イスラム国の邦人人質事件で問われる安倍外交と危機管理能力
過激派「イスラム国」に拉致監禁された邦人2人の安否が気遣われる。
「イスラム国」は中東歴訪中の安倍晋三首相がシリア、トルコの難民支援などに2億ドルの資金援助を表明したことに反発、20日早朝、ネット上で資金援助と同額となる2億ドルの身代金を要求し、72時間以内に支払わなければ2人を殺害すると脅している。
一刻の猶予も許されない。このため安倍首相は外遊日程を切り上げ21日夕、帰国した。人命優先か、テロとの戦いか、いずれにせよ待った無しの難しい判断が迫られよう。事の成り行きによっては安倍内閣の危機管理能力が問われることにもなりかねない。
折しも週明け26日、通常国会が幕開けとなる。15年度予算の成立を急ぐ政府与党は、安倍首相の所信表明演説を行わないとしていたが、そうはいかない。所信表明を通じてテロ対応も含めた今後の安倍外交の方針を国民にしっかり指し示す必要があろう。
さらに安倍首相は今国会、自衛隊の湾岸諸国への出動を視野に入れた安全保障関連法案を提出する。しかしながら、たとえ自衛隊の活動が非戦闘的なものであったとしてもイスラム過激派から日本は敵と見做されテロ攻撃の危険に晒されることになる。
「与党協議へのコメントは控えたい。集団的自衛権の行使は新3要件が判断基準だ。いかなる事態でも切れ目ない対応を可能にする安全保障法制の整備が重要だ」
安倍首相は20日、訪問先のイスラエルで行った記者会見でこう述べるに止めた。
とはいえ現行法制下であっても「イスラム国」を攻撃する多国籍軍に対する自衛隊の後方支援を認めるのかどうか。今後起こり得る危機対応について政府の見解を質さなければなるまい。
むろん15年度予算案の国会審議は最優先だが、幸いにも国会審議が本格化するのは国会召集から3週間先の2月中旬以降となる。
政府与党内にはこの間、予算関連法案を先行審議する案が浮上しているようだが、予算の中身が分からないのにどうして関連法案の是非を議論できよう。そんな暇があったら過激派「イスラム国」のテロ問題について集中審議を開いたらどうか。
(藤本順一)<t>
写真:首相官邸HPより