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二人の拘束事件。発生以来不明なのは安倍政権の問題意識の欠如か? 交渉能力の欠如か? 救出意欲の欠如か?

 湯川遥菜さんが昨年8月、そして後藤健二さんが10月末から11月にかけてISIS(ISまたはISIL)に相次いで拘束された件で、これまで安倍首相は一体何をしていたのだろうか?

 安倍氏は今年1月20日、ISISの映像による脅しが出て、突然のように対策本部を作り、二人の救出に“人命第一、陣頭指揮で、全力を挙げて取り組む“などと繰り返した。

 

 24日深夜、“日本政府が72時間以内に2億ドル支払わなかった”としてISISが湯川さん斬首の映像を流した後も、安倍氏は“言語道断、赦しがたい暴挙、絶対に屈しない”などと繰り返すだけ。

 何と25日のNHK「日曜討論」では“こうした邦人救出のためにも(集団的自衛権を行使し)自衛隊を派遣できる法整備が必要云々”と支離滅裂なことを言い放つ。一方で殺された湯川さんの冥福と家族へのお悔やみの言葉一つない。

 

 二人の拘束後の安倍首相の言動を検証すると、一体安倍首相は何処まで問題の重要性を認識していたのか、本当に国民の擁護救出に誠心誠意取り組んでいたのか、首をかしげたくなる事が多い。

 湯川さんが斬首されるまで政権は一体何をしていたのか、マスコミは一体何を報道していたのか?

 

*)「ISISが湯川さん拘束」の動画がユーチューブに投稿されたのは昨年8月17日。(現在ヨルダンに避難中の)「駐シリア日本大使館」には16日時点で第一報が入る。直ちに本国政府に伝えると共に“駐在大使を本部長に「現地対策本部」を設置”。

 

 しかしマスコミ報道を確認する限り、安倍首相が邦人拘束事件を真剣に考えていた形跡は無い。それどころかISISを無視するか刺激するかのような言動をする。

 

 1カ月余り経った9月23日と25日、安倍首相は国連総会出席の機会にエジプトのシシ(Abdel Fattah El-Sisi)大統領、イラクのフアド・マスーム(Fuad Masum)大統領と相次いで会談し、国際社会の“ISILに対する闘いを支持”、“ISIL壊滅を期待”などと述べている。

 

 現地では一部のシリア反政府勢力が湯川さん解放の交渉に当たっていたのに、肝心の湯川さんの国の総理がまるでその努力に水を浴びせるかの言動だった。

 この会談内容をISISが知れば当然、安倍政権への敵対意識を強め、湯川さん解放を難しくした筈だ。

 

 この国連総会出席の時、安倍首相が湯川さん拘束の情報を知らなかったとは考えられない。首相が知らなかったとすれば、政権自体の信頼性、能力の欠如を問われる事態だ。

 

*)そして10月末、湯川さん救出にISISの本拠地ラッカに向かったと言われる後藤さんが10月27日の帰還予定日に戻らず、11月に入り後藤さんの家族に身代金(10億円)を要求するメールが送られた。

 外務省は後藤さんの家族から知らせを受け、当然のことながら陰で救出交渉に当たっていただろうと信じたいが、外務省内に対策本部を設置したとの報道は無かった。

 また、安倍首相と岸田外務大臣が、湯川さんに続く後藤さん拘束と身代金要求を何処まで深刻に考えていたのか、その形跡が見当たらない。

 外務省は両氏に報告していなかったとは考えられないのだが? どんな報告をしたのか?

 

*)二人が拘束され、命の保障が定かではない状況下、救出に本気で取り組む雰囲気は全く感じられなかった。

 一方で支持率の低下を気にし始めた安倍首相は“何故?の解散!”を行い、政権の延命策を図る。

 そして1月、ISISが勢いを維持する中東に足を踏み入れる。訪問国首脳との会談や講演など現地での言動を辿ると安倍氏が二人の安否を気遣う兆候は全く見られなかった。

 

 海外の国民の擁護は政府の主要任務の一つだが、行政の最高責任者の首相としての自覚は希薄だったとしか思えない。

 

“2人を処刑する”とISISが警告したのは安倍氏のカイロでの発言を受けてである。

 安倍氏は現地時間1月17日、カイロの「日エジプト経済合同委員会」で、総額2億ドルの援助は“イラク、シリアの難民、避難民支援、トルコ、レバノンへの支援はISILの脅威を少しでも食い止めるため…”などと明言した。

 

 警告はこの発言の直後で、それも「日本はイスラム国に対する十字軍に進んで参加した…」などと不信感と敵対心を高めている。

 

 安倍政権はISISの脅しに慌てるように“2億ドルは難民対策など人道的な援助…”などと説明した。

 しかし安倍政権の一連の言動を見ると、ISISはこの2億ドル支援だけで日本を十字軍参加、と非難しているのではないことが判る。

 

*)安倍政権はようやく1月20日以降、首相官邸地下に官邸対策室を、アンマンの在ヨルダン大使館に現地対策本部を設置し、中山外務副大臣を本部長として派遣した。また外務省本省に緊急対策本部を、そして警視庁に公安対策本部をそれぞれ設置。安倍氏はイスラエル、パレスチナ訪問後予定を切り上げ帰国、“陣頭指揮”発言をする。

 

 事の重大性を認識した時は既に遅く、具体的な手を打たないうちに湯川さんが殺された。

 今頃になって“陣頭指揮”、“人命第一”と安倍氏はいうが、現時点では対応が基本的に遅すぎる。安倍政権に効果的手段は無く、全てはヨルダン、トルコ、現地の関係国に頼るしかない状況だ。

 

 安倍氏の的外れで危険な外交はさて置き、現時点では後藤さんの無事解放を祈るばかりだ。

 

(大貫康雄)

写真:首相官邸HPより