【鮫川村焼却炉】バグフィルターの限界、爆発事故による汚染拡散~裁判で見えてきた国の隠蔽体質
福島県鮫川村に設置された放射性廃棄物の仮設焼却炉を巡り、国の隠蔽体質が次々と明らかになってきた。10日に開かれた操業停止に関する第三回審尋でも、国は従来の主張を崩さず、手続きに瑕疵(かし)はないとの姿勢。地元消防ですら認める爆発事故を「破損事故」と過小評価し周辺への汚染拡散もないという。同意文書偽造事件を不起訴処分にした検察官に至っては、検察審査会への申し立てをやめるよう“圧力”ともとれる発言を地権者にしていたことも発覚。共有地権者の堀川宗則さん(59)は「国や村は早く非を認めよ」と怒る。次回審尋は2015年2月13日。
【怪しいバグフィルターの除去能力】
福島地裁郡山支部で開かれた第三回審尋は、この日も10分足らずで終了。双方の主張は平行線のままだ。坂本博之弁護士によると、国側は(1)農地として使っていない遊休地を用途変更していない(2)期間も短く、民法上の「管理行為」にあたり、地権者の過半数の同意があれば良い(3)仮設焼却炉からは周辺を汚染させるような放射性物質は排出されていない─との主張を続けている。これに対し、坂本弁護士は「農地を農地でないものとして貸すのだから、民法上の『処分行為』としてとらえるべきで、地権者全員の同意が必要。過去に判例もない」と反論している。
環境省が「放射性セシウムはバグフィルターで99.9%除去できる」と安全性を主張している点については、岩手県宮古市の医師がまとめた論文を基に、危険性を訴えた。
岩見神経内科医院の岩見億丈医師らが発表した「放射性物質を処理する焼却炉周囲の空間線量率に関する研究」では、セシウムの粒の大きさについて「0.3μm未満の粒子も含めると、バグフィルターの除去能力は80%前後以下である」と結論づけている。また、環境省の資料を分析した結果、鮫川村の仮設焼却炉に関しては「灰中回収率は53%から78%の範囲にある」としている。
堀川さんらは、準備書面の中で「国は敷地内で測定された放射性セシウムの量は極めて少ないと主張しているが、低い測定値が出るような場所を選んだとか、低い測定値が出るような工作がなされているなどの原因が考えられる」と国に反論した。バグフィルターのセシウム除去能力は万能ではない。だからこそ、堀川さんは初めから建設には反対だったのだ。
(左)仮設焼却炉の操業停止など、3つの裁判で闘う鮫川村の堀川宗則さん
(右)10日、郡山市役所内の記者クラブで開かれた記者会見は、総選挙取材で忙しいのか出席した加盟社は皆無だった
【村役場も認めた「空間線量の急上昇」】
昨夏、焼却炉内で起きた灰コンベア爆発事故についても環境省側は「爆発」と認めず、問い詰めると「爆発でないというわけではない。前回の意見書で示した通り」とはぐらかしたという。坂本弁護士は「爆発事故ということになると都合が悪いのだろう。お茶を濁す表現は国の常套手段だが、卑怯だ。原発事故にしても、国は当初『爆発事故』とは言わなかった。こういう横暴を国民が容認してしまっているのも問題。総選挙ではぜひ鉄槌を下して欲しい」と怒りをあらわにした。
「爆発」か「破損」か。
一見、大した違いが無いように思えるが、地元住民にとっては大きな違いがある。目の当たりにした事態と国の説明があまりにもかけ離れているからだ。
「近所には幼い子どもが3人いる家庭がある。高濃度の煙を吸い込んでしまったのではないかと心配です」。仮設焼却炉から約2kmの塙町に住む男性は話す。
事故があったのは2013年8月29日午後2時半ごろ。男性は外出していて、帰宅するまで事故が起きたことを知らなかった。妻宛てに届いたメールで事故を知った男性は翌日、鮫川村役場へ出向き、説明を求めたという。
「地響きがするような大音量が2回あり、煙が上がったそうです。煙は南西方向、つまり私の自宅方向に流れたとの目撃情報も寄せられていました。すぐに説明会を開き農家に謝罪するよう求めましたが無視されました。改めて役場に出向くと、モニタリングポストの数値が急激に上がったのを複数の住民が確認しているとのことでした。しかし、公表される数値は10分間の平均値なので数値の上昇が分からない。汚染が拡散されたのに、です」
事実、山本太郎参議院議員が棚倉消防署鮫川分署から取り寄せた「火災原因判定書」(2013年10月30日付)には「爆発による破損損壊が起きた」「本火災は建物火災である」「消防への通報がなく、マスコミから鮫川分署に問い合わせがあり、村役場に照会後、覚知したもので事後聞知事案である」などと明記されている。
(左)支援団体は村民の関心を高めようと、2回にわたり焼却炉の問題をまとめたチラシを新聞折り込みで配布した
(右)山本太郎参院議員が地元消防から取り寄せた報告書には「爆発」「建物火災」と明記されている。しかし、国側は「爆発」とは認めない
【検察官の暴言「検察審査会なんか無駄」】
「検察審査会に申し立てなんかしたって無駄ですよ」
堀川さんを聴取した検察官は、不起訴処分を下すにあたってとんでもない言葉を発していたという。
仮設焼却炉建設の同意署名と捺印を偽造されたとして、有印私文書偽造罪で被疑者不詳のまま起こした刑事告訴。受理までに棚倉署で再三にわたって取り下げを求められた挙げ句、郡山地検は不起訴処分。堀川さんは処分を不服として今月1日、郡山検察審査会に審査を申し立てた。堀川さん本人が「同意も署名も捺印もしていない」と主張しているにもかかわらず、「不同意も署名・捺印の偽造も立証できない」とされたのだから当然だ。そればかりか、検察官が「検察官が不起訴にしたものを、検察審査会で起訴に持ち込むことは現実として困難だ」と言い放った。坂本弁護士は「検察審査会での結論が出るまでには数カ月かかるだろう。同意文書の偽造は仮設焼却炉の操業差し止めにも関わる問題だが、仮に起訴相当との結論が出なかったとしても問題ない」との見方だ。
もう一つ、鮫川村の大楽勝弘村長が地権者の同意を得ることなく共有地内に搬入路などを建設したのは「不動産侵奪罪」に当たるとしている問題。郵送での告訴状は受理できないとされたため、今月2日に改めて坂本弁護士が棚倉署に持参して提出。現在、受理するか否か署内で協議中という。
3つの裁判で闘っている堀川さん。「やっていることは犯罪行為なのに、時間稼ぎは納得できない。早く国も村も非を認めて欲しい。やっぱりテッペン(村長)が変わらないと駄目なのかな」と話した。「特に周囲からの圧力は感じない」と話すが、人口3850人の小さな村で国や村に反旗を翻すのは容易なことではあるまい。司法の賢明な判断が求められる。
(鈴木博喜/文と写真)<t>