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“#not in my name”私は(ISISのような残虐な)イスラム教徒ではない

「“#not in my name”私は(ISISのような残虐・冷酷な)者とは違う!」。最近イギリスのイスラム教徒達がツイッターなどソーシャル・メディアで発信しているタグだ。

 フランスではアルジェリアで登山家の斬首映像が公開されて以来、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖職者が合同でISISを非難するなど、ヨーロッパ諸国のイスラム教徒の間でISISへの反発・批判が強まっている。

 

 イギリスでは9月13日、ISISが、イギリスがアメリカのISIS攻撃に協力しているとして、シリアで難民救援活動中のイギリス人活動家デイヴィド・ヘインズDavid Hainesさんの斬首映像を公開。

 これに対しイギリスの一般国民だけでなくイスラム教徒の間に急激にISIS批判が強まり、イギリス議会は圧倒的多数でイラク内のISISに対する攻撃参加を承認する。

 

 しかしISISはイギリスがアメリカのISIS攻撃に参加した事を非難し、2人目のイギリス人活動家アラン・ヘニングAlan Henningさんの斬首映像を公開する。

 ヘニングさんはイスラム教徒ではないが、イスラム教徒の友人が組織した救援団体に参加しシリアに入ったばかりだった。

 ヘニングさんの地元マンチェスターのモスクではイスラム教聖職者が、“ヘニングさんの処刑はイスラムの教えに背くものだ”などとISISをこれまでになく強く批判し、そのビデオが報道される。

 

 イギリスの一般国民及びイスラム教徒の批判は更に強まり、“#not in my name”のタグは急激に広まりを見せる。

 イギリス国内のイスラム教聖職者たち100人以上がビデオで、ISISの残虐行為はイスラムの教えに反するものだ、“ISISは反イスラムだ、加わるな”などと訴えている。

 

 イスラム聖職者たちはまたツイッターで「“#not in our name”我々はISISのような残虐なイスラム教徒とは違う!」とのタグも広め始める。ロンドンのシャリアsharia(イスラム法)評議会の判事もISISの残虐行為を否定し、人質家族の助命嘆願に加わっている。

 

 またアルジェリアではフランス人登山家エルヴェ・グルデルHerve GourdelさんがISIS影響下の過激派に拘束される。家族の助命嘆願にも拘わらずグルデルさんの斬首映像が24日公開される。

 ISISの活動がシリア、トルコ以外のイスラム過激派に影響を及ぼしていることが明らかになる。

 

 この事件にパリを始めフランス各地で、キリスト教、イスラム教、それにユダヤ教の聖職者代表が合同で集会を開き、ISISの残虐行為を非難し、若者達にISISに加わらないよう呼び掛けている。

 フランスではイギリスの“#not in my name”を知り、同じ趣旨のタグのフランス語版が広まっている。

 

 一方ドイツ統一記念日の10月3日は政府主催の記念式典が行われるが、同時にドイツ国内のイスラム教徒が各地でモスクを一般ドイツ人に公開する行事が定例化している。

(ドイツのイスラム教徒は大半がトルコ系、次いでクルド系。トルコ政府が漸くアメリカ軍のトルコ内基地の使用を認めたが、トルコ自身の対応が消極的であることにいら立ちを強めている)

 

 サウジアラビア、ヨルダン、カタールなど中東5カ国が、アメリカの空からのISIS攻撃に参加した先月下旬、カタールの首長がベルリンを訪問。

 カタールはISISに資金を提供していないと言明するなど、中東政府首脳もISISの残虐行為に距離を置き始めている、と強調する。

 

“イスラム過激派”の形容詞と共にISISの報道が繰り返され、ヨーロッパのイスラム教徒が移住以来最大の危機感を抱いている。カタール首長の発言には、その危機感への配慮もうかがえる。

 

 今やヨーロッパのイスラム聖職者たちはモスクの中でイスラム教徒に教えを説くだけでなく、(外の)社会に向かって“ISISの残虐行為はイスラム教の教えではない”、“イスラム教は平和の宗教である”と繰り返し訴え始めている。

 

 ヨーロッパのイスラム教徒のISIS批判の広がりを呼応するように中東一の大国エジプトのイスラム教高位聖職者もISISの批判を始めるなど、中東各国のイスラム教聖職者の動きも活発になっている。

 腰の重かったトルコでもISISに参加する各国の若者のシリア入国と出国を監視、拘束を強化したが、ISISの活動が衰える気配は無く、エルドアン大統領に対する批判が強まっている。

 

 イスラム教徒達に広がる批判にもISISは耳を貸そうとしない。ヘニングさんの処刑に次いで、3人目のアメリカ人の処刑を予告している。

 果たしてイスラム教徒の指導者・聖職者たちが欧米と中東でISISの宣伝活動に抗して若者達がISISに加わるのを阻止できるか、イスラム指導者達の対ISIS活動はイスラム社会の今後を占うものになるかも知れない。

 

(大貫康雄)

画像:YouTubeより