古代メソポタミア遺跡を守ろう。 イラクのメソポタミア遺跡を破壊するのはISだけではない
「ア~ア~」、2015年2月26日に過激派組織ISから<メソポタミア文明遺物破壊の図>を見せられて、ア然としましたよね!
私たち日本人も、世界最古の文明が<メソポタミア文明>だと、学校で教えられました。
その遺物が粉々にされている…、己の欲望のままに行動をする新国際流れ者たちは、一体、何者なんだ?
彼らは、給料をもらって好きな射撃と人殺しと破壊を、戦場という修羅場で思う存分に楽しんでいる…、「アッラーフ・アクバル」と、呪文を唱えれば全てチャラ! あらゆる悪事が許されるんだから、楽ちん楽ちん…、罪の意識などなく、彼らの犯罪はどんどんエスカレートしていくばかりです。
3月1日にはNHKが、「過激派組織ISの親分バグダデイの手が届かない、ISの超過激派が湯川さんや後藤さんの首を切った」と、ヨルダン人人質解放コーデイネーター・ムニフ・サマラの気になる発言を漏らしました。
ムムッ!IS内超過激派の黒幕は誰だ?
古代遺物の解体屋:
「偶像破壊はアッラーの教えだ」と、ここでも過激派組織IS戦闘員たちがアッラーの名をかたって、喜々とヨイトマケよろしくハンマーを振り上げイラクの古代遺物を解体した。
ちょっとまってよ、指導者と思しき御髭のおっさん!、アッラーは偶像破壊を命じていないョ。アッラーの使者ムハンマドが、イスラム教布教のためメッカに無血入場した630年、たくさんの偶像を崇めていた部族への見せしめと恐怖を植え付けるため、カーバ神殿周辺の偶像を破壊したんでしょ? 偶像破壊がムハンマドのパフォーマンスであったことをご確認のうえ、過激派組織ISの外人傭兵をご指導ください。
イラク戦争直前まで、筆者は何度もイラクの北から南まで人類文明の発祥地・メソポタミア地域を取材した。
イラク戦争直後には南にある紀元前9000年頃のシュメール文明の地を訪れた。が、あえて過激派組織IS外人傭兵がハンマーを振り上げなくても、イラクの古代遺跡は、アメリカがしかけた対イラク長期経済封鎖とイラク戦争で、十二分に破壊されていた。
古代遺物の国家強盗:
1872年、ビクトリア英国女王お気に入りの伊達男、ユダヤ系英国保守党指導者ディズレーリが、「侵略によって海外領土を広げる帝国主義は国策なり」と、<帝国主義宣言>をした。
それを合図に、ヨーロッパ列強による植民地陣取り合戦と呼応して、イラク北部遺跡での国家による遺物強奪合戦が開戦した!
強盗第一号は、駐モスル・フランス大使ポッタ。
彼はコルサバ―ドの遺物を、せっせとフランス本国に送った。
第二号は、後任の駐モスル・ヴィクトル仏大使。
彼は、過激派組織ISが破壊したのと同種の人面有翼牡牛像を6枚のイカダに載せ、バスラに運ぼうとした。が、クルナ近辺で住民に襲われ、遺物もろともイカダ一枚がユーフラテス川の底に沈んで、今もそのまま…、宝探しがお好きな方は、潜ってみてください。
第三号の駐モスル英国領事レヤードは、ニムルドの遺物を本国に送った。
かくしてイラクから強奪したメソポタミア遺物を、大英帝国博物館とフランスのルーブル美術館に飾り、両国家は入場料を取って盗品をさらしものにしている。
ジハーディ・ジョン斬首執行人が、クウェート生まれのロンドンっ子、モハンマド・エムワジ(1988年生まれ)だと特定されてから、<メール・オン・サンデイー(電子版)3月1日付け>の記者ロバート・バーカイクが、「2010年から2011年にかけてエムワジとメール交信した」と、発表した。
エムワジは「MI5(英国諜報機関)が勧誘も含めてつけまとい、俺は<歩く死人>状態だ。奴らに殺されるくらいなら自殺する」とメールで訴えた後、交信は途絶え、過激派組織ISのネット配信に登場したと、記者は公表している。
英国首相キャメロンは、「ネット交信でテロ容疑者の盗聴を可能にする巨大な権限を、スパイ連中に与える作戦」を、近々に発表するそうだ。
イギリス・スパイとは、有名な<アラビアのロレンス>を始め、他国に対する破壊工作員で政治工作員なのだ。
イラクのイスラム過激派がISイスラム国として産声を上げたのは、2014年だ。もしかして、過激派組織ISの親分アルバグダデイを操っているのは、エムワジを泳がせていた、英国ではないだろうか?
