イスラム国人質事件と安倍外交の限界
「イスラム国」の人質となった湯川遥菜(42)が殺害されてしまった。残念である。
テロリスト達は未だ安否不明の後藤健二さん(47)についてヨルダンに収監中の女性死刑囚との交換を求めている。
「一日も早く救出、解放できるよう全力で努力したい」
安倍晋三首相は第189回通常国会が召集された26日午前、閣僚懇談会でこう述べヨルダン政府への働きかけを強める姿勢を示した。
このため自民党の佐藤勉国対委員長は、同日行われた民主党の高木義明国対委員長との会談で、人質事件の対応に追われる安倍首相以下、関係閣僚の国会審議出席に影響が出るとの認識を示し、事前に理解を求めた。
むろん、後藤さんの無事の帰還は政府の責任で最優先に取り組むべき課題だが、だからといって国民に対する説明責任を避けては通れない。
何より問い質したいのは安倍首相が掲げる積極平和外交の負の側面についてである。
ネット動画で「イスラム国」が邦人2人の身代金を要求する直前、中東歴訪中の安倍首相は滞在先のイスラエルで「人々の人権を守り、平和な暮らしを守るため、世界の平和と安定により積極的に貢献する決意だ」、「卑劣なテロはいかなる理由でも許されず、断固として批判したい」とのメッセージを世界に向けて発信した。
また事件直後には、「イスラム国」周辺諸国への2億ドルの支援について、「避難民にとって最も必要であり、医療、食料を提供するのは日本の責任だ。国際社会からも高く評価されている。今後も非軍事分野で積極的な支援を行っていく」とも述べている。
その志は良としても支援のあり方、つまりは積極平和外交の手順や手段に誤りはなかったか。人質解放に向けた政府の対応とは別けて議論する必要があろう。
ましてや今国会、政府が提出を予定している安全保障法制が成立すれば、自衛隊の中東湾岸諸国での軍事的プレゼンスは格段に高まる。そうなれば米英と足並みを揃える日本に対するイスラム過激派の反発は必至だ。
安倍首相がいかに非軍事的貢献を訴えようとも、日本がテロ攻撃のターゲットにされては世界平和どころの話ではない。見直しが迫られる安倍外交である。
(藤本順一)<t>
写真:首相官邸HPより