年内解散に口実を与える野党の審議拒否
国会で疑惑追及された安倍内閣の看板閣僚2人が20日、相次いで辞任した。
周知のとおり、小渕優子経済産業相(40)は後援会が主催した地元支援者向け観劇ツアーの費用負担をめぐる不明朗な会計処理が政治資金報告書の虚偽記載、あるいは公職選挙法上の利益供与に抵触するとの疑惑が浮上。さらに自身の政治資金管理団体が百貨店のベビー用品や化粧品などを購入していたことが発覚して公私混同の批判を受けた。購入した品物が選挙区有権者に渡っていれば公職選挙法にも問われる可能性がある。週刊新潮がスクープ報道したものだ。もっとも、小渕氏は辞任の記者会見で観劇ツアーの費用負担について自らの不徳を詫びたものの直接の関与を否定し、徹底調査を約束するに止めた。
もう一人、松島みどり法務相(58)については、地元有権者に配った「うちわ」が公選法上の利益供与に抵触するとの疑惑を民主党から突き付けられていた。ただ、これも松島氏は「うちわ」の配布は公職選挙法が禁じる「有価物」にあたらない、として違法性を否定。2人とも記者会見では国会の混乱、政治の停滞を辞任の理由をあげている。
「任命したのは私であり、任命責任は首相である私にあります。こうした事態になったこと、国民の皆様に深くお詫び申し上げる次第です」
2人の辞任を受けて安倍晋三首相はこの日、記者団を前にこう述べた。首相の任命責任は免れない。野党は今後も小渕、松島両氏の議員辞職を求めて安倍政権を揺さぶる構えだ。
ただ、冷静に現下の政治情勢を見極めれば、小渕、松島両氏はすでに東京地検特捜部に告発された身である。つまり本来、国会でさらなる説明責任を求め、追及すべき違法性の有無については司法の判断を待つより他にない。いわば、せっかく手にした追及カードをみすみす手放してしまったわけだ。それでどうやって、この2人にトドメを刺すつもりであろうか。しかも、松島氏を刑事告発したのは他ならぬ民主党なのだから、ずいぶん間が抜けた話である。
その点、安倍首相は強かである。疑惑の火の手が政権全体に広がる前に早々、2人のクビを切り、その日のうちに後任の経済産業相に宮沢洋一元内閣府副大臣を、法務相には上川陽子元少子化担当相の起用を決めて態勢の立て直しを急いだ。それでも野党がしつこく前任者の疑惑を持ち出し、国会審議に横やりを入れてくるようであれば、安倍首相はこれを口実に勝ちが約束された解散総選挙に打って出ることも可能になった。閣僚2人のクビと引き換えなら結果、安い買い物である。
(藤本順一)<t>
写真:首相官邸HPより