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オランダの元国防相・西欧同盟事務局長、日本の右傾化を懸念して助言

 ヴィレム・ファン・エーケレン(Dr. Willem F. van Eekelen)博士(80歳)はNATO勤務後、オランダの国防相や西欧同盟事務総長を歴任した安全保障の専門家。このほど講演のため来日したのを機会に記者会見に応じた。

 この席で博士は「彼(てき)を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の兵法の名言を引きながら、“平和と安全保障を確固たるものにするために日本は独りよがりにならず各国を理解し和解と交流活動を持続して進めるべき”と助言。

 また日本の健全な発展には“(中身の無い空虚な)スローガンを乱用するのでなく、現実・実態を踏まえて考え行動するべき”、などと以下のように助言と警告をした。

 

 博士は、夫人の両親はインドネシアで旧日本軍の捕虜として3年間収容所に入れられた過酷な体験を持ち、また博士の父親はナチス・ドイツ下で辛い時代を過ごした、という。

 当然以前は日本やドイツに悪い感情を抱いていた。

 しかし日本政府が数年前から続ける和解と交流の事業に、夫人も日本の印象を改善。共に来日したことを述べ、“日本政府が旧日本軍の犠牲者・被害者や家族との間に和解・交流事業”を続けるのは友好を促進し、被害者・犠牲者心を癒すために良い試みだ、と評価した。

 

 一方博士は、慰安婦(性の奴隷)とされた被害者の問題で、日本が慰安婦を強制した事実を否定すれば否定するほど、国際社会で被害者・元慰安婦に同情が集まるだけだ。日本にとって良いことは何もない、と警告した。

(所謂、元慰安婦は韓国、中国だけではなくフィリピン、インドネシア、オランダにもいる)

 

 博士はドイツのガウク大統領の言葉「ドイツは何度も謝罪しているが、謝罪し過ぎるということはない。これで謝罪が充分だと言うことは無い。被害者が心底評価し納得するまで謝るべきなのだ」を紹介し、謝罪が如何に相手の胸に届き、力となるかの例を出した。

(ドイツが今、ヨーロッパで最も信頼を得、影響力のある国となっているのは、こうした徹底した努力の積み重ねの上の結果である)

 

 その上で博士は、日本はオランダの被害者に対して和解の努力を進めている。どうして同じように韓国や中国の被害者に対し和解と交流を進めようとしないのだ!?(即刻始めるべきだ)

(日本軍が各国を侵略し多くの国民を途端の苦しみに陥れたのは否定しようがない事実であるのは自明のこと)歴史を真摯に直視してこそ日本にとってもよい良き未来が開けるのだ、と助言した。

 

 また安全保障の観点から日本の国家主義の台頭、右傾化に間接的に懸念を示し、安倍政権に自制を促すように、2点を指摘した。

 

1.民主主義は単なる多数決ではない。“少数者を尊重するのが、真の民主主義”だ。

(安倍政権の一方的ともいえる法案審議は“多数の横暴の典型”であり、それに加えて政権寄り報道に終始し、少数意見をとかく軽視するマスメディアの惨状を考える)

 

2.法の支配とは万人に等しく普遍的に受け入れられるものである。政府が法律を恣意的に制定し、適用・行使するのは法の支配、ではない。

(安倍政権が“法治国家”などと言って、特定秘密保護法など基本的人権を侵害する法律を強行制定し、憲法を無視して集団的自衛権の行使容認などを進めてきたのを想起。法の内容からして全く民主的ではない。またこの法は恣意的、意図的に行使できる点が更に問題)

 

 更に博士は、“責任を伴わない自由は無意味(無責任)”とも指摘した。

(安倍政権関係者の歴史を歪めたり人権を損なうような暴言の数々を想い出すと、日本にとって如何に有害であるかが判る)

 

 博士は現在、防衛と安全保障に関しヨーロッパの役割を推進する汎ヨーロッパ・ネットワークのオランダ代表を務める。

 話からも判るように、軍事・安全保障分野で今も活動する専門家だ。欧米では当たり前だが、人権を擁護する確固たる民主主義者であり、国家主義者などでは全くない。

 平和と安全保障に戦闘機やミサイルなどを装備すれば良い、という単純なものではない。

 

 独仏和解を軸に“共通の空間・規則で協力と競争を推進するEU“が確固たるものになり独仏間の戦争は考えられなくなった。各国の人々が自由に行き来し交流する空間が出来、これほどまでに成立発展し平和と安定を齎らしたのは奇跡に近い、と振りかえり、EUのような共同体の構築を日本や東アジア各国が考える価値があることを示唆した。

 

(大貫康雄/文と写真提供)