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国連制裁と国際制裁の得手勝手 〜イラク戦争とオーストラリアG20に見る

 2014年11月13日、ロシアのプーチン大統領は、オーストラリアで開催のG20首脳会議出発を前にして、タス通信の取材に応じました。

 「ウクライナ問題に絡む対ロシア経済制裁は国際法に違反し、世界貿易機関(WTO)の精神やG20という経済サミットの意義にも反する」と、ロシア虐めを企むG20の欧米首脳に、牽制球を投げました。

 そしてプーチンは、意地悪な虐め首脳たちが手もみをして待ち構えているオーストラリアのブリスベンへ、雄々しく突っ込んで行ったのです。

 G20経済サミットには、中国、ロシア、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリア、日本、アルゼンチン、 オーストラリア、ブラジル、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、 サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、の20か国と欧州連合や欧州中央銀行が参加して、11月14日から16日まで開催されました。ロシアが科せられている経済制裁は国際連合によるものではなく、欧米による国際制裁です。

 ロシアとイラクの事例で、<制裁>という虐め問題を考えてみたいと思います。

 

*国連制裁とは? 国連憲章6章、7章

 国際連合憲章6章<平和的解決>によると、「いかなる紛争でもその当事者は、まず第一に平和的手段による解決を求めなければならない」としている。

 そして、平和的解決が困難だと国際連合安全保障理事会が判断した時、憲章7章が検討される。(以下、国際連合は国連、安全保障理事会は安保理と表記する)

 第7章 <平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動>によると、「国連安保理は、平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為の存在を決定し、勧告を行うとともに、非軍事的強制措置・軍事的強制措置をとるかを決定することができる」(第39条)と、表記されている。

 非軍事的措置は、第41条で説明されており、代表例として経済制裁を取り上げている。 軍事的措置は、第42条が扱っており、代表例は武力制裁である。

 

*国連制裁の犠牲になった国々、かっての日本は?

 軍事的強制措置の事例をイラク戦争に見てみる。

 イラク制裁に対する制裁理由は、大量破壊兵器の保持だった。

 2003年3月20日、大量破壊兵器の保有や国連査察への非協力等を理由に、米国を中心とする有志連合によるイラク攻撃を開始。同年5月1日には、ジョージ・W・ブッシュ政権は「戦闘終結宣言」を発表した。こうした情勢の変化を受けて、5月22日、安保理はS/RES/1483を採択して、包括的な武器禁輸措置を解除した。しかし、イラク情勢は引き続き国際の平和と安全に対する脅威を構成するとして、資産凍結など新たな措置を発動した。 そして今も、イラクに対する制裁は続いているのだ。

 しかし、イラクに大量破壊兵器はなかった。 元イラク大統領は絞殺され、100万に近いイラク国民が殺され、イラク全土が破壊され、未だにアメリカは理由を作ってイラクで戦争を続けている。 平和を破壊し侵略行為をする、アメリカとその有志連合は、国連憲章第7章を明らかに犯している。彼らは、世界中に戦火をまき散らし有罪なのに、国連制裁を受けない。

 一方、無罪にも拘らず国連制裁を受けたイラク大統領やイラク国民は、どこに訴えればいいのだろうか?

 

国連安保理決議に基づく制裁の犠牲国一覧表:2013年3月28日現在

   犠牲国名  国連制裁決議 実施開始時期

 1 イラク   S/RES/661 1990-継続中

 2 ソマリア  S/RES/733 1992-継続中

 3(タリバン) S/RES/1267 1999-継続中

 4 リベリア  S/RES/1343 2001-継続中

 5 RDコンゴ S/RES/1493 2003-継続中

 6 スーダン  S/RES/1556 2004-継続中

 7 象牙海岸国 S/RES/1572 2004-継続中

 8 シリア   S/RES/1636 2005-継続中

 9 レバノン  S/RES/1701 2006-継続中

10 北朝鮮   S/RES/1718 2006-継続中

11 イラン   S/RES/1737 2006-継続中

12 エリトリア S/RES/1907 2009-継続中

13 リビア   S/RES/1970 2011-継続中

14 ギニアビサウS/RES/2048 2012-継続中

 

 かっての日本も、各種の国際機関によって制裁を受けた。

 1928年5月14日、上海反抗日軍暴行委員会は対日経済絶交を下した。 1937年10月5日、米大統領ルーズヴェルトは日本に対する「隔離演説」を行った。そして、国際連盟は1938年9月30日に対日経済制裁(連盟規約16条)を採択した。

 通称ABCD包囲網と呼ばれ、 1930年代後半 から 1940年代まで国連制裁が続いた。

*国連決議違反しているのに国連制裁を免除されている国々

 イスラエルが1948年にパレスチナ住民を銃で追い払い建国してから、イスラエルによる虐殺と破壊と侵犯を非難し、多数のイスラエル非難決議を総会で可決してきたにも拘らず、イスラエルには国連制裁が科されたことがない。

 今年の夏、イスラエルが2000人以上のガザ市民を虐殺しガザ市を壊滅した。そのガザ戦争を調査するため、国連人権委員会が当該地区に入ろうとしたら、イスラエルはこの国連委員会の立ち入りを拒否した。イスラエルの非人道的な戦争も国連調査の拒否も、明らかに国連憲章違反だ。しかし、国連安保理はイスラエルに制裁を科していない。

 アフリカでも同じように、モロッコがモロッコ占領地・西サハラで西サハラ被占領民を虐待し虐殺しても、国連安保理はモロッコに制裁を科さない。なぜならば、国連安保理では5常任理事国(米英仏中露)に拒否権という特権が認められていて、その内の一国でも反対を表明すれば、その議案は否決されるからだ。 イスラエルの場合はアメリカが、モロッコの場合はフランスが拒否権を使って、夫々の子分を庇っている。

 国連制裁は、国連決議を無視し続けるイスラエルやモロッコが制裁を免れている限り、公正公平とはいえない。 そのアメリカはベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争、シリア戦争…と、侵略戦争を続けている。

 どうして国連安保理から国連制裁から科せられないのか?

 アメリカは国連安保理の常任理事国で、拒否権を持っているからだ。アメリカの軍事侵攻に手を貸す国連自身も国連憲章第7章にある平和を脅かす存在だ。国連こそ国連制裁を科されてしかるべきなのに、どうして国連に国連制裁が科されないのか?

 国連制裁は公正ではない。 国際制裁は公平ではない。

 

 オーストラリアに集まった欧米首脳の面々は、明らかにプーチンを差別扱いし、最終日11月16日の会議では、ウクライナ問題でプーチンを締め上げようと、計略を練り芝居を打っていました。

 一方のプーチンは、そんな虐め首脳どもをすがめで見ながら、G20に参加していたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)など新興国側と会議を開き、経済協力を訴えました。英仏独などとの個別首脳会談やアメリカとのミニ会談も精力的にこなし、「お互いにより理解を深めることができた」と締めくくりました。

 「公式会議ではウクライナについて全く触れることはなかった」と、16日の総括会議をすっぽかし、白バイ警備警官の肩を叩いて労をねぎらい、G20にバイバイしたのです。 公正に見て、G20で一番目立ってスマートだったのはプーチンでした。

 

 虐めや仲間外しはダメ! ダメダメ!!

 

(文:平田伊都子、写真:川名生十)