ますますひどくなる官報複合体による情報隠蔽
恐ろしいのは、本来は情報公開に積極的であるべきマスメディア自身が、情報隠蔽を繰り返していることを、ほとんど国民が知らないばかりか、民主党の政治家たち、さらには政治部記者自身も気づいていないことだ。
政治部記者の鈍感さについては、前出(政権奪取以降の民主党情報公開「逆行」の歴史)で元朝日新聞政治部幹部の言葉がすべてを表しているのでおいておこう。問題は、自ら情報公開を謳いながら、閉ざされた空間(記者クラブ主催の公開討論会)で議論をしている、おめでたい民主党の政治家たちだ。
党員資格停止中の鳩山由紀夫元首相に、野田民主党の現状を伝えると、「それは、申し訳なかった」と詫びた。
だが、鳩山元首相が詫びる必要はない。首相時代、側近の平野官房長官に騙されたという脇の甘さもあり、時間はかかったものの、きちんと約束を守り、戦後初めて内閣総理大臣会見をオープンにした実績もあるのだから。
問題は、民主党代表選に出馬している候補者たちだ。
野田首相は財務相時代から一貫して情報公開に逆行し、自民党政権以下の対応に終始してきた。今回も自由報道協会への対応で明らかなように、最初からネットやフリーの存在を無視している。
鹿野、赤松両氏もその大臣時代、結局ただの一度も会見をオープンにすることはなかった。
唯一の例外は原口氏である。
「原口君は情報公開にとても積極的だったよね」(鳩山元首相)
鳩山元首相の言う通り、憲政史上もっとも情報公開の進んだあの鳩山政権の中にあって、原口氏はもっとも情報公開を徹底させた政治家である。
原口総務相(当時)は、それまで誰一人できないどころか、口にすらできなかった「クロスオーナーシップの解除」「新聞再販制度の見直し」「帯域オークションの実現」「記者クラブ解体」を宣言し、その実現のために行動していた総務大臣(所管)であった。
だが、その中途、鳩山元首相の辞任によって原口大臣による言論空間改革の「着地」は阻まれた。その代わりにやってきたのが既存メディアによる原口バッシングと、信用低下を招くような報道の連発だった。
鳩山元首相が筆者に向けた「お詫び」の中には、話題にしていたこの原口氏の努力に向けられたものも含まれているに違いない。
実際、今回の代表選でも、もっとも野党時代の健全な頃の民主党の政策に近い原口氏にはアンフェアな攻撃が続いている。
だが、それでも、いまなお原口陣営は、情報公開と国民の知る権利のために、卑怯な記者クラブシステムに対して異議を申し立て続けている。
「社団法人・自由報道協会での討論・会見は約束します。他の候補、陣営にも言っておきますよ。民主党代表選の議論はより多くの人に知ってもらった方がいいですからね」
川内氏はこう答える。
3.11以降、日本の官報複合体による情報隠蔽はますますひどくなっている。それはIPPNW(ノーベル賞受賞団体)などの国際的な団体や海外メディアからの批判でも明らかだ。
しかし、その状況に気付いている民主党の政治家は、原口陣営に見られるだけで、ほとんど存在しない。
3.11以降の原発政策や被曝対応で、スピーディの公開や子どもと女性の被爆リスクの軽減を訴え続けてきた川内氏も、放射能の環境リスクの問題点を追求してきた小沢鋭仁元環境大臣もともに原口陣営にいる。
今回、筆者は、96年の旧党結党以来はじめて民主党代表選の取材(参加)を行わないことを決めている。それは、明確に、情報公開に逆行し、言論空間を不健全にしてきた民主党に対する抗議の意味である。
しかし、元民主党議員秘書としては、評価はできる。
そして、その結論は、いわずもがなだが、国内ではなく、世界的に唯一まとまな評価を受けている元総務大臣しかないのである。
哀しいかな、これが民主党代表選挙の現実だ。
(上杉隆)
※この記事は「ダイヤモンド・オンライン 週刊上杉隆(2012年9月13日)」を再掲載したものです。
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