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自民党の選挙報道に関する圧力文書、“良くあること”とは?

 安倍・自民党が選挙報道に関する圧力文書を、全国ネットを持つ在京テレビ5局に出していた問題は活字マスコミが後追い報道、文書を出した自民党、受け取ったテレビ局双方ともNHKを除き、授受を認めた。

 しかし毎日新聞、共同通信などの取材に対しテレビ局側は“この種の文書は良くある”で、“これまでも自民党だけでなく各党からもあった(決して特別なことではない)”などと信じられないような答えだったという。

 在京テレビ局は実質的に大手新聞との系列下にある。

 この事件は記者クラブ・メディアと政治権力との関係の一端を露呈、また今更ではあるが、「報道の自由」の理念の軽視など日本のマスコミの問題点が浮き彫りになった。

 一過性にしてはならないので、要点を記す。

 

1)先ず、この圧力文書報道は、「NOBORDER」社のインターネット番組「ニューズ・オプエド」(上杉隆アンカー)の特ダネである。

 欧米各社の場合、最初は「A社の報道によると……、」などと報道の切っ掛けとなった情報源(クレジット)を明記して報じる、“モラル”がある。

 しかし、日本の大手活字メディアは慌てるように後追い取材しながら、きちんと“NOBORDER”なり“ニューズ・オプエド”の特ダネであるとか、情報源だ、と報じたところは一社もない。

 

2)あたかも台風か何かのように、自分たちに不都合なものは無視するかのような、横柄な対応。

 こうした体質が、原発の危険性や放射能被害など都合の悪い事実の隠ぺいや、小沢一郎氏ら既得権体制を批判者への検察意図的捜査事件の歪曲報道に繋がっている。

 

3)この圧力文書は明かに放送法に反するだけでなく、“民主主義社会に不可欠の権力監視というメディアの役割”の軽視であり「報道の自由」、関わる大問題だが、テレビ局側にはその自覚が薄いようだ。

 テレビ東京の高橋雄一社長は、定例記者会見で文書の授受を認めて、“こうしたことはこれまでも選挙のたびに、各党がやっていた”というようなことを当たり前のように語ったという。

 であるならば、会見に出席した記者たちは、“具体的に何時、どの党が?”と問うべきであったろう。

 そうした圧力文書を出したこともなければ、口頭で頼んだことも無い政党の名誉を間接的ながら傷つけることになるからだ。

 また、今後はどう対応するのか、今後の姿勢を追求べきだった。

 

4)圧力文書を“いつもの事”視して、事の重大性を認識しないのも問題だが、より深刻な問題なのはNHKの対応で、“文書が来ているかどうかを含め(個々の問いには)答えられない”など木で鼻をくくったような、人を馬鹿にした一言で、事実の有無を一切言わなかったことだ。“公共放送として欠かせない誠実さ”が全く見られない。

 

5)それ以上に問題なのは、公共放送として“政治権力との放送局との関係”を厳しく自覚していない体質になっていることだ。政府のいうことを忠実に報道するのが第一と考える籾井会長体制になって体質が一層悪化したのだろうと推察する。

 

6)テレビ局は限られた公共の資源である電波を割り当てられ営業している。広告収入で成り立つ民間(商業)放送と言っても、公共性の強い機関である。政治権力との関係については当然、説明責任が生じる。

 

 NHKは何と言っても視聴者からの受信料(税金のようなものと考える人々が多い)で成り立っている公共放送である。説明責任は民放以上に求められる。

 

 まして政治的に公平である(放送法3条)公共放送であり、政治権力との関係については情報公開が厳しく求められる。それを平然と無視し、“お答えできない”とは事の重大性を全く分かっていない。

 

 NHKは、選挙報道は“正確な取材と公正な判断によって自主的に行う”という放送ガイドラインを決めている、と言うが具体性がなく、抽象的で意味をなさない。

 

 読者には、NHKの選挙報道を必ず距離を持って視聴して貰い、報道の裏を考える習慣を身につけてもらいたい。

 

7)NHKは“圧力文書の事実に口をつぐんだまま一方で“各党が事実上の選挙戦に突入”などと報道している。でありながら、安倍政権になって“日本の政治がどう変質しつつあるか”の肝心な問題を一切報道していない。

 

 安倍政権になって特定秘密保護法、集団的自衛権の閣議容認、など民主主義と憲法の根幹に関わる大問題が以前としてある。

 

 また、福島第一原発の事故も収束とは程遠い実情、どう見ても放射能被害としか考えられない病死者、甲状腺異常、内臓疾患異常に苦しむ人たちの増大…。

“放射能被害とは関係ない”などと言う誤魔化し報道が平然と続く?

 

 今回の解散・総選挙で安倍氏は、経済・金融政策アベノミクスの成果を問う、と明言した。アベノミクスには幾つもの問題が噴出している。

 それならばマスコミはアベノミクスの結果を一つ一つ検証するべきだろう

*貧困に喘ぐ人々の生活はどうなっている?

*女性が輝く時代などと言うが、女性の貧困率は改善されたのか?

*地方創生などと突然言い出したが、これまで地方の貧困化を何故無視してきたのか?

*既に300兆円の内部留保がある大企業の優遇政策を推進し、何故中小企業を後回しにしたのか?

*消費税率引き上げで輸出還付金を受け、更に利益を得たのは大量輸出をする大企業。何故、その下請けの中小企業にも公平に還付しないのか?

*“アベノミクスは道半ば(今後に御期待)“等と言っている間に 生活苦や将来に希望を失い自殺した人が何人もいる。経済は人々の救済が原点、安倍氏は考えたことはあるのか?

*育ち盛りで空腹に苦しむ子供たちが大勢いるのを安倍氏たちは承知しているのか?

 

 少し考えるだけで幾つもの深刻な問題が浮かんでくる。マスコミ各社は何と言っても大勢の人材を擁している。選挙戦報道であれば、日々の政局報道や誰がどうしたこうしたなどの目先の動きを追うのでなく、今日本社会が抱える諸問題を一つ一つ、それこそ丁寧に取材、報道するべきだろう。

 これに各党がどう対応するか、それを有権者がどう判断するか、そうした報道こそ、社会の実情を正確に把握し伝えるのが、公正な報道になるのではないか?

 

 今回明かになった問題を一過性にしてはならない。

 マスコミが安倍政権に都合の悪い社会の諸問題をどこまで伝えるか、皆さんで監視するのをお薦めする。

 

(大貫康雄)

写真:ニューズ・オプエドより