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我々はかって、よそ者だった We were strangers once

We were strangers once (われわれはかって、よそ者だった)

 

 これは第44代アメリカ大統領バラク・オバマの言葉です。

 2014年11月20日、移民法に関して国民への演説の中で繰り返された言葉です。リンカーンやキング牧師などの気取った金言・格言にくらべ、ずっと暖かく、ジ~ンときます。オバマは、「我々はよそ者を疎外してはいけない。我々はよそ者の気持ちをよく知っている。我々もまた、かってはよそ者だったじゃないか。アメリカの仲間たち、我々は移民の国民であり、これからも移民国民なんだ」と、語り続けました。

 頼むよ!オバマ!!

 

【黒人少年銃殺に大陪審が不起訴】

 2014年8月9日、アメリカ中西部のミズーリ州セントルイス郡ファーガソンで、丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン(18)が両手を上げたにもかかわらず白人警察官ダレン・ウィルソンに射殺された。

 黒人アメリカ司法長官エリック・ホルダーは事件直後に現地入りし、事件の法的解決を約束した。そして、事件当日にコンビニエンスストアでの窃盗現場を記録した防犯カメラ映像の存在を知り、ファーガソン警察に紛らわしい映像の公開をしないよう要請。しかし、ファーガソン警察署は15日に司法省を無視して、防犯カメラ映像の公開をした。

 ジャーナリストや識者たちは、「ブラウンがあたかも窃盗犯であったかのような印象を与えるため、警察は意識的に公開した」と、批難した。

 15日の夜、ファーガソンでは警官が抗議デモの群衆に催涙ガスを噴射し、暴動が勃発。それ以降、商店への襲撃が続いた。

 9月25日、黒人アメリカ司法長官エリック・ホルダーは、公式晩餐会が行われるホワイトハウス大食堂で、涙の辞任劇を演じた。

 誰もが、ファーガソン事件はどうなるのか心配した。が、「数か月後には、私は司法省を去ります。しかし、私は絶対に、絶対に、天職をほり出すことはしません」と言う、エリック・ホルダーの言葉を信じるしかなかった。

 

【不起訴に抗議デモ】

 そして、2014年11月24日、セントルイス郡の検察が、「ミズーリ州の大陪審は警官を不起訴とする判断をした」と、発表した。

 CNNは、「大陪審は物証や目撃者の証言について検討し、2日間かけて評議した結果、ウィルソン警察官が車内にいる間に2発の発砲があり、逃げたブラウンさんをウィルソン警察官が追いかけて、ブラウンさんがウィルソン警察官の方に向き直ったところでウィルソン警察官がさらに数発を撃ってブラウンさんを射殺したと認定した」と、報道した。

 11月24日夕方、ホワイトハウスのプレスルームで、黒人アメリカ大統領が不起訴に関する記者表明をした。「数分前に大陪審がマイケル・ブラウンの死亡に関して(犯人)の不起訴を決めた。(この決定に)賛同できない思いが、ファーガソンのみならず全米に広がってきた。ここで私は、いかにして我々が前向きに考察していけばいいのか、短い示唆を述べてみたい。我々は、ファーガソンで広言されている状況が全米的なものだということを、再認識しなければならない。実際のところ、アメリカの大部分では相変わらず、法的強制力とカラーピープルの間で根深い溝が存在している。ある種の騒動は、明らかに人種差別がもたらした結果だ。

 そんな中で良いニュースは、我々に努力できる余地が存在するということだ。ホルダー司法長官が、地域住民と法的強制力の摩擦を建設的なものに改善するため、国中の街を駆け巡っている。」と、オバマは怒る国民に語りかけた。

「いや~、連邦政府にできることといえば、Civil Suit (民事訴訟)を起こすことぐらいだと思うよ。これの前に起こった黒人少年射殺事件でも、犯人は結局無罪放免さ」と、親友の黒人シンガー・アレックスは、黒人大統領訴訟チームに期待していない。

