ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

激動の2014年から年が明けた香港

 昨年の香港はまさに激動の1年でした。2か月半に及ぶ「セントラル占拠行動」は世界中の注目を集め、香港の政治、経済、そして社会に大きな影響をもたらしました。今回は新春特別企画として昨年の香港を振り返り、今年の動向を展望します。

昨年、デモが行われていた期間に執筆したコラムは こちら からご覧いただけます。

 

中国の腐敗撲滅で香港経済に打撃

 昨年、香港経済はやや不振の1年でした。世界的に経済が不安定だったことから輸出が伸び悩んだほか、習近平政権が発足して以来、積極的に腐敗撲滅キャンペーンを進めたことが香港経済にマイナスとなりました。

 

 なぜなら中国本土で高価な贈り物やぜいたくな接待が自粛されれば、香港の小売り・飲食・観光市場での消費が減少するからです。いかに派手な消費が汚職などに支えられていたかが分かります。香港では中国本土からの観光客による消費減少が目立ち、観光産業が打撃を受けました。

 この状況は今年も続くと推測されています。

 

2015年の経済的関心は?

 一方で、香港経済の発展として期待できる要素もあります。

 今年は中国政府による広東省自由貿易区の設置(上海自由貿易区に匹敵するもので、広東省、香港、マカオの経済協力を促進し地域全体の競争力強化を図るもの)や、第13次5カ年計画(2016~20年)の策定が始まります。これが今後の香港経済の鍵を握ります。

 

 香港の人民元オフショア市場、建設中の港珠澳大橋(香港--珠海--マカオ)や高速鉄道(広州--深圳--香港)も、すべて第12次5カ年計画(2011~15年)に盛り込まれたものなので、中国政府の強力なサポートによって推進されています。中国政府がどれほど香港を重視し、香港にとっていかに有利な政策が出るかが注目されます。

引き継好き普通選挙問題が懸念

 政治的には今年も「行政長官の普通選挙問題」が香港社会を揺るがすことでしょう。
 日本での報道はおおむね、全国人民代表大会(全人代、中国の国会に相当)常務委員会が昨年8月に決定した選挙方法によって行政長官は中国政府が選出することとなり、普通選挙の承諾が破棄されたことから民主派によるデモに発展したと伝えています。

 ですが、これは単純化され過ぎて大きな誤解を招いています。

img1

 香港基本法は「指名委員会の指名を経た後に普通選挙で行政長官を選出する」ことを目標に掲げており、2007年の全人代常務委の決定によって2017年からの実施が可能となりました。しかし、1国2制度によって資本主義制度を維持することに重点が置かれた指名委員会の構成は、4分の1が地元財界で占められるため、不利とみられる民主派勢力は2013年初めから都市機能のマヒを狙った「セントラル占拠行動」を計画しました。

 

 昨年8月に全人代常務委が「行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要」と決定したのを受け、学生らを動員し各地の道路を不法占拠したのです。香港基本法から逸脱する指名方法(住民指名)などの要求を突き付け、返還後で最大規模のデモに発展、香港の政治・経済状況や市民生活は混乱に陥りました。

 

 指名委員会とは香港人で構成される組織で、中国政府が任命するものではありません。その委員会が行政長官候補を指名することは昨年8月に決まったものではなく基本法に明記されており、普通選挙の実現は反故にされてはいないのです。今回のデモが9月28日に起こって以来、取材をし続けており、自身のブログ「彩り亜細亜地図」でも書いています。

 img3

 昨年12月5日には発起人の戴耀廷・香港大学副教授らが自首をしました。その後は最大規模の占拠地「金鐘」などでデモ隊が強制排除され、実に2か月半に及ぶ長い占拠行動に幕が降りました。

 

 金鐘が強制排除される日の朝、学生団体である香港専上学生連会の周永康・秘書長は「目標は達成していない。必ず民主化実現に向けて抗議行動を起こす」と発言しています。とはいえ彼らが望む普通選挙を実現するのであれば、政府の進めている手段しかないというのが現状なのです。

 

 デモに対し香港市民の大半は冷静な対応をしています。市民の88%は「占拠行動に参加したことはない」という香港大学の世論調査の結果も出ています。現場では「諦めない」「別の形でまた実行する」「我々は香港であり中国でない」と発言する人がいる中で、「今の香港では未来が危ぶまれる。将来的にはここから出たい」と不安を漏らす人もいました。

選挙改悪案の可決なるか

 今、香港政府がすべきことは、3月までに立法会に選挙制度改革案を提出できるように2回目の公開諮問を進めていくことです。1月7日には2回目の公開諮問が始まりました。立法会が休会する7月までに可決にこぎ着けなければいけません。

 

 改革案を提出しても民主派が否決するという姿勢を崩していませんので棚上げになる可能性が極めて高い状況です。それは彼らが自分たちの望む方法でない限りは普通選挙を実現させないと言っているからです。民主派政党にとっては普通選挙が実現してしまうと、今後の選挙で訴えるテーマがなく不利になるという事情があるためとも指摘されています。

 もし立法会で可決されるとしたら、提出前に政府と民主派(またはその一部)が対話し合意が得られた場合や、占拠行動で支持が低下した民主派が今年の区議会選挙や来年の立法会選挙で不利になることを避けるため可決に回るという場合です。

 

 基本法に反する選挙方法(住民指名など)を政府が認めることはありえませんが、いかに指名委員会の委員選出方法が民主化されるかを市民に理解してもらい、立候補のハードルを従来より引き下げることも検討するなどで、民主派も可決に回る可能性があるかもしれません。

 

 また、今後の香港社会の流れも様々な可能性が考えられます。いずれにしても占拠行動が収束したところで終わりではなく、中断していた選挙制度改革が再び動き出したこれからに注目すべきでしょう。

 

(楢橋里彩/文と写真)<t>