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マスコミの解散風に煽られた安倍首相の専権

「日中両国が戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、関係を改善させていく第一歩になったと思う。海洋連絡メカニズムの実施に向けて、具体的な事務作業に入ることになる」

 

 安倍晋三首相は10日に行われた中国の習近平国会主席との初会談後、記者団を前にこう述べた。

 

 周知のとおり、会談に先立ち日中両政府は4項目の合意文書を発表している。この中で特に注目は関係悪化の引き金となった靖国参拝に象徴される「歴史認識」と尖閣諸島の「領有権」をめぐる文言である。

 

 雑感だが「歴史認識」については「歴史を直視し、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」とあり、つまりは一致しなかったわけだ。

 

 また、日本としては絶対に譲れない尖閣諸島の「領有権」には直接言及せず、尖閣諸島を含む東シナ海海域の「緊張状態」について「異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて危機管理メカニズムを構築し、不測の事態を回避する」に止め、領土問題を棚上げしたようにとれなくもない。

 

 それ故に安倍首相シンパの右派勢力からは弱腰外交との批判も上がろうが、むしろ多くの良識ある国民は対中関係改善の第一歩を踏み出したことを歓迎しているはず。

 

 もっとも、それにも増して政権発足から丸2年。安倍政権に向けられた国民の視線は日増しに厳しさを増しつつある。年末に控えた消費税率の引き上げ判断を誤れば、国民世論の反発は必至で政権の命運は尽きよう。

 

 そのせいか、このところ永田町では消費税率引上げ先送りを前提にした年内解散論が飛び交うのだ。

 

 火元は先の内閣改造で誤報を連発した読売新聞の9日付朝刊。安倍首相が引上げ先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが「8日、分かった」そうで、この場合「12月2日公示・14日投開票」か「9日公示・21日投開票」とする案が有力だとか。「複数の政府・与党幹部」から得た情報だとして自信満々。この報道につられるように各メディアが年内解散を煽る。もちろん、解散は首相の専権である。

 

(藤本順一)<t>

写真:首相官邸HPより