【「トライボン・マーティンは私だった」オバマ】

 黒人シンガー・アレックスの言う黒人少年射殺事件は、2013年2月26日夜、アメリカ・フロリダ州オーランド郊外にあるサンフォードという名の住宅地で起こった。

 ゲーテイッド・コミュニテイ―と呼ばれる囲いのある住宅地で、射殺犯のジマーマン(27)は銃を携帯し自警団長をボランテイアでやっていた。

 小雨降るこの夜、車で巡回していたジマーマンはグレーのフード付きトレーナーを着た少年が住宅地内の歩道を歩いているのに出会い、911通報を警察にした。

 警察は「追跡するな」とジマーマンに命じたがジマーマンは無視し、追い詰めた少年と小競り合いになり射殺した。

 警察はフロリダ州法<Stand Your Groundスタンド・ユア・グラウンド(その場にいる権利のある者は銃を発射する以前にその場を退く必要なし)>に基づいて、ジマーマンの正当防衛を認め、逮捕も拘留もしなかった。

 勿論、ゲーテイッド・コミュニテイ―の自警団と警察は常に連携している。

 3月下旬になると、射殺されたトライボン・マーティンの両親と市民団体による、警察の差別的な対応への抗議運動が全米に広がっていった。

 「自分に男の子がいたらマーティンのようだったろうね。」とオバマが発言した。4月11日、フロリダ司法省は<第二級殺人容疑>でジマーマンを起訴した。

 2013年7月13日、フロリダ第18巡回法廷の陪審員はジマーマンの正当防衛を認め、無罪判決を下した。6人の陪審員の内、5人は白人女性だった。

「もし、この判決に納得できないのなら、この類の法律を再検証しなければならない。エリック・ホルダー司法長官は、そこでなにが起こったかを再検証している」と、オバマは淡々と語った。

 「黒人の少年たちに、アメリカは彼らのことを気にかけているし彼らを誇りに思っている、と伝えたい。そして、彼らに賭けているんだということを知ってほしい」と、黒人大統領は強調した。

 <スタンド・ユア・グラウンド>法はフロリダ州で2005年から施行されている。 以来、正当防衛と拡大解釈されたこの法律の影で、多くの黒人が射殺され犬死してきた。 現在、アメリカの半分以上の州でこの法律が適用されている。

 銃乱射事件が続発するのを阻止しようと、オバマは銃規制法案を米上院に提出したが、否決された。 <スタンド・ユア・グラウンド>法と<武器を所有し携帯する権利(合衆国憲法補正第二条)>という連邦法を盾にとって、NRA全米ライフル協会のロビー団体が猛反対したからだ。

 

【We were strangers , once】

 そして、黒人少年射殺犯人が無罪になって約1年後、同じように丸腰の黒人青年が射殺された。さらに今回の殺人犯人は起訴もされなかったのである。

 不起訴判決が出た2014年11月24日から抗議デモがアメリカ全土170都市に広がり、ロンドンでも5,000人が抗議の声を上げた。

 しかし、2014年11月27日(11月の第4木曜日)、感謝祭がやってきたのだ。

 アメリカの街々には派手なパレードがくりだされ、大雪もなんのその、帰省客や旅行者で空港も道路も超満員の大混雑、家族や親戚が一堂に会して七面鳥料理を楽しむ。感謝祭の翌日金曜はブラックフライデイーと称して、スーパーなどに買い物客が殺到し、クリスマス商戦が開始する。

 黒人青年を射殺した白人警官が不起訴になったことに反発するデモも、感謝祭休日になってしまったようだ。それでも怒りのデモは散発的に続き、スーパーの中で不起訴反対のシュプレヒコールが響いていた。

「司法大臣がなんとかしてくれるから…、」と、怒る黒人をなだめた黒人アメリカ大統領オバマも、ホワイトハウスで恒例の<七面鳥への大統領恩赦>儀式に参列した。

 恩赦に与ったのは、オハイオ出身のマックとチーズと名乗るオス七面鳥。まだ5ヶ月の分際なのに、25キロもあるデブ。2匹は豪華なホテルにお泊りして、殺されることのない余生を送るため、故郷の農園に戻されたとか。慈悲深い黒人アメリカ大統領殿、黒人青年を殺した白人警官に恩赦など与えないで欲しい。

 

 さて、七面鳥恩赦演説の中で、黒人アメリカ大統領オバマは感謝祭の由来を口にしませんでした。代わって、日本人のよそ者がおおそれながら申しあげます。

 1621年、アメリカにきたイギリス人移民がインデイアン地元住民のおかげで最初の収穫に成功し、地元住民に感謝して収穫した素材による晩餐に招いたとか…。その感謝の念に由来して、感謝祭が行われてきたそうです。

 

まさに、「We were strangers, once」なんですネ…。

 

(平田伊都子/文と写真提供)