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テロ事件後精神安定剤の売り上げ急増報道、その実は

 22日の「フランス2」夜のニュースが“テロ事件後精神安定剤の売上急増、との報道は事実誤認”と報じていた。

「おや!」と思った人が多かっただろう。このニュースは通信社が世界に広め欧米各国のメディアが結構取り上げていたからだ。

 

 新聞社とコーシャ食品店が襲われ17人の死者を出した一連のテロ事件。白昼パリ中心部で起きた凶悪なテロ事件だけにフランス国内だけでなく世界各国を驚かせた。

 事件収束後の日曜日パリにはドイツのメルケル首相を始め世界40カ国以上の政府関係者らが参加してデモ行進を行うなど、犠牲者への追悼とテロに屈しない連帯を叫ぶ声が世界各地で聞こえた。

 

 翌週、「“テロ事件後、精神安定剤などを求める人が増え、売り上げが急増”などとルモンド紙伝える」と即刻通信社がその記事を世界に流した。

 衝撃的な事件だけに、多くの人々が精神安定剤などが必要だろう、と素直に信じられたのだろう。欧米のメディアが結構伝えている。

 私も“そうだろうな“などと簡単に思ってしまった。

 

 処がこの報道は実情と違うと22日夜のフランス国営の「フランス2」ニュースが以下のようにリポートした。

 先ず情報源の製薬会社を訪ねる。広報担当は当初、“1月中旬に精神安定剤や睡眠薬の売り上げが急増した”のは事実と言う。F2の記者が、“「売り上げ急増はテロ事件の影響だ」と報じられているが?”と尋ねる。すると広報担当者、“そんなこと言ったことは無い、取材に来た記者が勝手に推測したのではないか”と戸惑ったような表情。

 

 そこで薬剤師会を訪ねると担当者が“1月中旬の安定剤の売り上げ急増は毎年のこと“と折れ線グラフで表示された日々の売上表を見せて明快に語った。

 

 フランスなどでは12月25日から1月6日までクリスマス関連行事がつづく。それが終わって人々が通常の生活に戻った時、日常服用している薬を購入するのに殺到しているからだ、と言う。

 

 この件の報道でルモンド紙の記者は、今年1月だけの毎日の売り上げ推移の変化を見て1月中旬に売上急増したのを”テロ事件の影響“と思いこんでしまったふしがある。

 スタジオ解説は“テロ事件後、安定剤などの売り上げ急増!”の誤報は取材記者の取材不足、この場合は一方的な思い込みで記事を書いたものだ、などと締めくくった。

 

 確かに衝撃的な事件だったが、この程度で人々は精神安定剤を求めに走るほど浮足立ってはいなかったのだ。

 

 売り上げ統計を短期的でなく、もっと長期的に、1年以上の推移を調べると、今回のような“誤報”は防ぐことが出来た。

 統計のとり方や見方次第で異なった結論になる怖さだ。

 

 また私の場合はAP電を見て、“そうだろう”、などと思い込んでいた。

 通常、一般の読者、視聴者はメディアの報道に、間違いないだろう、との前提で接している。

 それだけに杜撰な記事やリポートを我々読者、視聴者が如何に信じ込みやすいか、その怖さを実感させられる報道だった。

 日本でも折に触れ、意図的な報道が見られるので注意したいところだ。

 

(大貫康雄)

写真はイメージです。