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NHK退職者有志、具体例を挙げ危機を訴える

 右翼的経営委員の人選、就任以来暴言を吐く籾井会長の任命など安倍政権の露骨な介入で、NHKに実際今何が起きているのか。NHKの現状に危機感を抱いたNHK退職者有志が籾井会長の罷免を求める活動を始めた処、呼びかけ人と賛同人は合わせて1500人以上に上り、8月経営委員会に申し入れを行った。

 退職者有志はその後、報道の劣化、経営委員会の不作為、対応の鈍さなど、具体例を報告書にまとめた。有識者有志は改めて公共放送と民主主義の危機を訴え、更に賛同を呼び掛ける活動を続けることを表明した。

 

 NHK有識者有志の活動は呼びかけ人の会見後の8月後半、一部のメディアで報じられているので知る人も多い。

 ここに報告書の一部を紹介し、呼びかけ人が指摘する要点を紹介する:

 

1.集団的自衛権の行使容認問題で「ニュースウォッチ9」は34回放送。そのうち、安倍政権関係者の発言や動向を扱ったのが凡そ114分。それに対し容認反対の識者や市民の声を紹介したのは僅か77秒だった。

{以上、放送を語る会の元ディレクター・戸崎賢二氏}

(実に100対1に近い。殆ど一方的。公正中立は一体どこに行ったのか。アカラサマな放送法違反だ)

 

~放送法は、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、と記している~

(主要ニュース番組の「ニュースウォッチ9」が圧倒的に政府を代弁、政府の広報機関と化している例は他にも数限りない)

 

2.籾井会長は“就任会見で日本軍慰安婦に関し、日本だけが非難されるのはおかしい”との趣旨で、「戦争している国にはどこにもあった」と発言。これは驚くべき歴史の偽造。NHKはアジア太平洋地域の放送機関連合ABUの有力な一員。籾井氏の発言はアジア諸国にとっても、また日本の戦争責任を考える多くの市民にとって到底受け入れがたいもの……。

 1993年の「河野談話」は、吉田清治証言を根拠としていない。このことは2月の国会で石原信雄・元官房副長官がそう証言し、「焦点は女性たちが意に反して慰安婦にされたかどうかであり、これを調べるため国内とアメリカの公文書230点余りを調べ、16人の被害女性の聞き取りを行った」と述べている……。

 96年の国連のクマラスワミ報告には吉田証言が引用されているとの批判も出ているが、この報告では吉田証言の4倍くらいの字数で秦郁彦氏の反論も引用し両論併記……。

 「慰安婦制度」が国際的に知られるようになったのは吉田証言からではなく、1991年8月、韓国の「慰安婦」被害者・金学順(キム・ハクスン)さんが名乗り出たからである。前年90年に日本政府が国会で「『慰安婦』は民間業者が連れ歩いた」、と答弁したのを知り、「嘘だ!」と憤って。

 日本のジャーナリズム(NHKも含め)は事実確認も検証もなしに暴論と虚報を垂れ流してきた右派のメディアや政治家達の犯罪性を明らかにすべき……。

{以上、元教養番組ディレクター・池田恵理子氏}

3.取材・番組制作の現場では誰を人選するのかとか出演者は誰にするのか?など上司の関与が増えている。放送現場の自由な雰囲気が無くなっている。

 

4.申し入れに対し経営委員会は、最初は軽視、その後も鈍く、不作為。

 7月18日、172人の呼びかけ人が最初の申し入れをした時、経営委員は面会もせず、担当職員が受け取っただけ。8月21日経営委員会に再度申し入れの時は経営委員会の上村達男・会長職務代行者が、今回は数も多く単に“重く受け止めます”と取材に応えている。

 しかし8月26日の経営委員会では、「結論や集約の出来る段階でない」と判断、委員会は「回答はせず、推移を見守る」で終わる。

 記者向けのブリーフィングで浜田健一郎委員長は「対象となる方(退職者)10500人くらいの内、約1割の方が署名されたのは、まあ少ない数字ではないのか」などと答えたという。

(取るに足りないものとして軽視する姿勢)

 

5.呼びかけ人の声:

*大治浩之輔氏(元社会部記者・盛岡放送局長)

 どんなに民主的な制度でも、現実にそれを運用する政治家や責任者たちが、民主的精神を欠いていれば、どんどん歪んでいく。今そういう危機が起きている……。

*川崎奏資氏(元政治部記者)

 1970年当時の雑誌「くらしの手帳」が「NHKは事実を曲げて伝える御用放送」と書いた。同じ年、日放労のアンケートでは、60%がNHKは御用放送機関と答えている。

 50年前のことだ。NHK国営化の道はそこまで来ている。NHKの現場は声を挙げよ。

(事態は国営化の危機と言えるまでに悪化している)

*小池晴二氏(元デザイナー)

 旧ソビエト時代のモスクワ放送の記者は、“国の政府の意見をきちんと国民に伝えるのが放送の使命だ”、と答えた。当時、ある落語家は“先日某国営放送に招かれて出演した…”と平然と言っていた。

(今まったくそのことが起きつつある)

 

 NHK退職者は今年1月、籾井勝人会長の就任記者会見での発言やその後の言動に対し2月以降首都圏、関西、名古屋など各地で次々と懸念を明らかにし、会長、及び右翼的言動を繰り返す経営委員たちの罷免を求める活動を始めた。

 浜田健一郎NHK経営委員長に“少ない数”と言われた有志の会は、それではもっと多くに呼びかけることにした。

 

 今後退職者宛てに葉書やメイルを通し、5000人を目標に更に賛同者を募り、一般の人たちにも協力を呼び掛けるという。

 NHK退職者がこれまでNHKの現状に危機感を覚えて活動に立ちあがった例は聞いたことがない。

 

(大貫康雄)

PHOTO by Rs1421 (Own work) [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons