デフレ脱却しても生活は豊かにならない安倍首相の詭弁
選挙戦序盤を振り返り、安倍晋三首相の発言で指摘しておきたいことが2点。
まずは「企業が競争力を強くし、収益を高めていく。そうすれば雇用は改善し、給料が増える。消費は増え、景気が回復してく」とここまでは誰もが望むところだろう。
しかしである。「これを繰り返せば、デフレから脱却し、経済が成長し、生活が豊かになる。デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と言うのは、はたしてそうか。
この発言を逆から読んで欲しい。デフレ脱却が経済の成長を意味し、生活が豊かになるとの論法だが、決してそうではない。
安倍首相がこの選挙で最大の争点に掲げる「アベノミクス」は、日銀に大量の札束を刷らせて市中にバラマキいたが、企業は国内の設備投資に二の足を踏み、そのカネを海外の設備投資に回すか、あるいは株式市場に流し込み、為替市場の円安と相俟って数字の上では企業業績を押し上げ、外形上は景気回復の兆しを見せてはいる。
しかしながら、アベノミクスの成長戦略は人の健康に例えると、図体は大きくなっても脂肪や贅肉が増えただけの、言わば「メタボノミクス」なのだ。いずれ日本経済全体を蝕み、死期を早めてしまうことにもなりかねない。
さらに言えば、アベノミクスの経済成長戦略はバブル経済と小泉構造改革をごちゃ混ぜにしたもので、その結果、経済規模は膨らんだものの格差拡大を招いたことは周知の事実。たとえて言えば、博打の胴元が儲かる仕組みなのだ。誰かが儲かれば、それ以上に多くの人が損をする政策、損をする人が一定数いなければ成り立たない政策。儲かったカネが国民の全体に還元すれば、まだしも胴元が無駄遣いすれば、消費税がその穴埋めに使われることは過去の為政者の振る舞いを見れば明らか。是非そのことを覚悟した上で、国民有権者には一票の重みを感じて頂きたいものだ。
そしてもう一点は、日本記者クラブでの発言。
自民党の荻生田光一筆頭副幹事長名がテレビ各局に対して圧力文書を送付した件について、安倍首相は放送法にある公正中立を持ち出し、政府与党のメディアへ介入を正当化するのである。
戦後、日本のテレビ局開設の経緯を振り返れば、米軍占領下からの限られた電波の割り当て、与野党伯仲を背景にした放送法成立にいたる議論があり、高度経済成長期を経て今日に至るメディアの多様化、放送と通信の融合などに目を向ければ、報道の客観性を担保するものは法律の字面、文言ではなく社会の有り様により変貌する社会通念、視聴者国民の良識によってある程度の枠に収まるものなのです。
もとより放送法に謳われている報道の中立性、客観性をどう担保するかは悩ましいところで、読者視聴者の信頼が揺らぎつつある現状を謙虚に受け止める必要はあろう。ただ、何よりジャーナリズムは国家権力の行使をチェックする機能こそが優先されるべきものであること。安倍首相にとやかく言われる筋合いではない。
(藤本順一)<t>
写真:首相官邸HPより