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“採算度外視”のコンビニが担う避難住民の帰還促進。汚染は放置して公費で誘致・造成~田村市都路地区

 福島第一原発事故による放射能汚染に翻弄され続ける田村市都路地区。避難住民の早期帰還を促そうと、地区初のコンビニが22日にオープンする。過疎化が急加速する“限界集落”での営業が始まった、採算度外視の店舗。追加除染はせず、公的資金を投入してまでコンビニを誘致した国や行政の姿勢に、地元住民からは「ハコモノは要らない。まずは汚染からの復旧を」との声も聞かれる。

 

【「売上目標など立てられない」】

 静かな山村に華々しいファンファーレが流れた。関係者がテープカットを行うと、店内は開店を待ちわびたお年寄りたちであっという間に一杯になった。“目玉商品”の卵や牛乳が飛ぶように売れる。買い物を終えたお年寄りたちは、口々に「これで船引まで買い出しに行かずに済む」と都路地区初のコンビニを歓迎した。

 

 「早期帰還の弾みとなることを期待している」、「早期帰還が一段と進むよう、全力で取り組んでいく」。復興庁副大臣の浜田昌良参院議員(公明)は、開店セレモニーの挨拶で「早期帰還」と何度も口にした。公務で欠席した田村市の冨塚宥暻市長も、「昨年は田村市の復興が大きく前進した。避難住民が安心して帰還できるよう、今後も支援していきたい」とのメッセージを寄せた。

 

 実はこのファミリーマートは、国や行政の強い要請で出店が決まった経緯がある。都路地区では今月1日現在、930世帯、2673人が生活しているが、同社常務取締役の和田昭則開発本部長は「正直なところ都路は採算が合う環境ではなく、本来なら出店しない立地条件」と明かす。店舗前の国道288号線の交通量はまばら。深夜も休まず営業するものの、「売上目標など立てられない」(和田開発本部長)状態。

 

 それでも出店に踏み切った背景を、和田本部長は「社会的責任」と説明したが、原発事故を機に地区外へ移り住んだ住民たちを一日も早く帰還させるシンボルとしたい思惑が大きく作用していることは、複数の関係者が証言している。実際、浜田副大臣もこう話した。「出店にあたり、用地の造成費用は私ども(復興庁)が助成させていただいた」。

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22日の開店を前にセレモニーが行われたファミリーマート田村都路店。地域初のコンビニにレジ前はお年寄りの長い列ができた。国や行政は避難住民の早期帰還を促すシンボルにしたい考えだが…

 

【危機感と過疎化解消で続く葛藤】

 そんな思惑とは裏腹に、地元の受け止め方は複雑だ。

 田村市都路行政局の男性職員は都路に生まれ育った。「現状が決して安全であるとは言えない」と話す。市は「宅地や田畑の除染は完了した。基準値(0.23μSv/h)をほぼ下回っているので、追加除染の予定はない」との姿勢だが、「依然として0.5μSv/hを超えるような個所もある。私の自宅もそうだ」という。「判断は住民個々で違う。正直なところ、どの数字が正しいのか、どのレベルなら安全なのか分からなくなってしまっている。行政としては数値を明らかにして判断してもらうしかない」と苦渋の表情を見せた。

 

 原発事故で過疎化が急加速した都路地区。古道小学校の全校生徒は約60人。岩井沢小学校に至っては30人に満たない。「いわゆる“限界集落”です。子育て世代が戻らなければ集落の存在自体が無くなってしまう」。その上で「現実問題として58%の方々が都路に戻って生活をしている。昨年4月には学校も再開した。避難を続けている方への支援も戻った方々の生活支援も両方必要。コンビニが出来れば、食料品の調達は地元で出来るようになる」と話した。

 

 「帰還促進と言うけれど、コンビニが出来たからといって戻って来るとは思えない。私だって『コンビニが出来たのなら戻ろう』とは考えない。そんな簡単じゃないよ」。そう話すのはコンビニを切り盛りしていくことになる女性店長(34)だ。自身、小学校4、5年生の2児の母。「都路に帰りたい」というわが子の言葉を受けて昨年4月、船引から故郷に戻ってきた。「避難生活は子どもには窮屈だったかな。都路に戻っても、原発の真横で生活するわけではないし…。どこまで心配したら良いのか分からない」と複雑な想いを口にした。「ただ、今回の出店で『都路に戻ったってコンビニ一つ無いじゃないか』という言葉は無くなると思う。これまで本当に不便だったから」。

 

 先の男性職員は「原発事故は現在進行形だ」とも話した。「燃料棒取り出しも続いているし、常に家族とは万一の時の避難経路などを話し合っている。危機感とジレンマの中で生活しているんですよ」。副大臣らが考えるほど、地元住民の想いは軽くない。

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都路地区にとって原発事故は現在進行形。「コンビニが出来たから戻って来い」と国や行政が言うほど住民たちの想いは軽くない

 

【「徹底した測定と除染を」】

 ファミリーマートの和田開発本部長は「出店にあたって放射線への懸念は無かった。現に住んでおられる方々がいる以上、不安は一切ない」と強調したが、地区内にはホットスポットが点在しているのが現実。「都路は8割以上が未除染の山林」(田村市職員)であるため、宅地除染を実施しても放射線量の低減が難しい。「なぜ税金を投入してコンビニを造ったのか。コンビニが出来れば当然、利便性が高まるし、誘致自体が悪いわけではない。でも、順番が違うだろう。まずは原発事故前の状態に戻すべきだ。復興より復旧だよ」。避難生活を続ける50代男性は話す。

 

 「若者が戻らないのは汚染に対する不安があるから。若者が戻らないのに、なぜ復興が進むのか。戸別に徹底した測定をして、0.23μSv/hを上回るようなら追加除染をするべきだ。帰還云々はそれからの話」3人の子どもの父親として、帰還一辺倒のやり方には怒りが収まらない。そもそも、なぜ衣料品も揃えたスーパーではなくコンビニだったのか。「ファミリーマートは本当に採算の合わない経営を本気で続けるのだろうか。24時間営業したって、夜間は人件費がかかるばかりだろうに」。不信感も募る。

 

 地元商工会が出店に全面協力した形になっているが、関係者の一人は「なぜあの場所で、なぜコンビニだったのか。こんなの本当の復興じゃない。一部の人が儲かるだけ。メディアは本当の事を伝えて欲しい」と利権の存在を示唆した。コンビニが完成した場所には震災前まで飲食店があった。土地の造成に時間がかかり、その費用は国が負担した…。憶測も飛び交う。

 

 「都路には放射性廃棄物の焼却炉建設問題もある。鮫川村の問題が解決していないのに…」と話す人も。「合併した時は良かったけれど、今となっては都路は田村市の”お荷物”なんだろうなあ」。

 

 開店セレモニーでは、内堀雅雄福島県知事のメッセージが代読された。「復興のシンボルになることを祈っている」。福島県内150店舗目のファミリーマートは今日、オープンする。

 

(鈴木博喜/文と写真)<t>