今は昔の原発事故。「意識しない」「考えたってしょうがない」~福島の新成人が語る放射線
東日本大震災から3年10カ月目となる11日、福島県内で一足早い成人式が開かれた。
新成人たちに放射線のことを尋ねると、一様に返ってくるのは辟易した表情と「心配していない」の答え。原発事故から4年近くが経ち、福島で暮らす若者にとって汚染はもはや過去の話になったのか。20歳の新米ママもこう言った。「考えてもしょうがないですから」。
【「福島を離れたくない」】
1歳4カ月になるわが子の無邪気な笑顔に、新成人パパの表情も思わずほころぶ。福島市の国体記念体育館。数多くの新成人の中に、2組の夫婦がいた。
昨年2月に結婚した夫婦は、9月に誕生したばかりの娘を抱いて出席した。「放射線ですか?全く意識しないですね。子どもが生まれる前も今も、それは変わりません」と工場勤務の夫。妻も「産むまでは少し気にしていたけれど、考えてもしょうがないですからね。県外避難ですか?考えたこともありませんね」と口を揃える。共に福島市出身。ふるさとで娘の成長を見届ける。「可愛いでしょ?モデルにしようかな」。父親はうれしそうに笑った。
もう1組の夫婦は、子どもが1歳4カ月。「俺は放射線のことは全く考えたことがないですね」と父親が話すと、傍らの妻が「えー」と苦笑した。
「私はできることなら県外避難したいです。何十年後かに、この子の身体に影響が出ないか心配ですから。でもね、避難するにもお金が無ければできません。それにこの人の仕事もあるし…」
夫とて、放射線の影響を一度も考えなかったわけではない。原発事故当時は高校1年生。サッカー部に所属していたが、顧問はグラウンドでの練習を命じた。マスク着用が推奨され、屋外活動が制限されていた時期。「アホかと思いましたよ。やりたくなかった。でも、そうもいかないですよね」。除染作業に従事していたこともある。「4年経って薄れてきたかな。放射線も自分の意識も」。そしてもう一つ、ふるさとへの募る想い。実は、それが一番大きいのかもしれない。
「離れたくないんですよね、福島を」
共に新成人となった福島市の夫婦。もうすぐ4カ月になるわが子を抱き成人式に出席。「放射線を意識したことはない」と口を揃えた=国体記念体育館
【「今さら怖がったってしょうがない」】
地区ごとに分散開催された伊達市の成人式。
梁川中央交流館に集まった新成人たちに取材に来たと声を掛けると、振袖姿の女の子たちが目を輝かせてこちらを向いた。しかし、放射線に関して尋ねた途端、彼女たちの表情は急速に曇り、1人また1人と去って行った。1人だけ残った女の子が、うんざりした表情で吐き捨てるように話す。「伊達市は警戒区域じゃないし、放射線を意識したことなんてありません。なったものはなったものなんだから、今さら怖がったってしょうがない。受け入れるしかないじゃないですか」。
友人と出席していた男性の職業は「除染作業員」。「17の時から福島市でやってますよ。金ですよ金。会社は儲かってるんじゃないですか」と笑顔で話す。「線源はありますよ。0.2μSv/hは超えるなあ。地表真上できちんと測れば0.1ってことはないっすよ。仕事で毎日測ってっから。自宅?自宅の数値は分かんねえなあ。あくまで仕事だから、自分の身体を守るなんて考えたこともねえなあ」。
友人の男性は、こうも言った。「意識が低い分だけ、宮城や栃木などの周辺県の方が危ないんじゃないですか」。自分たちにとっては、もはや放射線防護は過去の話ということか。新成人たちの様子を笑顔で見守っていた交流館スタッフの男性は「安全かどうかまだ分からない」とつぶやいた。
「モニタリングポストの数値だって、本当の数値が公表されているか分からない。心配して気をつけて、それで将来、何も影響が出なければそれで良いんだよ。ちゃんと防護しないと」
伊達市梁川町、ヨークベニマル裏手の駐車場では0.5μSv/hを超した
成人式会場には放射線対策のための募金箱も設置されていた。市に寄付されるという
【「もう大丈夫かな…」】
原発事故後、4回目の成人式。被曝回避に努めているという新成人は皆無だった。
「被曝の危険性を全く考えないわけでは無いけれど、それよりも『地元が好き』みたいな。福島のことを悪く言われるのは嫌だけど、こちらが気にしなければ良いだけですからね」(伊達市、女)
「学校の授業でも当時から大丈夫だと先生が言っていたし、一度も心配したことはないですね」(福島市、男)
「初めの頃はマスクをしたりしたけど、これだけ時間も経ったし、もう大丈夫かな」(福島市、女)
「大学進学で東京へ出ました。こうして里帰りすると、モニタリングポストを目にしたりして『まだ原発事故は終わっていないんだな』とは思うけれど、数値が高いとは思いませんね」(福島市、男)
わが子の晴れ姿を撮影しようとカメラを手に会場を訪れた福島市の夫婦は「自宅周辺の放射線量が低いから、被曝の危険性など考えたこともありません」と口を揃えた。「原発事故直後は少し高かったけど今は0.2μSv/h未満ですから。避難する必要もない。でも、世間の人は福島市は汚染されて危険だと思うんでしょうね」と夫は苦笑した。
式典では、福島市の小林香市長が新成人を前に次のように語った。
「命を大切にする街づくりに取り組みたい」
(鈴木博喜/文と写真)<t>