ゼロ」「再生可能エネルギーの推進」を訴えた。「原発は安くて安全」という専門家の進言を「原発の技術に疎く、真に受けていた」という小泉氏。脱被曝には言及せず、福島県民への謝罪も無し。雪の中、孫の被曝を案じて駆け付けた母の想いは、元首相の胸には届かなかった。

 

【「福島の事故で嘘に気付いた」】

 「この雪で中止になると思ったが、こんなに大勢来ていただいた」。さすが、絶大の人気を誇った元首相。何を言えば聴衆が喜ぶか心得ている。「よくも、未だに政府が嘘をついているなと呆れますね」。原発再稼働を進める安倍政権を斬ってみせた。

 小泉氏の言う「原発の嘘」とは、(1)絶対に事故を起こさない、(2)一番コストが安い発電、(3)地球にやさしいクリーンエネルギー。

 「お前は首相在任中、原発を推進してきたじゃないか。今さら原発ゼロを訴えるのは無責任だ、と批判を受けている」と自ら切り出した小泉氏。在任当時を「原発の技術に疎く、専門家の話を聴いて『そうかなあ』と真に受けておりました」と振り返り、4年前の福島第一原発の事故を見て「専門家の話は全部嘘だと分かった」と語った。

 「原子力規制委員会の田中俊一委員長ですら『安全とは申し上げられない』と言っている。原発は、ひとたび事故を起こせば大変な事になる。人が住めなくなる。事故を起こしてはいけない産業なんて、常識的には出来ないだろう」と再稼働の流れを批判。コストに関しても「こんなに金のかかる原発産業を一番安いなんて、よく言えるね。電事連も直そうとしない」、「6000人もの原発作業員の防護服は毎日、交換しないといけない。その費用だけでも大変だし、処理方法も決まっていない」と話した。

 原発の安全基準についても「日本が一番厳しいと言うが、アメリカやフランスなどと比べてどこが厳しいのか誰も語らない。逆に、世界の人々は『日本の原発はテロに一番弱い』と言っている。呆れますね」と斬って捨てた。

t02200165_0800060013242031573 t02200165_0640048013242026398

「『原発は安全で低コスト』という専門家の話を真に受けたが、全部嘘だった」と語った小泉純一郎元首相。福島県民への謝罪は最後まで無かった=喜多方プラザ文化センター

 

【「再稼働で核のごみ増える」】

 講演では「核のごみ」についても言及した。

 「一昨年、フィンランドのオンカロ(高レベル放射性廃棄物の最終処分場)に行ってきました。『オンカロ』は、フィンランドでは『隠れ家』や『洞窟』という意味のようですが、今や最終処分場の代名詞になってしまった」、「岩盤で出来た島に建設中なんですが、地下400mに2km四方の広場を造って保管する。それでも、わずか2基分しか収容できない。絶対に掘り返してはいけないと掲示をすると言っても、その言葉を10万年後の人類が読めるかどうか真剣に議論されている」などと語った。

 日本における最終処分については「私が総理の時に処分地を決めなかったのは政治の怠慢だと言われた。原発を再稼働させれば核のごみは増えるわけで、再稼働せず『もう、これ以上は増やさない』と宣言した方が(候補地住民の)理解を得られるのではないか。政府主導で最終処分地を決める時代じゃない。呆れちゃいます」と話した。

 原発に代わるエネルギーについては「代替案を出さないのは無責任だと言われるが、一人では出せるものではないし、出すべきでもないと思っている」と話し、「原発産業は全部、沿岸にある。冷却のために大量の海水を吸い上げるが、プランクトンも一緒に吸い上げてしまうため生態系を変えてしまう。死骸がパイプを詰まらせるために塩素系の薬品を使うし、温水を海に戻す。クリーンでも何でもない」と批判。原発政策をやめるよう訴えた。

t02200165_0800060013242050398

原発事故は、汚染廃棄物の「焼却・減容」という新たな問題を住民に突き付けている

t02200165_0800060013242052201

小泉氏は福島県内を隈なく巡り、「脱被曝」にも思いを馳せて欲しい=福島市大波地区

 

【「脱被曝」と「脱原発」は同じ事?】

 「原発ゼロでも停電していない」、「原発ゼロ社会は必ず今より良い社会になる」、「日本人は常にピンチをチャンスに変えてきた。やればできる」などと再生可能エネルギーへの転換を訴えた小泉元首相。講演を主催した会津電力の佐藤彌右衛門社長を「もう原発はやめよう、子や孫に安全な社会を作ろうと努力されている」と持ち上げてみせた。

 だが、国のトップとして原発政策を推進してきたことへの謝罪は無し。原発事故でいまだに子どもたちが被曝の危険にさらされていることへの言及も無かった。講演後の会見では、政治部記者らから安倍政権への想いや戦後70年の談話問題などに質問が集中。私が「子どもたちの脱被曝についてはどう思うか」と質問すると、足早に車に向かいながら「同じ事だ。対策という意味では同じ事だ」とだけ答えた。

 娘が郡山市内に嫁いだという喜多方市内の女性は「確かに喜多方は原発からの距離があるけれど他人事じゃない。郡山の孫はもうすぐ小学生。被曝していないか心配です。本当はどこか遠くに避難させたいけれど…」と会場で表情を曇らせた。「だからこそ、小泉さんに先頭に立って頑張ってもらいたいんです」とも話したが、肝心の元首相は子どもたちの被曝問題にはあまり関心は無いようだ。

 

(鈴木博喜/文と写真)