古代遺跡は誰が守る?:
過激派組織ISが実効支配するイラク北部には、人類の古代遺跡が多数残っている。
ニムルド、ハトラ、アシュール、そして、土まんじゅうと風化した古代遺跡は数知れず…。イラクの古代遺跡は誰が守るのか? 誰が過激派組織ISの外国人傭兵と戦えるのか?
2015年2月27日、過激派組織ISがモスルでメソポタミア古代遺物を破壊した翌日、イラク現政権は首相自らがイラク博物館オープニングのテープカットを演じて見せた。が、イラク文明を守ろうという気概は見られない。
2003年4月、イラク戦争直後にこのイラク博物館を訪れた時、戦争直前まで博物館館長を兼ねていたダメルジ・イラク文化庁長官は、米軍が展示品を破壊し強奪した荒れた館内を見回し、涙をこらえてアル・ジャジーラなどのインタヴューに応じていた。「イラク文化遺物を見たかったら、英国ロンドンの骨董街へ行け!」と、元長官は叫んだ。
米軍がイラク文化遺物を守ってくれる?
それは、ないものねだり…、米兵はイラク文明を理解していないし、過激派組織IS外国人傭兵と同じレベルの文明音痴だ。
2003年5月、イラク戦争直後に筆者はイラク南部のウル遺跡を取材しようと、現場に向かった。たまたま、米軍の戦車に挟まれた形でポンコツ車を走らせていたが、ウル遺跡まで来た時、突然、米軍に逮捕された。
「ここをどこだと思っているんだ!米軍基地だぞ!!」
そして、スペシャル・ポリスがやってきた。
「先週、黒い民族衣装を被った女が自爆テロをやった。お前たちの車はガソリンの臭いがする」と、火薬探知犬を放った。
「ポンコツ車がオイル漏れをしているんです。私たちは、あんた達のお友達、日本人です。ウル遺跡を取材にきただけです」と、必死で弁解した。
「ウルってなんだ?」と、ウル遺跡を知らないポリスは聞く耳もたずで、テロリスト扱いをした。「俺は三沢基地にいたよ」という軍曹がいなかったら、地獄の米軍監獄グアンタナモ…、寒気がする。
ウル遺跡には埋蔵したままの古代都市が存在し、人類の遺産が眠っていたのだ。そんなことを知らず、空軍基地を設置する米軍の無神経さ。これはもう、戦争犯罪だ。
2006年12月30日にアメリカに絞殺されたフセイン元イラク大統領は、イラクの文化遺産や遺跡を守ろうとした。
フランスや英国に、強奪したイラクの文化遺産を返せと迫った。
イラクが欧米の軍門に下がろうとも、イラクの魂と文明は売り渡さないと粘った。しかし、欧米から悪魔の烙印を押され魔女裁判で命を奪われたフセインはこの世にいない。
「フセインを殺したのは間違いだった…、」と、今頃になって、ブッシュ大統領の弟で次期米大統領有力候補のブッシュが言った。
言葉だけでなく心から間違いを認めて、兄貴が殺したイラク人や未だに戦禍で苦しむイラク庶民に、戦争の償いをしてください。
イラク古代文化遺産の修復も、お忘れなく…。
(平田伊都子/文と写真提供)
写真:上はイラク戦争前のウル古代遺跡、下は戦後の立入禁止になったウル遺跡