ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

NHKニュース、何故「景気後退」と報じないのか?!

 安倍首相が解散を表明し総選挙へ。12月14日投票の見通しとなった。改めて読者に是非とも注意を喚起したい。NHK報道を素直に受け取らず、“報道の背後にあるもの”を考える習慣を身につけて、投票に行って貰いたい。

 

 何故なら、NHK報道が籾井会長就任以来、“政府広報化”したと言われて久しいが、連日の「解散・総選挙」報道は一層偏向報道となった感があるからだ。

日が明ければ、政府は…、与党は…、と自民党と公明党の役職者の言動を続け、それからようやく野党。政府・与党の動きを長々と詳しく伝える。

 18日(火)夜9時のニュースでも安倍首相記者会見の内容を伝えた後、更に安倍氏自身を中継で出演させ、長々と言い分を聞いた。本質的な質問はなく、安倍氏の宣伝でしかなかった。

 生活の党や社民党の言動を報じるのは申し訳程度。全く報じない日も多い。これでは生活の党や社民党を知らない、という大学生が増えるのも当然だ。

 

 公共放送が厳守するべき(特に政治報道の)“公正中立”の原則など全く無視、まさに中国国営CCTVやプーチン氏の宣伝機関と化したロシア国営RTRも顔負けだ。

 

 安倍氏が言う民主主義の価値観を同じくする西側各国の放送局は大統領や首相の発言や政府の政策を報道する際は、政府・与党の言動は基本的に報じない。報じても極短い。直ぐに野党の見解や反応を報じるのが常識だ。

 しかし日本では公共放送NHKまで政府広報機関になってしまい、民主主義国家とは言えないような報道が日常化している。視聴者も慣れてしまったか、“オカシイ”と思う人が少なくなった感がある。まさに安倍政権の思うつぼだ。

 

 「日本経済、7~9月期の成長率が二期連続でマイナスに」の報道は世界も驚いた。

 素人目に見ても、これは明かに“景気後退”、英語で言えばrecessionであり、“アベノミクスの失敗”だ。当然、米CNN、英BBCはじめ欧米メディアは一斉に“日本経済景気後退”と報じ、世界経済への見通しを述べている。当たり前のことだが。

 

 公正中立の原則無視以上に驚いたのは、NHKニュースが、「景気後退」とか“アベノミクス失敗“と言わないことだ。17日(月)夜7時のニュースで経済担当記者は「アベノミクスが道半ば」などと表現し9時のニュースに経済部長が出演して解説していたが、彼も”景気後退“と一言も言わない。せめて”景気後退の局面に入りつつある“とでも何故言わないのか!?

 

 これまでNHKは安倍政権の“アベノミクスで日本経済復活”、“第一の矢の効果は…、”などと“成果”を根拠もないまま報じてきた。大企業従業員の基本給引き上げとかボーナス増、デパートの売上増など、国民全体のごく一部の現象でしかなく、また長続きしない現象を大げさに報じ、景気が上向くかの幻想を振りまいてきた。

 

 一方、安倍氏がウォール街で「日本経済復活」を言い、日本への投資を呼びかけた、などと報じても、各国の経済メディアは客観的に別の見方をしている。当然だが日本の翼賛報道とは異なる。

 

 しかし実体経済は嘘をつかない。既に十年以上国民多数の所得水準、生活水準が低下している処に、年金給付や生活保護支給水準の切り下げ、所得税増税、健康保険料引き上げ…、と一般の人々の懐が厳しくなっているのに“円安”政策で追い打ちをかけられる。

 生活必需品目の大半が輸入依存となった日本社会、消費者物価が上がり、更に生活が厳しくなるのは中学生でも判るだろう。

 

 そんな状況下で株価が上がった処で巨額の投資家や企業には良くても、一般国民の生活に何の恩恵もないのは当然だ。人々は余計な消費を控え、生活を防衛するのに必死だ。

 

 そうした分析を殆ど報じないまま、安倍政権の言うままに楽観論を繰り返した処で実態経済は回復しない。消費が日本経済の60%を占めるのだから、消費が伸びなければ景気は回復しない。経済担当記者ならば理解しているはずだ。

 

 安倍政権が推進してきたのが“トリクルダウン(おこぼれ効果)”の経済・金融政策であること、つまり大量の株式を保有する一部大企業、富裕層が高収入を得、それが消費や再投資に回って景気が循環し、一般の国民にもおこぼれが行く、という論理。これで消費が伸びる筈はない。

 安倍政権では誠に人を食った経済理論だが、そんなインチキ理論を平然と展開する経済学者が跋扈してきた。

 日銀は大量に紙幣を印刷し、国債を大量に買い取り、資金を金融市場に溢れさせた。国民多数が苦しんでいるのに、生活水準の向上でなく物価水準を上げるのが目的で、中央銀行の役割を基本から誤っている。

 

 その結果、国民の中には貧困に喘ぎ、子供に満足な食事も与えられない人たちが増えている。日銀の黒田総裁は何の痛みも感じないのだろうか!?

 

 民放各局、新聞各紙の報道はさておき、こうした人たちの実態を詳しく報じ、警告を鳴らしてこそ、公共放送の存在理由があることをNHK職員は認識すべきだろう。

 

 NHK報道の一つの救いは先月「クローズアップ現代」が、今年亡くなられた経済学者、宇沢弘文博士の業績を偲んだことだ。

 番組で紹介した「誤った経済政策の被害者」という宇沢弘文博士の言葉を読者にも贈りたい。この言葉を胸に刻んで、選挙に臨むことをお薦めする。

 

(大貫康雄)

PHOTO by Rs1421 (Own work) [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons