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一昔前の近未来は、果たしていつなのか?

「陰謀と破壊と犯罪の渦巻く現代によみがえる正義の騎士・・・巨大な悪に立ち向かう現代の騎士。今日、彼を待ち受ける者は、果たして誰か」

 

 このセリフを覚えていらっしゃるだろうか。これは80年代に大ヒットしたアメリカのカー・アクションドラマ『ナイトライダー』が始まる時に必ず流れたオープニングのナレーションである。毎回、デビッド・ハッセルホフ(今や62歳)演じる犯罪捜査員マイケル・ナイトが、人間の言葉を理解し特殊装備を搭載した自動走行ドリーム・カー「ナイト2000」と共に様々な事件を解決していく物語だった。あんな自動車が欲しいと思ったものである。しかしそれは夢また夢。

 

 ところがその夢がいよいよ現実になると予感させるクルマが登場した。1月初めにラスベガスで開催された国際家電見本市(CES)2015で発表されたメルセデス・ベンツコンセプト・カー「F015ラグジュアリー・イン・モーション」である。シルバーに輝く流線型の車体を人間に代わってコンピュータが安全運転してくれるのだ。

 

 車内には独立した4席のバケットシートがあり、自由に回転し向かい合わせに座ることも可能。まさに移動リビングルームである。電気駆動システムと燃料電池で走行するとのこと。「自動運転車の実用化へ一歩前進するものだ」とダイムラー取締役会のディーター・ツェッチェ会長は自信を見せていた。

 

 自動運転実用化に向けては世界の自動車会社がしのぎを削っている。その中でもメルセデスのコンセプト・カーは飛びぬけていると私は感じた。それだけではない。すでに2013年夏に新型Sクラスに搭載された技術100キロの自動運転走行に成功しているのだ。交通信号、ロータリー交差点、歩行者、自転車、路面電車などの複雑な課題をすべて自動運転でクリア―したのだから驚きである。

 

 しかも自動車史で忘れることのできない「ベルタ・ルート」を走ったことも感慨深い。ベルタ・ルートとは126年前の1888年8月5日、創設者カール・ベンツの妻ベルタがマンハイムからプフォルスハイムまで世界初の長距離自動車旅行を敢行した道のことである。その道を近未来の自動車が走る。なんと遊び心があって粋な発想だろう。

 

 すでにクルマの自動運転の国際的なルール作りも始まっている。国連は昨年末に自動運転に関する初会合を開き、国際基準の制定に向け動き出した。目下の主な課題は3つある。

 

 まず、完全自動運転による人間の運転能力の低下。緊急時に対応出来るかどうかということだ。2番目は走行中に乗っている人たちに運転以外の作業(サブタスク)がどの程度許されるか。私などすぐ宴会モードに入ってしまいそうである。3番目は事故が起きた際の責任問題。運転者(所有者)とメーカーのどちらが責任を負うのかは当然議論になるだろう。

 

 いずれにせよ自動運転技術は時々刻々と進んでおり、そう遠くない未来に実用化されるだろう。あの世に行く前に一度は乗ってみたいものだ。

 

(蟹瀬誠一)<t>

By K.I.T.T.1982 (+EST Co.,LTD. Universal Studios LLLP.) [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons